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この人と語る21世紀のアグリビジネス

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市場の声を製品に仕上げる熱意と技術力を  (株)エス・ディー・エス バイオテック代表取締役社長 安田 誠氏

・優れた原体開発で数多くの混合剤が各社から
・生物農薬などの開発で新しい作物保護を提案
・地域に根ざしたJAが農業をトータルでまとめる

 (株)エス・ディー・エス バイオテックは大きな会社ではないが、上市以来40数年を経た今日でも基幹防除剤として広く使われている殺菌剤のダコニールのような優れた剤を生み出す研究開発型企業として、日本の農薬業界を牽引している。昨年2月に同社の社長に就任された安田誠氏に、同社を支える理念とこれからの農業や農薬業界について聞いた。聞き手は本紙論説委員の坂田正通。

柔軟かつ迅速・適切な対応できる質の高い企業に

(株)エス・ディー・エス バイオテック代表取締役社長 安田 誠氏 ――SDSという会社名の由来はどういうことですか。
 「当社は、ダイヤモンド・シャムロックと昭和電工との合弁会社として1968年にスタートしていますが、昭和電工のSDとダイヤモンド・シャムロックのDSをとって、SDSという社名になりました」
 ――現在は昭和電工から独立していますね。
 「2005年にMBOにより独立しました。現在、昭和電工の出資は14・5%で、みずほ系のファンド会社が53・6%です」
 ――社員は何名くらいですか。
 「現在、約160名です。私たちは、規模が大きいことよりも質が高いことの方が重要だと考えています。質的に優れていれば、当社ぐらいの規模の方が、すべての面で柔軟かつ迅速に適切な対応ができると考えています。そういう意味で現在の規模は、良いサイズだと思っています」
 ――どうすれば質を高め競争に勝ち残れるとお考えですか。
 「当社の企業行動指針の重要なキーワードは『お客さまと身近に接すること』『創造的に方策を追求すること』です。そのためには、市場や人の声を聞く耳を持ち、それを製品に仕上げる高い熱意と技術力が必要だと考えています」
 ――そうした意味を込めて、経営理念は研究開発型企業として高収益をめざすということですね。
 「そう考えています」
 「常に高い目標に向かってまい進することが、とりも直さず会社の質を高め、ユニークで優れた会社をつくりあげていく鍵だと信じています」

◆優れた原体開発で数多くの混合剤が各社から

 ――コアになる優れた原体をもっておられますね。
 「一つは殺菌剤のダコニールが会社のスタート時から一貫して会社を支えてきています。1969年の生産開始から40年以上経っている古い剤ですが、耐性菌がいまだに出てきていないこともあって、基幹防除剤として使われています。また、他社でも新剤が出たときにダコニールと組んでいた方が耐性菌が出にくいということでご利用いただいています」
 ――水稲除草剤もいくつかありますね。
 「水稲除草剤では原体を4つ持っています」
 ――その代表的なものはなんですか。
 「2001年に上市しましたベンゾビシクロンです。1年生の広葉雑草や難防除雑草のイヌホタルイに対して効きますし、イボクサ、アシカキなど、畦畔から侵入してくる難防除雑草に対しても防除効果があります。最近は除草剤に抵抗性をもつ雑草が増えてきていますが、この剤はそうした抵抗性雑草にも効果があるので、抵抗性対策として混合剤として他社さんに利用していただいています」
 ――原体を製剤メーカーに販売することが多いわけですか。
 「水稲除草剤はほとんどが原体販売です。系統では、クミアイ化学、北興化学、協友アグリの3社にお任せしています。ダコニールについては、当社が横浜工場で製剤まで製造しお渡ししていますが、水稲除草剤については原体をお渡しして、各社が混合剤をおつくりになるという形です」
 「水稲除草剤のベンゾビシクロンでは、60種類以上の混合剤登録があり、推定使用面積は50万haにおよんでいますし、水稲除草剤4原体では、そのいずれかを含有する混合剤が130剤あり、日本の水稲除草剤の金額ベースで3割を超えるシェアがあります」
 ――そうすると営業部隊の役割は…
 「どちらかといえば、技術サポートだといえます」

◆生物農薬などの開発で新しい作物保護を提案

 ――いま日本の農業はどういう将来像を描くのか、分水嶺にさしかかっているといわれていますが、研究開発型企業としてどういう提案をされていきますか。
 「最近、農業をすることが自然に戻るとかという方がいますが、私は農業イコール自然ではないと考えています。食料としての稲やキャベツを栽培するということは、単純化された人工的な環境をつくることですから、人間によるインプットが必要ですし、農薬の必要性が生まれ、化学農薬が発達してきました」
 「DDTが開発されてからまだ人間の一世代くらいしか経っていませんが、その短い間に化学農薬はものすごい勢いで進化してきました。これ以上の新しいものをどう探すかということでは、確率論的にはかなり難しくなってきていると思います」
 「わが社では生物農薬なども手がけていますので、化学農薬だけではなく、新しい作物保護方法についても提案していけるような会社になればいいな、と考えています」
 ――具体的には何か進んでいるのですか。
 「新しい作物保護の提案としては、これまで培ってきた生物農薬の市場拡大と同時に、天然系の除草剤の開発を現在、進めています」
 ――その他で開発しているのは…
 「現在、開発しているのは芝用除草剤で12年に登録予定です。14年にはセンチュウ防除剤の登録を計画しています。センチュウ防除剤についてはまだ剤が少ないので、期待しています」
 ――研究開発型だと人材の確保も重要ですね
 「研究所を強くしようと考え、新卒を毎年2〜3人採用しています。当社はまず研究所へ入り、その後、他の部署へ異動します」

◆地域に根ざしたJAが農業をトータルでまとめる

 ――最後にJAグループへのメッセージをお願いします。
 「農業をあまり知らなくても、新規の農薬を発見することができます。農業は一般のビジネスとは異なり、経験と知識、そして持続することを基本にしたトータルな活動だと思います。農薬はそのなかの一部である作物保護という限られた分野を担当しています。私たちはその分野で一所懸命にやっていきますが、農業をトータルでまとめる作業は、地域に根ざしたJAの役割ですし、そのことが期待されているのだと考えています」
 ――今日は貴重なお話をありがとうございました。

【略歴】
やすだ・まこと
1950年京都府生まれ。静岡大学農学部卒業後、名古屋大学大学院農学研究科博士後期過程修了。1982年昭和電工(株)入社、83年(株)エス・ディー・エス バイオテックへ出向し、92年同社へ入社、93年大阪営業所長、98年東京営業所長、2000年戦略企画室長、04年取締役営業開発部長、05年取締役兼執行役員・営業部長、07年フマキラー・トータルシステム(株)取締役(現任)、同年SDSバイオテック取締役兼執行役員・技術開発部長、10年代表取締役社長兼社長執行役員


インタビューを終えて 

 (株)エス・ディー・エス バイオテックは昭和電工から独立して平成21年東証2部上場。研究開発型企業をめざす。小さくとも質の高い技術を持ち、優れた農薬会社になると安田社長は断言する。
 安田さんは大学院で{害虫の研究}による農学博士。クモ、ダニなどの生態の話になると夢中になる。千葉大学園芸学部の“農薬学”非常勤講師の経験を持つ。農業=自然とは言えず、作物保護が求められる。それが化学農薬の必要性につながると説明すると学生に理解してもらえる。株主への説明も同様の趣旨で行う。世界の農薬業界では、日本の会社は技術開発面では健闘しているという。筑波に研究所があり、人材確保には苦労しない。趣味は読書、生物進化論とか専門書が多い。飲み会での会話が楽しく、趣味のうちという。夫人と成人した娘さん2人の家族構成、埼玉在住。(坂田)

【著者】インタビュアー坂田正通(本紙論説委員)
           (株)エス・ディー・エス バイオテック代表取締役社長

(2011.03.02)