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この人と語る21世紀のアグリビジネス

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チャレンジャーとして常に元気な企業をめざす  片倉チッカリン(株)代表取締役社長 西見徹氏

・全国を2巡、全従業員と意見交換
・“元気な片倉”“激しい片倉”を再構築
・多角化と海外へ目を向けた事業展開を
・長期的なグランドデザインなしのTPP議論は危険

 大正9年(1920年)に配合肥料の生産会社として大分県でスタートした片倉チッカリン(株)は、有機質肥料にこだわり、特徴ある製品群を供給し、日本農業の発展に貢献してきた。この6月に同社社長に就任した西見徹氏は、丸紅で商社マンとして活躍後、スーパーのダイエー再建に携わるという経歴をもっている。そうした豊かな経験をもとに同社をどう導いていくのか。そして日本農業をどうみているのかを率直に語ってもらった。聞き手は本紙論説委員の坂田正通。

◆全国を2巡、全従業員と意見交換


seri21st1012240801.jpg ――今年の6月に社長に就任され約半年が経ちましたがどういうご感想をお持ちですか。
 
「当社は規模が大きくないですし、業態がシンプルですから、経営内容を掌握し、今後の経営課題を考えるときに分かりやすいので、就任して早くから行動に移れたと思います」
 ――全国を歩かれているわけですか。
 「全支店・営業所・工場を回り、もうすぐ2巡目が終わるところです」
 ――目的は何ですか。
 「企業のトップとして、従業員一人ひとりの話を聞いて、その中身を自分なりにきっちりと把握することです。各支店・営業所ごとに従業員に集まってもらい、一人ひとりからそれぞれの業務内容や会社への要望事項や意見を聞き、それについて一つひとつ私の立場で答えるという会議を開いています。」
 ――従業員は何名ですか。
 「456名です(平成22年3月)」
 ――その全員と顔を合わせたわけですね。すごいですね。
 「人の顔と名前を覚えるのは得意ですから…」


◆“元気な片倉”“激しい片倉”を再構築


 ――肥料業界は保守的な世界ではないかという感じがしますが、他業界から来られてどんな印象ですか。
 「全国をまわるなかで、できるだけJA、農業関係者とお会いするようにし、当社の存在意義などを伺うようにしています」
 ――どういう評価ですか。
 「当社の人間は斬新・気鋭で創意工夫に富んでいたが、そのトーンが若干落ちているのではないかという話を伺いましたので、各支店のトップや営業担当にそのことを伝え、かつてのような“元気な片倉”“激しい片倉”になろうと話しています」
 「どのように優れた会社でも常にチャレンジャーとしての攻めの姿勢が必要だと考えています」
 ――私が現役のころの片倉は常にチャレンジャーでしたね。
 「本質的にはそういうDNAはありますから、いまチャレンジャーとしての意識が薄くなっているとしてもそれは再構築できるものだと思います」


◆多角化と海外へ目を向けた事業展開を


 ――「有機の片倉」としてこれまでこられましたが、これからについてはどうお考えですか。
 「肥料ビジネスとしては“有機の片倉”をさらに進化させるべきだと思います。大きな資源を持っているわけではなく、有機質肥料の開発が私どもの特徴ですし、日本全体が世界の資源争奪戦のなかで苦戦を強いられる状況ですから、農業生産に必要な有機質肥料を未利用資源から開発することなどは、非常に大事な仕事だと考えています」
 「当社の製品の約80%が有機質原料を含有しており、有機由来のチッソ成分が50%以上の特別栽培に対応できる製品(『HG有機』)や有機JAS規格適合の肥料(製品名:『ナチュラル有機』)など多様な種類の有機質肥料を販売しています。今後も「安全・安心・良食味」という高付加価値タイプの国内農作物需要に応えるため、有機関連製品を積極的に推進し、生産者の方々と共に消費者ニーズに見合う農作物づくりに貢献していきたいと思います。」
 ――新たな「3カ年計画」を策定中ということですが、そのポイントはなんですか。
 「企業としての片倉チッカリンが、今後も永続的に拡大再生産するためには、肥料事業の再強化に全力投球すると同時に、農業分野が若干縮小傾向にあるなかで、ビジネスを多角化することだと考えています」
 「商社だけではなく、製造業も海外でボーダレスな仕事をしている会社が収益を上げていると思いますので、当社の事業も“外に向かう”というイメージを考えていますし、チャレンジしたいと思っています」


◆長期的なグランドデザインなしのTPP議論は危険


 ――日本の肥料メーカーの生き残り策としてはどんなことをお考えですか。
 「肥料メーカーの生き残りを考えると、ボーダレスな視点を除けば、日本農業がいま以上に健全に進展することだと思います」

 ――“健全”というのはどういう内容ですか。
 「それは政府の農業施策と農業者自身の商品開発などの自助努力があります。後者については、日本には多種多様な農産物があって、しかも同じ野菜・果実でも各地で多様なものがあってそれぞれが美味しい。こんな国はありません。それは農業者の努力によるものだと思います」
 「どの国も土地を何倍にもすることはできませんが、与えられた条件のなかでどう生かしていくかは、為政者や農業関係者が考えなければならないことですし、そのことを突き詰めなければいけない時代だと思います」

 ――最近、TPPが大きな問題になっていますが、これについては… 「戦後の世界をみると米国と欧州に日本が追いつき、並ぶ構造が続いて、その後、資源を持っている国や膨大な人口を持つ国が強くなってきています。そういう刻々と変化するなかで、日本が50年、100年単位でどうすべきかは本当にしっかりと農業施策について研究をしたうえでの長期的なグランドデザインをもとに議論をすることが必要だと思います」
 「現状のままTPPに参加すれば、農業は壊滅するかもしれません。壊滅しないために、本当に奥深い議論をいろいろなセグメントの方々が政府を巻き込んでする必要があると思います」
 「経済性の問題だけではなく、食料安全保障の問題や緑が豊かでこんなに良い国土は他にはありませんからその保全・整備も含めて、あらゆることを考え、多面的に議論しなければならないことで、軽々に断ずるべきではないと思います」

 ――今日は貴重なお話をありがとうございました。

【略歴】
にしみ・とおる 昭和23年 兵庫県生まれ。昭和47年 東京大学法学部卒業、丸紅?入社。平成15年 同社執行役員、17年 同社常務執行役員。平成18年10月 (株)ダイエー代表取締役社長。平成22年6月 片倉チッカリン(株)代表取締役社長就任。

 


インタビューを終えて

 西見さんは、6月社長就任以来、各店所を廻って社員一人ひとりと対話を交わして来た。12月は2周目を終えようとしている。商社でニューヨークに通算15年駐在した経験から社員の名前と顔を覚えるのは得意。考え方もわかって来た。片倉の社員は、肥料業界にあっては進取の気性があり、そのDNAを感ずる。常に挑戦する気概をもって欲しいという。
 高校、大学時代は、陸上競技で中長距離1500〜5000mの選手だった。現在もスポーツは、野球、サッカー、ゴルフ等全て好き。週末には落語、映画も見る余裕。モットーは、「虚心坦懐、晴雨なし、運不運なし」着々と努力し、謙虚に受入れる。仕事で各地を廻れば日本の美しい風景に出会う。これからは写真を趣味にしたい、一緒にと呼びかけるが、絵画、ミュージカル、音楽などに感心のある奥様から、趣味は別々の方が……やんわりと諭されている。成人した息子さんが2人。
(坂田)

【著者】インタビュアー坂田正通(本紙論説委員)
           片倉チッカリン(株)代表取締役社長

(2010.12.24)