シリーズ

種苗開発の裏話

一覧に戻る

第6話 時代の変化と品種開発3  ダイコンの巻

 ダイコンは形や大きさに様々なタイプがあります。1.5mを越す世界一長い守口ダイコン、30kgを越すものもある世界一重い桜島ダイコン、丸い形の聖護院ダイコン。色を見ても、白以外に紅や桃、黒いものまであります。園芸植物はそもそも人間の手により多様な系統幅が生み出されてきましたが、ダイコンを見るとその多様性に改めて驚かされます。

◆青首ダイコンはどうやって全国に広まったのか?

耐病総太り もともとダイコンは、さして太くもない一本の直根を持つアブラナ科植物のひとつでした。この一本の根にここまで変異を見付け選抜を重ね続けた先人の観察眼と執念には全く頭が下がります。しかも、今日見る多様なバラエティは、そのほとんどが日本で生み出されたものです。日本人とダイコンにはその根のように深く長い付き合いがあるのです。
 さて今日、家庭で主流に使われるのは青首ダイコンと呼ばれる種類です。
 青首ダイコンは1970年代からそれまで主流だった白首ダイコンにかわって一気に全国に広がりました。青首ダイコンが広がった理由としては、味そのものが甘くておいしいため、広い年代層に受け入れられたことが上げられます。
 そして、このおいしいダイコンがたまたま持っていた「青首」と言う特徴が、従来の真っ白なダイコンと差別化される目印となり、青首イコールおいしいダイコンとして定着していきました。従来の白首系のダイコンは根が長くて収穫労力が大変であったのに対し、青首系は収穫しやすいという栽培上のメリットも急速に普及した理由のひとつと考えられます。
 他の業界の新製品誕生の裏話にも、ちょっとしたタイミング、ふとしたことから新製品が大きく普及し始めたということがあるようです。この青首ダイコンが今日のように全盛を極めることになった裏にも、予期せぬ出来事が影響していました。
 当時、白首ダイコン全盛の頃、試験栽培として青首ダイコンを生産農家に栽培していただいたところ、「こんなのダイコンじゃない」「首のところに色がついていて気持ち悪い」「白首より短くて大きくならない」と全くの不評で、受け入れられる見込みはありませんでした。
 しかし、数年後の9月、台風で白首ダイコンが全滅してしまったことがありました。そこで、今から播種して収穫できるダイコンはないかと検討され、試しに青首ダイコンを蒔いたところ、見事なダイコンが収穫できました。おまけに白首ダイコンより収穫作業が楽で、食べてもおいしいということから、「あの首の青いダイコンは作りやすいし、うまい!」と話題になり一気に人気が爆発しました。 このダイコンこそが、タキイが開発した青首ダイコンの先鞭、今なお広く一般家庭でも親しまれている『耐病総太り』ダイコンでした。


(写真)耐病総太り


◆ダイコンは世界に誇れる「日本の園芸文化」

夏の翼 時代は流れ、今や青首は当たり前、1年中青首ダイコンが出荷できるように品種のラインアップもレベルアップも急速に進みました。 たとえば、抽苔が遅い、寒い時期でも太る、暑い時期でも栽培できる、これらのハードルをクリアする品種も生まれてきました。そして、一層のレベルアップが図られた結果、今や「工業製品」に近い揃い性を持つまでにダイコンは進化して来ました。
 また近年は、環境にやさしい農業実現のために、より病気に強い(=省農薬)、肥大性の一層の向上(=省肥料)などを目指した品種の育成が精力的に行なわれています。もちろん、地球温暖化に対応できる品種、更なるおいしさの追及、機能性の付与といったポイントでも品種育成が進められています。
 中国から渡来後千年以上が経ち、ダイコンは日本が生んだ世界に誇れる「日本の園芸文化」となりました。先人が育てたこの文化を絶やすことなく引き継ぎ、一層発展させるためにダイコンのブリーダーが成し遂げなければならない仕事はまだまだたくさん残されています。

(写真)夏の翼

【著者】羽毛田智明
           タキイ種苗(株)研究農場次長

(2009.09.18)