◆世界的に追い風が吹いている農業関連ビジネス
――昨年の10月にそれまでのGE社からアリスタに来られたそうで、初めての農業分野にはどのような感想をお持ちですか。
「世界的に人口が増加していること、そして経済的にも景気が上向きになってきていることなどから、食料供給に対するニーズは高まってきています。それはとりもなおさず農業関連ビジネスに対するニーズが高まることだという期待感を持っています」
――世界的には農業にビジネスチャンスがあるわけですね。
「農業に関わるビジネスはますます重要になります。それは短期的にではなく、中長期にわたって重要だと私は考えています」
――日本でも農業は重要だと考えられていますが、農家も農業ビジネスも儲からないといわれています。しかし、社長のようにグローバルな視点でみると農業にビジネスチャンスがあるということですが、中国とかインド、ブラジルなどこれから発展する国へはどのような戦略で臨むつもりですか。
「中国、インド、ブラジルなどは人口増加に伴って大きな期待が持てます。それに加えて私はアフリカに非常に注目しています。アフリカも人口が増えていることと同時に、農業に関するビジネスで追い風が吹いていると見ています」
「アリスタはユニークな会社で、世界展開をして各国でビジネスを行っていますが、とくにアフリカ、そしてベトナム、さらにチリ、コロンビア、ブラジルなど南米地域でビジネスが進展していくのではないかと期待しています」
――日本ではどうですか。
「日本では、殺虫剤のオルトランを通じていいポジションにありますので、引き続いて注視していきたいと考えています」
――グローバルにビジネス展開されているのに、なぜ本社はコストが高い東京なのですか?
「日本が好きだから・・・(笑)」
「この会社が、日本の(株)トーメンとニチメン(株)の農薬及びライフサイエンス事業を統合してスタートしたという歴史的な背景を重要視しているからです」
――社長もGEの仕事で日本に住まわれたことがあるそうですね。
「2年間、東京の赤坂に家族で住んでいました」
◆潜在需要がありこれから伸びる天敵農薬
――天敵など生物農薬がいま注目されていますね。
「私にとってかつてはそれほど印象が強くなかったのですが、最近は知る機会が増えるにしたがって非常にエキサイティングしています。これは、ビジネスとして潜在的な需要があると同時に、環境にやさしいこともあって、生産者や消費者から温かく迎えられていますから、将来に向かって伸びるし意義があるビジネスだと考えています」
――天敵農薬のマーケットは日本だけですか。
「オランダを中心にスペインとか欧州で使われていますが、私どもの会社ではありません」
――日本では主にどの地域で使われていますか。
「九州とか四国などの施設栽培が中心です」
――そうした地域でもっとも使われているのはどういう天敵農薬ですか。
「ハウス栽培のナスやピーマンなど果菜類で問題となっているアザミウマ類やタバココナジラミ類を同時に防除できるスワルスキーカブリダニを製剤化した“スワルスキー”。そしてハダニ類の捕食性天敵であるミヤコカブリダニを製剤化した“スパイカルEX”です」
――何種類くらい天敵農薬があるのですか。
「わが社にはこのほか、ハダニ用でもう1つあります。その他、コナジラミで3商品、スリップスで3商品、アブラムシで2商品、ハモグリバエで1商品があります」
――天敵が普及してきた経緯はどういうことだったのでしょうか。
「天敵の普及は、過去にイチゴ農家のハダニ防除を中心に浸透しましたが、その後、高知県のハウス栽培のナス、ピーマン、ダッチライト型温室を利用したトマト栽培などで使われていました。そして使いやすいスワルスキーが出たことで、高知県以外のいままで化学農薬を使用していた農家でも使われるようになりました。
スワルスキーはナスやピーマンだけではなく、キュウリなど他の作物への展開ができるのではないかと期待をしています」
◆露地栽培でも使える技術を13年までに確立する
――さらなる展開が期待できるわけですね。
「いまは野菜のハウス栽培だけでも潜在需要があるので、まずこれをしっかり固めてから拡大していきたいと思います」
――これからの天敵の新たな展開としてはどういうことがありますか。
「スワルスキーの施設カンキツへの適用拡大からも分かるように、今後は、野菜以外の作物への展開も期待できると考えています。
また、オランダで開発された天敵専用散布機(ブロア)を活用した、より省力化技術を農家に紹介していきたいとも考えています」
――果樹とか露地栽培ということですか。
「露地栽培でも使える技術は2013年までに確立したいといま取り組んでいます」
――それは画期的なことですね。品目としては・・・
「りんごなどの果樹で技術を確立したいと考えています」
◆農家レベル解決できるような提案をしていく
――日本では自給率が低いことが問題になっています。一方で米国などから買えばいいという人もいますが、どうお考えですか。
「基本的に国内の農業を大事にしていくことだと考えます。ただ、農業に関しては私の経験が浅いので多くのことをまだ語れません。しかし、アリスタという会社を通して、天敵に限らず環境に優しい製品を次々と開発していきたいと考えています。
そのことで生産性を上げるとか、環境に優しいとか、農家のレベルで解決できるような提案をしていくことはできると考えています」
――具体的にはどういうことがありますか。
「天敵農薬を中心としたIPM(総合的病害虫・雑草防除)とか、臭化メチルに代替する環境に優しいヨウ化メチルについて昨年に農薬登録が取得できましたので、11年に上市するつもりですが、これらは環境問題も含めて日本農業のお役に立てるものだと確信しています。
こうした製品などを通して、農家の手助けをしていくことで、私たちは日本農業の発展のために、お役に立ちたいと考え仕事をしています」
――今日はお忙しいなか貴重なお話をありがとうございました。
【略歴】
Wayne Hewett) 1964年10月28日生まれ。ジャマイカ出身。米国籍。スタンフォード大学において産業工学の学士号と修士号を取得。GE プラスチックス太平洋地域の社長、GEサプライチェーン・アンド・オペレーションズの副社長およびGE Advanced Materials の社長兼CEOなどGEのさまざまな国際部門において20年以上に亘る経験を持ち、GE経営会議メンバーとして活躍、昨年10月にCOOとして入社、10年1月から現職に。
インタビューを終えて
ウェイン・ヒューエット社長は、昨年10月にCOOとして入社、今年1月に社長に就任。前社長のリチャーズ氏は会長へ。これからは農業が重要であるとして、GEの役員から異業種への転職を決断した。GE時代に2年間家族と日本に駐在した経験があり、ラブ・ジャパンという。アリスタライフサイエンス(株)は、本社が東京中央区の聖路加タワー38階にあり、農薬ビジネスを世界に広げるユニークな会社である。生物農薬、特に天敵による害虫退治、商品名「スワルスキー」と「スパイカル」のIPMに大きな期待をかけている。環境に優しく、効率的、安心安全であるとPR。ホームページで葉ダニを食う生物農薬の動画は衝撃的。趣味のないのが趣味、寝るのは飛行機の中と言うように世界を忙しく飛び廻る、タフな社長である。テニスは週2回、サッカー観戦も好き、ワールドカップは日本を応援する。お子さんは3人。上の2人は高校生、末の息子さんから将来アジアのどこかに住みたいとメールが来たと嬉しそうに話された。(坂田)
アリスタ ライフサイエンス(株) 代表取締役社長兼CEO