水稲はケイ酸植物
「土づくり研究会」の講演内容も踏まえて筆者は、水稲に対するケイ酸の役割を次のように整理している。
1 水稲はケイ酸植物といわれ、10a当り窒素の10倍の100〜120kgものケイ酸(SiO2)を吸収する。
2 ケイ酸の吸収は幼穂形成期以降に多くなり、茎葉だけでなく籾にも多量に吸収され、気孔を通して水の蒸散作用や光合成能力の向上にも関係する。
3 ケイ酸は稲体のケイ化細胞を形成し葉を強固にするため、葉が直立し受光態勢が良くなることで、生育中期の光合成を促進し物質生産を良化するとともに、倒伏や病害虫の被害も軽減する。
4 ケイ酸含有量の向上により登熟期間の光合成を促進し、窒素吸収当りの籾数の増加、登熟籾数の増加により窒素の籾生産効率が高まり、千粒重を増加し、その結果1籾当たりの窒素量を減少させ、増収、蛋白含量の低下につながる(図4)。
5 葉からの蒸散は気孔で行われるが、ケイ酸含有量が向上すると気孔の調節機能が高まり、夏期高温条件では気孔が開き蒸散量を多くすることで葉温を下げ、また、二酸化炭素の吸収速度を低下させず光合成能力の低下を抑制する。その結果、米の充実度を向上させ、乳白米の発生抑制にも効果がある。
図5、6は、ケイ酸資材を施用した区と無施用区を比較したものだが、ケイ酸資材を施用することによって、精米蛋白質含有量が低くなり、精玄米重が増加する効果があることが読み取れる。
このように、単に施肥窒素を減らして米の蛋白値を下げるのでなく、乾物生産量を高めることにより、結果として登熟が高く蛋白含量が低い米づくりを目指すことが重要である。
ケイ酸質肥料・資材の役割の再認識を
しかし、水田の土壌を分析すると有効態ケイ酸が非常に少ない。理由は、灌漑水中のケイ酸濃度の減少もいわれているが、第2回に示したとおりケイ酸質肥料・資材の施用の大幅な減少が大きな原因であると考えており、良食味米生産にケイ酸質肥料・資材の役割が重要であることを再認識する必要がある。
筆者は全農農業技術センターの肥料研究部在籍中に、新潟県、山形県、宮城県、富山県など銘柄米産地が実施した良質米多収穫実証田事業で、土壌診断を担当し、けいカル、ようりんで石灰飽和度60%を目標に塩基、りん酸、けい酸の改良を行った結果、いずれの実証田も登熟歩合、収量とも向上したことを確認している。
表1は、富山県コシヒカリ栽培基準実証圃で、収量と養分濃度の関係を示した事例であるが、650kg/10a以上のほ場は登熟歩合が高く、これらのほ場は、土壌中の塩基飽和度も高く、リン酸、石灰、苦土、ケイ酸とも吸収量が高まることは無論、含有率も高まっていることに注目している。
水田でも土壌診断に基づいた土づくりを
水稲に対するケイ酸の研究は古くから多数行われているが、近年、大学や県試験場で積極的に行われており、水稲の生産性・品質の向上、栄養生理、吸収特性にわたり多くの知見が得られ、過去のデータの理論的な裏付けもされている。このような成果が現場で理解され、水稲の安定生産、品質向上に役立つ技術として普及させる必要がある。
また、水田土壌の土壌分析の頻度は野菜畑より少ないといわれている。JA全農でも有効ケイ酸の分析法については早くから全農型土壌分析に採用しており、近年、簡易分析法としてPB(リン酸緩衝液)法を開発している。ケイ酸の重要性を啓蒙するためにも、このような簡易分析法を積極的に活用し、土壌診断による良質米生産の普及につなげることを期待したい。
※吉田吉明氏の姓「吉」の字は、常用漢字で掲載しています。
【著者】吉田吉明コープケミカル(株)参与 技術士