◆品質・誠実・奉仕が世界に事業展開する“種屋の原点”
さかた・ひろし 昭和27年 神奈川県鎌倉市生まれ。昭和49年 慶應義塾大学経済学部卒業。同年(株)第一勧業銀行(現:みずほ銀行)入行。同56年 坂田種苗(株)(現:サカタのタネ)入社。 平成2年SAKATA SEED EUROPE B.V.(現:SAKATA HOLLAND B.V.)総支配人。同6年(株)サカタのタネ社長室次長。同10年 取締役就任。同17年 常務取締役。同19年 代表取締役社長に就任、現在に至る。 |
――御社は1913年(大正2年)に農商務省(現農林水産省)の海外実業練習生だった坂田武雄氏が欧米で研修をし帰国されて創業されたのですね。
「祖父の坂田武雄は、欧米をまわっての研修を終えてまず苗木の輸出から始め、その後、種子事業に取り組み今日にいたっています。その当時から種子事業は、信用・信頼が何よりも優先される職業ですが、信用・信頼をいただくには時間がかかります。そして種子の仕事は研究開発が基本ですが、非常に年数のかかる仕事です。それらを一歩ずつ積上げてきたのが当社の歴史だといえます」
――創業者は事務所にはあまりお金をかけるなとおっしゃっていたそうですね。
「研究開発が当社の命です。農場や発芽試験の施設などにまず投資をし、本社は最後でいいとの思いから、それを実行してきました」
――そういう考え方を貫かれてきているわけですね。
「品質・誠実・奉仕が社是ですが、これが“タネ屋”の原点だと考えています。海外では、クオリティー・リライアビリティー・サービスと訳していますが、この言葉は時代と国境を越えたグローバルな言葉だと思いますね」
◆世界130か国以上で活躍するサカタのタネ
――海外へ事業を展開されていますが、社長ご自身も海外での経験がおありになる…
「オランダで6年勤務していました。同国は貿易立国であると同時に、園芸種子・球根などが盛んな国で、種苗業も古くからの歴史がある国です」
――チューリップと風車というイメージが強い国ですね。
「国土の4分の1が海面下ですから環境問題に敏感です。そしてライン川の海への出口ですから、ヨーロッパ各国を流れ汚染されたものが堆積されることからも環境問題に敏感です」
――御社はどのように海外展開されているのでしょうか。
「1977年に米国にサカタ・シード・アメリカを設立し、その後、私がオランダに行き90年にサカタ・シード・ヨーロッパを設立しました。米国やヨーロッパとの取引は戦前からありましたが、より良いサービスを提供するために現地法人を設立したわけです」
――ヨーロッパはオランダが中心ですか。
「ヨーロッパはその後オランダから本拠地をフランスに移しました。それを基軸にスペイン、イギリス、オランダの子会社やポーランドの合弁企業があります。その他の地域を含めて19か国に拠点をもち、130か国以上で当社の種子が使われています」
――事業は伸びてきているわけですね。
「私がヨーロッパに在住しているときに東西ドイツが統合しましたし、東ヨーロッパを含めたEUの市場統合がありましたので、テリトリーが広がってきていることもあって、事業は伸びていますね」
――そのベースにあるのは信用ですか。
「基本的には信用ですね。」
――それは人を中心としたものですか。
「もちろん人のつながりは大きいですし、それに裏打ちされた信用もあります。それと同時に、種子の品質に裏打ちされた信用があります」
◆植物による環境問題への貢献もこれからのテーマ
夏の暑い中でも元気に咲くサンパチェンス。 環境浄化能力にも注目が集まる
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――その背景には食糧問題や環境問題もありますか。
「なんらかの形で食糧問題や環境問題に貢献できればと考えています」
「食糧問題ではメインは穀類になりますが、私どもは園芸分野が中心ですので、生産者が作りやすく量が多く取れる野菜品種の開発や、栄養価の高い機能性野菜の研究開発をすることで貢献できればと思います」
「環境問題では、最近紹介させていただいているサンパチェンスという花があります。この植物は従来の植物と比べて、二酸化炭素の吸収量が4〜6倍、排気ガスに含まれている二酸化窒素の吸収量が5〜8倍、ホルムアルデヒドの吸収量が3〜4倍高いなど、環境浄化能力が高い植物です。それから蒸散能力が高いので、植えておくと結果として周囲の温度が下がるという“打ち水効果”もあります」
――夏の花なんですね。
「夏の花として暑さに強くきれいな花はないかということで開発した花です。サンパチェンス自体も太陽光が好きで直射日光の下できれいに咲く花です。と同時に環境浄化能力が高いということで、いま注目を集めています」
「今後は、このような植物による環境問題への貢献ということも大きなテーマだと考えています」
◆消費者ニーズに応えたオリジナリティある品種の開発を
――花だけではなく、プリンスメロンやアンデスメロンそしてトマトとか、農産物でもずいぶん貢献されていますが、今後の国内農業への戦略としてはどういうことを考えていますか。
「私どもの基本は研究開発ですから、オリジナリティがある品種を開発していくことが、一番重要だといえます。そのためには、生産者や流通の方々のニーズそして最近は消費者のニーズが重要になっていますので、そうした点を加味して開発していくことが重要ですね。そうしたなかに地球温暖化ということも重要な要素として入ってきますね」
「作物としては、トマト、ホウレンソウ、メロン、ブロッコリー、トウモロコシ、ネギなどを重要品目としてさらに押し進めていこうと考えています」
――王様トマトも御社の開発でしたね。
「王様トマトは、樹で赤く熟してから収穫でき、輸送に耐え日もちがする当社のトマト品種のブランド名で、現在は7品種あります。ちなみに当社では“完熟”といわずに“赤熟”といっております」
――スイートコーンもそうですね。
「甘いコーンとして“ハニーバンタム”をご紹介し、その後黄色と白の“ピーターコーン”を発売しました。そしていまは黄色い“ゴールドラッシュ”を販売しています。トウモロコシの歴史は長いですし、当社にとっては重要な品目です」
――遺伝子組み換えについてはどうですか。
「遺伝子組み換え品種の販売はしていません」
「遺伝子組み換えは育種研究の一つの手法ですが、安全性が確認されなければ使えない手法だと考えています」
◆海外の研究施設も含めてコントロールする掛川総合研究センター
――「研究が命」ということですが年間に何品種くらい新品種を出しているのですか。
「野菜が10品種程度で、花では50〜60品種くらいですね」
――そういう開発などを行っている研究施設は国内にいくつあるのですか。
「北からいいますと、冷涼・高緯度地域に適応する野菜を中心とした育種を行っている北海道研究農場。そして大型産地を抱える関東平野にあって野菜の育種を行っている千葉県の君津育種場、高冷地に位置し、そうした条件の産地向けの花と野菜を手がけている長野県の三郷試験場。そして当社最大の野菜と花の研究開発基地である静岡県の掛川総合研究センターの4拠点があります」
――海外にも研究施設があるのですか。
「アメリカ、コスタリカ、ブラジル、フランス、デンマーク、南アフリカ、韓国、タイにあります。北半球と南半球にありますから、日照時間や温度などの気候条件の違いを利用して効率的にデータを収集して、研究開発期間の短縮ができるなどのメリットがありますね」
――掛川総合研究センターが核になっているわけですか。
「国内外の研究センターのコントロールタワーになっています。32haの面積があり、グローバルな視点から幅広い品目の育種を行うと同時に、病理と育種工学の拠点となっています」
――最近は屋上緑化とかサッカー場の芝とかにも取り組まれていますね。
「もともと屋上緑化には取り組んできていましたが、最近、環境が問われる時代になって、よりニーズが増えてきましたね。しかし、屋上をただ緑でカバーすればいいというものではありません。当社は植物をよく知っていますので、キチンとした土壌や環境を整えどういう植物が屋上緑化に適しているかまで含めて提案をさせていただいています」
――提案ということは、設計からということですね。
「はいそうです。屋上だけではなく壁面の緑化についても取り組んでいますし、学校の校庭や公園の緑化にも取り組んでいます」
◆地域でのJAのリーダーシップに期待したい
――日本の農業についてどのようにみていますか。
「さまざまな課題があり、非常に厳しい岐路に立たされていると思います。これからを考えた場合、産地のブランド化や流通を確保して生産者の経営基盤をどう確立するかが大きなポイントになるのではないでしょうか。そこにJAの役割があると思います」
「生産者と一番関係が深いのはJAです。農業は地域でつながっていないといけないと思いますので、JAがそれをリードしていって欲しいと思いますね。とくに、どういう品種を採用するとか、栽培指導についてはぜひリーダーシップを発揮していただきたいですね」
――メーカーとしても栽培指導はしているのでは…
「私たちも行っていますが、地域の気候や特徴をよくご存知のJAが行うのとでは、やはり違いますからね。」
――今日はありがとうございました。
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