ハクサイは鍋料理・漬物の材料として日本人の食生活には欠かせない野菜の一つです。意外にも、日本における栽培の歴史は浅く、日清戦争の時に兵士がその種子を中国から持ち帰ったとされ、食卓に上るようになったのは明治時代以降です。短期間に大きな収量を得ることができ、米食との相性の良さから、その後栽培・消費は急激に増加、1968年には全国で5万800haの栽培面積と186万7000tの生産量で、史上最高の数値となりました。
しかし、その後の生活様式・食生活の欧米化や緑黄色野菜ブームなどにより、栽培・消費は減少しはじめました。そして1玉で販売されていたハクサイは、1980年代後半から1/2、1/4カット販売が普通となり、内部が黄色い「黄芯系」と呼ばれる品種が主流になりました。
当時の主力品種は黄芯で見栄えはよかったものの、病気に弱く農家にとっては作りにくい品種でした。そこでタキイは黄芯という特性プラス耐病性を両立させた「黄ごころ」を発表し、各産地でシェアを伸ばしました。その後、根こぶ病に強い「きらぼし」やべと病に強い「晴黄」を投入し高い評価を得ました。とは言え、減少し始めた消費の流れは止まることなく、2007年には栽培面積1万8700ha、生産量91万8800tと1968年の半分以下の数字となってしまいました。
(写真)黄芯と耐病性を両立させたハクサイ「黄ごころ」
◆単なる小型化ではない 純粋なミニハクサイを
タキイのハクサイブリーダーにはアイデアがありました。他の野菜でも話題になっていたミニ品種です。「家庭の主婦はカットハクサイに満足しているんだろうか!?」
実はミニハクサイのアイデアはタキイ独自のものではありません。15年ほど前からミニハクサイという肩書きで発表された品種は存在しました。ただし、それらの品種は普通ハクサイを密植して小玉で収穫するというコンセプトだったため、“クズハクサイ”の烙印を押され、広く普及しませんでした。
「普通ハクサイの小型化ではない、純粋なミニハクサイを育成すれば、消費者は必ずついてきてくれる」。タキイではサイズを普通ハクサイの1/4カット並み(600〜700g)にすること、外葉を立性・コンパクトにして密植適性を高めること、熟期を50日とすること、風通しが悪いと発生するべと病に耐病性であることを目標に育成をスタートしました。
その結果2005年に生まれた「お黄にいり」は、高齢化が進む農家にとっては重い箱を持たなくてすむ利便性を持つものに仕上がりました。生育スピードが早いため、農薬の散布回数を大幅に減らすことができ、安心・安全といった観点からもすぐれています。カット販売されているものよりも新鮮であり、使い勝手がよいことも特長です。サイズが小さいのでスペースの小さい家庭菜園でも栽培でき、またサクサクした、やわらかくて歯切れのよい食感はサラダで美味しいと期待通りの評価を得ることができました。
2008年には玉が細長くタケノコ形のミニハクサイ「プチヒリ」も発表し、形状としてのバリエーションも広げています。
一方、消費面のもうひとつの大きな流れとして、漬物の嗜好が浅漬けからキムチへ変わってきたことが挙げられます。そのような状況の中、日本のハクサイは、肉厚で水分が多いため、浅漬けには向くが、本格キムチ加工用には、漬け上がりが水っぽく食感が劣るとされていました。そこで一枚一枚の葉の厚さを薄くすることで肉質をやや硬くし、本格キムチ漬けでも水っぽくならないハクサイも育成しました。それが韓国語で「お母さん」という品種名の「オモニ」ハクサイです。
このように、世の中の流れやその時々の社会情勢によって変化する消費動向や嗜好に対応し品種開発は今日も確実に行なわれています。
(写真)上:(左)従来のハクサイ・(右)ミニハクサイ「お黄にいり」
下:玉が細長くタケノコ形のミニハクサイ「プチヒリ」
タキイ種苗(株)研究農場次長