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この人と語る21世紀のアグリビジネス

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加藤孝道氏

カネボウ化粧品販売(株)代表取締役社長執行役員
加藤孝道氏

 昭和12年から化粧品事業を始め、昭和40年代からは農薬から手を守る"カネクタン"で農村女性の健康と美を守ることに貢献してきたカネボウ化粧品販売の加藤孝道社長に、化粧が人にどのような働きをするかなどを聞いた。

化粧することで人生をエンジョイしてもらう

   FEEL YOUR BEAUTY

     一人ひとりの美しさを

 ◆“カネクタン”から“シルキー”へ

kanebo.jpg ――御社とJAグループとのお付き合いは、昭和40年ごろに手を保護するクリーム“カネクタンF”からですか。
 「カネクタンは当初は工業用産業用保護クリームとして開発されたものですが、農薬から皮膚を守るクリームとして全農(当時は全購連)との取り引きが始りました。その後、Aコープマークも付けていただき、“取り引き”から“取り組み”になりました」
 ――農村女性もお化粧に関心がありますから、カネクタンFを扱うことになって、非常にセンセーショナルな話題になりましたし、女性の組織化に貢献されたと思いますね。
 「これがきっかけになって、昭和60年には全農から要請があって、正しい美容法の普及のためのプライベートブランド“シルキー”の開発へと発展しました」
 ――“シルキー”とは絹からの命名ですか。
 
「創業は繊維会社ですので、絹糸をつくるためにいろいろ研究していましたが、肌にも良い効果があるので化粧品事業に入るときに応用しようということだったと思いますし、化粧品事業は昭和11年の“絹石鹸”からスタートし、その後もいろいろと研究をしていますが、そういう意識が“シルキー”という命名になったと思います」
 ――“シルキー”開発当初はどういう化粧品でしたか。
 「はじめは化粧水、乳液、クリームの3品でした。その後平成元年にラインを拡充して現在は15品を販売しています」

◆立地と人と人の絆が販売の条件

 ――入社されたのは神戸で、その後関越地区本部長になられていますが、これは関東エリアですか。
 「当社では、千葉・茨城・埼玉・群馬・栃木・長野・新潟の7県を関越としています」
 ――ずっと営業畑ですか。
 「入社以来営業経験しかありませんが、売り場に対しては自分なりのこだわりがあり、お店で売り場を見させていただくのが大好きです」
 ――化粧品が売れるのはお店の立地ですか。
 「化粧品だけで来店していただくのは難しく、生活全般のお買い物の流れのなかでの化粧品ということになりますから、お店そのものの集客力があるとか、立地が良くてお客様がお立ち寄りになるところは、売上高も高いです。しかし、立地条件が悪くても、お店が長年にわたってお客様と真剣に接して信頼関係ができているお店もたくさんあり、そういうお店は売上げも高いですね。そういう意味で人と人の絆が大きな要素としてあり、単純に立地だけとはいえないと思います」

◆真のサービスはお客様の目線で考えること

 ――“FEEL YOUR BEAUTY もともと女性には潜在的に美しいものがある”をコーポレートスローガンとされていますね。
 「平成16年に、旧カネボウから分離独立したときに、経営理念からコーポレートスローガンをすべて新しくしました。いまでは取引先とも共通のイメージとして定着しました」
 「最近は、脳科学者の茂木先生と共同でお仕事をさせていただき、化粧をする行為は外形を美しくするだけではなく、女性の内面に働きかけることも分かってきましたし、コミュニケーションとしての役割も果たしているのではないかということが分かり始めています」
 「化粧という習慣自体について社会的にアピールしていく時期にきているのではないかと考えています。そうなりますとFEEL YOUR BEAUTY”という言葉がさらに意味を持ってくるのではないでしょうか」
 ――化粧というと厚化粧とか悪い意味に使われたりもしますが、御社は女性はもっと美しくという意味で使われていますね。
 「一人ひとりにそれぞれの美しさがありますから、お客様目線で個々のお客様の美しさを引き出して差し上げ、より美しくなるための商品と情報・サービスを提供することを心がけています。私が入社したころは“キャンペーンメイク”といわれ、一つのパターンをご紹介することがサービスでしたが、いまはお客様一人ひとりに目を向けていかないと真のサービスとはとらえていただけない時代になったといえます」
 ――最近はアンチ・エイジングということがいわれていますが、50歳代むけとかもあるのですか。
 「いままでは50歳代を前面にだすことは業界ではタブー視されていましたが、それでは実際にお客様が売り場で商品を選択されるときに選びにくいということで、このタブーを破って初めて50歳代を対象に“EVITA”というブランドを発売しました」
 ――売れていますか。
 「これが私たちの年代の化粧品ということで、大変好評をいただいています」

◆紫外線量が最も少ないのは2月から3月

 ――最近は日焼け予防とか美白ということがよくいわれますね。
 「人の皮膚は季節を後追いするそうです。そして2〜3月が一番肌が色白なんです。冬を越えて春に向かって、ダメージを受けた肌を中から一所懸命にきれいにしていく作用が働いているからです。しかし、逆にいうと無防備な状態だともいえます。そしてこの時期から紫外線が増えていく時期でもあるので、紫外線予防に真剣に取り組んでいただく必要があります」
 「美白というと夏とか春先というイメージが強いのですが、春の少し前から予防とお手入れをしていただくと一番いいといえます」
 ――農家の女性の関心は日焼けとか美白でしょうね。
 「JAの女性部からは美白への情報をといわれています。化粧について正しい知識を提供することが一番役に立つことだといえます」
 「年齢に関係なく常に美しくありたいという意識をお持ちですし、それをどれだけお手伝いできるかですね。外出する機会が増えるとお化粧する機会も増えますから、消極的な人が積極的になるなど、性格まで変わる可能性があります」
 「大げさな言い方をさせてもらうと“人生をエンジョイするために役立っているのが化粧”といえますし、お客様に喜んでいただけるすばらしい仕事だと考えています」
 ――今日は楽しいお話をありがとうございました。

【略歴】
(かとう・たかみち)
 昭和28年静岡県生まれ。51年慶應義塾大学商学部卒、同年カネボウ化粧品兵庫販売(株)入社。平成16年(株)カネボウ化粧品ストア営業推進室長、18年カネボウ化粧品販売(株)関越地区本部長、19年同社執行役員・関越地区本部長、21年3月から同社代表取締役社長執行役員兼(株)カネボウ化粧品取締役執行役員。

 


インタビューを終えて

 夢と感動をもたらす事業のカネボウ化粧品。JAグループとの付き合いは意外に古い。                          
 昭和40年代農薬の危害防止として手に刷り込む「カネクタンF」を全農生活部とカネボウが開発して以来、Aコープマーク品に引  き継がれ、化粧品取扱高5億円を超える。                                                     
 加藤さんは中学、高校、大学と野球部に席をおいた。ピッチャーとショート。趣味は草野球と謙遜されるが本格派。東京六大学野  球の神宮球場でプレーした。慶応義塾大学硬式野球部の名刺を持ち歩くのが当時流行ったという。同僚にプロ野球の選手になっ   た人はいないが、2年先輩に山下大輔元横浜・大洋監督がいた。                                        
 社内では営業畑が長く、洗練されたマナーでのインタビューだった。千葉県市川に住む。休日は近くの「道の駅」まで奥様とドライ  ブ。地元産の美味しいお米や野菜を選んで買うのが楽しみ。(坂田)                                      

【著者】インタビュアー坂田正通(本紙論説委員)

(2009.07.22)