加熱調理せずサラダや漬物の材料として、生で食されることが多いキュウリは、栽培的には単位面積当りの収益性が高く魅力的な作物である反面、栽培期間が長く、収穫・出荷と整枝・誘引、さらに薬剤散布など多くの管理作業を平行して行わなければならない手間のかかる品目です。
今から20年ほど前、国内のキュウリは特定メーカーが高いシェアを占めており、自社のシェアはないに等しい状態でした。そこで、タキイが採った方向は次のようなものでした。「今は多収性を強く追い求めた品種が主流。しかし、消費者や生産者に向けて安心・安全(耐病性)、省力という新たなコンセプトのもとに育成を進めよう!」こうして誕生したのが、1991年発表の『夏すずみ』です。収量は、当時の主力品種に比べ劣るものの、ウドンコ病とベト病に耐病性を持ち、枝が伸び過ぎないために管理作業に追われることのない特性は、生産者にインパクトを与え、夏秋キュウリにおいて新たな流れを作ることになりました。その後、耐病性を維持する一方で収量アップを狙い、『夏ばやし』『夏のめぐみ』を発表。露地作型において品種のラインナップを揃え、多くの生産者に迎えられることとなりました。暖地の産地では、ウイルス病の被害が拡大していたことから、ウイルス病(ZYMV)にも耐病性を持つ『Vロード』を2002年に、生産者の高齢化が進む中、より省力で多収型の複合耐病性品種『Vアーチ』を2008年に発表しています。
このように『地球温暖化』や『生産者の高齢化』、また『消費者の安心・安全』に対する要望が高まる中で、我々ブリーダーは品種開発を通して、どうしたら社会に貢献できるかを常に考え、明日の品種開発に取組んでいます。
(写真)上:ウドンコ病とベト病に耐病性を持つ『夏すずみ』
下:左・耐病性を持つ『Vロード』 右・複合耐病性品種『Vアーチ』
タキイ種苗(株)研究農場次長