自分が米になりきることで
新たな技術を開発
◇海の汚れをなくしたいと無洗米を発想
――無洗米の技術を開発される発端は海の水が汚れているのを見たからだとお聞きしましたが、具体的にはどういうことですか。
「淡路島に渡ったときに20年前に比べて海水が汚れていました。その原因はいろいろあるだろうけれど、その一つに米のとぎ汁も間違いなくある。自分の仕事の関係でいえばそれをなくすことだと考え、無洗米の研究を始めたわけです」
――そして滋賀県から表彰されましたね。
「米のとぎ汁を出さないBG無洗米は川や湖などの水質保全に貢献しているということで、平成10年に滋賀県エコライフびわ湖賞をいただきました」
――下水処理するよりも水質保全にはいいわけですか。
「一般には下水処理されればきれいになっていると思われています。しかし、例えば東京都は下水処理に毎年1000億円かけていますが、実際には有機物は分解できますが、リンは半分くらいしか除去されていません。そのリンが海や川に流れて赤潮などの原因になっているわけです。びわ湖でも同じ状況でした。ですから、汚染物を流さないことが何よりも重要なんです。」
◇糠を研究することでできた金芽米
――そして最近は、均圧精米法を開発されていますね。
「無洗米は環境がテーマでした。さらに健康ということを考えて開発したのが、オリゴ糖など、うまみ成分を多く含む亜糊粉層(あこふんそう)や栄養豊富な金芽(胚芽の基底部)を残す均圧精米法です」
――いままでは亜糊粉層はどうなっていたのですか。
「いままでの精米機では、ヌカと一緒にとれてしまっていたわけです。これをなんとか分けていいところを米に残したいと考えて研究してきました。そして完成したのが“均圧精米法”という独自の精米法です」
――金芽米も無洗米ですね。
「金芽や亜糊粉層は水で洗うと取れてしまうので、とぎ洗いしなくてもいいようにBG無洗米仕上げをして、肌ヌカをきれに取り除いているわけです」
――いつごろからそういうことを考えていたのですか。
「30歳代です。そのときに米偏に康と書いて“糠”(ぬか)です。だから糠は健康にいいのではないか。糠を取ってしまった白米は、米偏に白で粕(かす)だ。いいところを取ってしまった粕の白米をわれわれは食べているんだと思いました」
――糠がいっぱいついた米は…
「玄米です。だけどこれは食べにくい。だから2?3日は続くけれど、後が続かない。そこで糠を研究していくと、糠のなかに金芽とか亜糊粉層が混じっているので、これらを残して食べにくい糠だけを取り去ってしまえばと考えました。なかなかできませんでしたが、数年前にようやくできたわけです」
――そういう技術はどうやって考え出すのですか。
「自分が米になりきるんです。そして精米機のなかで揉まれる状況を想定し、ここで頭を打たれ、あそこでこうなる。こうすればいいのではないかという仮説をたててそれを実験で確かめる。ほとんどの場合当たりませんが、なぜ当たらないかをまた考えるわけです」
――“自分が米になりきる”のはどういうときですか。
「新幹線に乗っているときとか飛行機にのっているときにそういうことをしているんですよ。私は“心の散歩”と呼んでいますが、米になったり、機械になったりして、いろいろと考えています」
◇産地銘柄ではなく基準をクリアした米で
――貴社は機械を販売していますが、金芽米の機械は売っているわけではないのですね。
「一般的に原料米の選択は機械を入れた米屋さんの自由です。だからいろいろな品質のお米があります。同じ品種銘柄でもいろいろな米があるわけですから…。私は米も玄米段階ではなく、消費者に渡るときにブランドによってはっきり品質などが分かるようにすべきだと思います」
「質の悪い米を金芽米にすれば、金芽米は“まずい”と思われるので、トーヨーライスという会社をつくり、この会社が金芽米のメーカーとして販売していくことにしました。ここで原料米の購入からすべてやっています」
――品種銘柄は決まっているのですか。
「同じ産地銘柄でも千差万別で、年や気象条件で変わるので、産地銘柄を決めず自社製の食味測定機によって一定の基準をクリアした米を使います。場合によってはブレンドすることもあります」
――発想の転換ですね。
「金芽米については、どこで買っても同じものです」
――これから相当に売れていきますね。
「いいえ、お米というものは保守的な商品で、いままで食べていたものを食べ続ける傾向がありますから時間がかかると思います」
――金芽米をみんなが食べるようになると食料自給率もあがりますね。
「自給率を高めるには、私は米と大豆だと思います。米の消費量が落ちるにつれて成人病が増えていますから、もっとご飯をベースにした食事にし、需要をもっと増やさなければいけない。そのためには美味しい米を増やして自然とご飯を食べるようにすることです」
「大豆は外国産が安く量も多いので、もっと国内生産を増やさないといけないし、国産大豆の需要を増やす工夫が必要ですね」
――今日はありがとうございました。
【略歴】
(さいか・けいじ)
昭和9年生まれ。昭和24年和歌山市城東中学校卒。24年家業(食糧加工機販売業)に従事、36年東洋精米機製作所を立ち上げ、法人化に伴い株式会社東洋精米機製作所に入社、38年財団法人雜賀技術研究所を設立し会長に就任、59年株式会社東洋精米機製作所取締役に就任、60年株式会社東洋精米機製作所代表取締役社長に就任、平成17年トーヨーライス株式会社代表取締役社長に就任。
現:株式会社東洋精米機製作所代表取締役社長、トーヨーライス株式会社代表取締役社長、財団法人雜賀技術研究所会長。
インタビューを終えて
雜賀社長には、10年ほど前に無洗米の開発でインタビューした事がある。それからさらに技術者として改良を重ね「金芽米」を世に出しヒットさせた。飛行機や新幹線の座席など、一人静かな時間は常に技術的改良を「考えている」。自分を「米粒」に擬したり、逆に精米機になったり頭の中で不用な「糠」を米粒から削る研究をしてきた。コンセプトは美味しさの追求とお米の消費拡大にあるという。毎日食べるご飯だから、若い人がおいしいと感じて少し多めにご飯を食べるだけで米の消費拡大につながる。結婚50周年になり、海外旅行を計画していたがインフルエンザ騒ぎで取り止めに。ご夫人は、相談役の肩書きを持ち、和歌山の工場で、製品発送の仕事を続けている。いわば共働きである。長男は、会社取締役、娘婿はトーヨーライス?副社長。お孫さん4人。金融危機・不況でも経営は安定。過去60年赤字はないです、淡々と話す。(坂田)