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この人と語る21世紀のアグリビジネス

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和の味を大事に"心ふれあう味づくり"を  マルトモ株式会社代表取締役社長 明関美良 氏

・買う人の立場に立った視点を大事に
・和食の本当の美味しさを伝えたい
・モンドセレクションで3年連続金賞の“枕崎かつおつゆ”
・被災者支援やベルマーク運動など社会貢献も
・まずは日本人のお腹を満たすこと

 多様化する現代社会のなかで、食生活も大きく様変わりしてきている。しかし最近は安全でそしてヘルシーなメニューが好まれ、世界的にも日本の食文化"和食"が注目を集めている。その和食の味を支えているのが、"出汁"だといえる。その出汁の素である鰹節の削り節に創業以来90余年こだわり続けているのが愛媛県伊予市に本拠を置くマルトモ株式会社だ。その4代目社長である明関美良社長は、「手づくりの食事が美味しいことを子どもに伝えていきたい」という母親としての思いを社業でも活かそうと活躍されている。そうした思いを語っていただいた。聞き手は本紙論説委員の坂田正通。

◆買う人の立場に立った視点を大事に

マルトモ株式会社代表取締役社長 明関美良 氏 ――御社は1918年(大正7年)に、明関友市によって愛媛県伊予市に創立されていますが、創立者・友市氏はお祖父さんですか…
 「祖父の祖父です」
 ――社長に就任されたのは…
 「今年の8月です」
 ――それまでは何をされていたのでしょうか。
 「7年前にマルトモに入社しましたが、それまではシステム関係の会社に勤めていました。入社後はマルトモにマーケティングの部署がなかったので、マーケティングの勉強をして立ち上げました。そのことで商品の設計・企画・販売提案資料の作成まで、商品の開発から販売まで一貫して行うことを身につけました」
 「それまで営業部門はもちろんありましたが、営業手法がアナログだったので、小売店の店頭の棚割りをデータに基づいて考えることや、商品開発の際に消費者ニーズを汲み取ったうえで開発された商品だということをお客様に分かりやすく伝えることが上手にできていなかったので、そこを整備することから始めました」
 ――商品開発や開発された商品のパッケージの表示などで大切にしていることはなんですか。
 「お客様がその商品を使ったときの最大のメリットは何かが、パッケージにきちんと明示されているかどうかについては、かなり煩くいいます」
 「それは、買う人の立場に立ってという視点を一番大事にしているからです」


◆和食の本当の美味しさを伝えたい

 ――価格重視ではないわけですか?
 「棚に並べることも大事ですが、そのためにだけで売価帯とか商品形態を決めてしまうのではなく、お客様に聞いてみて、お客様に本当にメリットがあるという結果がでれば、お店からの要望よりもお客様のニーズを優先させます」
 ――その場合、中心的なターゲットは…
 「一般的には主婦です。当社のメイン商品は“削り節”で以前は30代40代の主婦をメインにイメージしていましたが、いまは60代を中心に50代後半から70代前半にまで年齢層が上がってきています。いまの若い世代は、だしの素とか麺つゆを使われています」
 ――社長は「心ふれあう味づくり」というメッセージを発信され、日本の食文化である和食の良さをアピールされていますね。
 「いまの30代、40代の人たちも和食が良いことは分っていますし、和食の美味しさもある程度理解されていると思います。しかし、本当の和食の美味しさを理解しているかどうかは疑問があります」
 「例えばかつおだしといわれてイメージするものは、だしの素の味だと思います。本当の鰹節でとっただしが美味しいと思う判断基準が若い世代では失われつつあると思います」
 「そういう世代に自宅でだしをとりましょうといってもムリな話だと思います。この世代の人にはもっとやりたいこと、興味があることがたくさんあり、料理に掛ける時間がありません。だから、本当に美味しい加工食品を私たちがつくり、家庭で最後の調理を加えることで、本当の鰹だしでつくった煮物になっている、そういう商品を提案することで、和食の美味しさを伝えていきたいと考えています」
 ――化学調味料など使わず自然な味を追求していく…
 「必要であれば化学調味料も使いますが、最終的にできたものが自然な味になっている、ということです。そこに化学調味料が入っているかどうかは、私にとってはそれほど重要な問題ではありません」


◆モンドセレクションで3年連続金賞の“枕崎かつおつゆ”

 ――いまの主力商品はなんでしょうか。
創業以来ごだわり続けている鰹節の削り節。商品「直火焼」はパッケージの色を変え、旨みとこくを出す製品“直火焼”をパッケージの中央に配置し強調 「メインは鰹削り節ですが、そのなかでもブランドとして20年前から育成してきているのが“直火焼”です。5、6年前にいままで以上に旨味とこくを増すような製法が開発されましたので、それをアピールすることと、イメージを刷新する意味から“直火焼”というロゴを右端から商品の真ん中に移しました。そして鰹削り節の世界は赤いパッケージが多く、他社と差別化しにくいので、クリーム色の帯にして目立つようにし、“直火焼”はマルトモと認識していただけるように工夫しました」
 「それから販売量が伸びているのが、“枕崎かつおつゆ”という麺つゆです。3年連続でモンドセレクションで金賞を受賞しています。鰹の調達ではプロですから、全国一の鰹節産地である鹿児島県枕崎産の鰹節をふんだんに使ったつゆです。麺つゆとしてだけではなく、煮物で使っていただけると本当に野菜の美味しさが維持できますし、良さが分っていただける商品だと自信をもっています」
 「家庭でだしをとるのは大変ですが、そのプロセスをマルトモが商品化したといえます」
 ――国産野菜だけを使ったブイヨンがありますね。
 「ブイヨンについては私たちは素人ですし、他社が圧倒的にシェアをもっています。そうしたなかで不器用ですが、ブイヨンの一番の美味しさの素は野菜のだしのだと思います。私たちは“だし”にこだわったメーカーで、野菜のだしにこだわったので、商品名も国産野菜を大事にしたブイヨンということを伝えたくて“国産野菜のブイヨン”と命名しました」
 ――原料の野菜はどこから…
 「私たちが管理できる範囲でということで、時期によっても変わりますが、主に、北海道・四国から調達しています」
 ――売れていますか?
 「爆発的にではありませんが、薄味なのでお子さんのいる家庭とか、カレーのだしとかいろいろな用途があり、地道に伸びてきています」

(写真)創業以来ごだわり続けている鰹節の削り節。商品「直火焼」はパッケージの色を変え、旨みとこくを出す製品“直火焼”をパッケージの中央に配置し強調

被災者支援やベルマーク運動など社会貢献も

 ――工場は愛媛と仙台ですか?
 「そうです。伊予市がメインで、仙台には鰹節を削って袋詰めするラインと、小袋の麺つゆとかドレッシングなどをつくる液体向け工場があります」
 ――東日本大震災で被災はされませんでしたか。
 「高速道路を境に津波の被害にあったところと津波被害を避けられたところに分かれますが、高速道路より内陸側にあったので津波の被害は受けませんでしたが、地震によって機械が倒れたり、1カ月ほど断水したりという被害はあり、約1カ月は生産が止まりました」
 ――被災者への支援で貢献されたと聞きましたが…
 「わずかな力ですが、宮城県内に工場がありますので、そこで働く社員の苦しみが分かりますから、炊き出しをされている方にだしの素とか鰹節のパックを愛媛県からトラックを仕立ててお届けしました。被災者の人数からすれば、量はたいしたことはありませんが、気持ちとして何かをしたいという思いからでした」
 ――社会貢献活動としては「ベルマーク運動」にも積極的に取り組まれていますね。
 「ベルマークは1973年から参加しています。社会貢献をしたいという意思はありますが、なかなか1企業では難しい面がありますが、ベルマーク運動なら多くの企業が参加されているので力になりやすいと考え、長年参加させていただいています」


◆まずは日本人のお腹を満たすこと

 ――海外にも事務所を設けられていますが、御社としての今後の展望についてはどのようにお考えでしょうか。
 「ソウルやロスそして上海にも事務所を置き、日本の食品の良さを少しずつ広げてきていますが、それが会社の柱になるというレベルではありません。私は海外よりもまず日本人のお腹を満たすことだと思いますので、主軸は日本においてと考えています」
 「本当の日本食の良さを若い日本人が必ずしも分っているわけではありませんから、日本食の良さを広めるのは、まずは日本人からではないかと思っています」

 

インタビューを終えて 

 明関社長は、若干31歳、今年8月株式会社マルトモの第4代目の社長に選任された。
 入社して7年、マーケット部門を担当し、これまでに新しい提案を数々実現してきたという。花かつおのマルトモといえば業界では老舗。祖父が会長として健在である。マルトモは宮城県柴田郡にも工場がある。津波の被災は免れたが、家を失った社員もいて工場再開には1カ月を要した。愛媛工場からかつお節6000袋を避難場所に寄贈した時、長距離トラックが渋滞に巻き込まれ困った。ベルマーク運動などの社会貢献にも力を注ぐ。
 若い社長の趣味は2つ。その1は汽車の旅、最近では北陸の能登鉄道に乗った。窓外をゆっくり流れる山岳風景が美しい。木造駅舎もいい。
 その2は子育ても趣味の内、2歳と0歳、2人のお子さんの母である。
 社長業は忙しく、出張も多い。仕事から帰って子供に接するとがんばろうと力が湧いてくる。夫の協力は欠かせない。“育メン”という。
 21世紀アグリビジネス界に彼女のような聡明な若いリーダーが現れると日本の将来は明るいと感じた。
(坂田)

【著者】インタビュアー坂田正通(本紙論説委員)
           マルトモ株式会社代表取締役社長

(2011.12.05)