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JAは地域の生命線

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第5回 大切なことは「時代を先取りする実践力」 有塚利宣(JA帯広かわにし代表理事組合長)

・基盤整備事業で生産性を高める
・十勝産長いもが相場の主導権を握る
・一次産業に支えられた十勝の地域産業

 正組合員828人(法人も含む)、准組合員9499人。正組合員の平均経営規模30ha。これが帯広の産業と市民を支えている姿であるが、そのすぐれた多彩な農業が十勝経済の基盤にある。
 全国の先陣を切ってHACCPを導入し、いまさらにGAP導入を推進している。食の安全・安心の徹底を通じて、国内の消費者、実需者に信頼される産地づくりにとどまらず、農産物輸出の先陣を切り、とりわけ特産の長いもはシンガポール、台湾を通じてさらに全世界にその名はとどろいている。
 営農指導、新技術開発にあたっては、JAが核となり、農・産・学・官・消の連携と協力のもとに、常に第一線を走る努力を積み重ねている。
 スケールの大きい構想力、そして時代を先取りする大胆な地域興しへの実践力。有塚利宣組合長と話していると、まさに「JAは地域の生命線」ということを心から実感した。
(今村奈良臣)

農協はまさに公益事業である

◆基盤整備事業で生産性を高める


有塚利宣(JA帯広かわにし代表理事組合長) 今村 有塚組合長は、香川県からの開拓入植者4代目ですね。これまでの変遷をお聞かせください。
 有塚 農業高校卒業後就農し、29歳で農業委員になりました。1960年ごろは北海道に農協と開拓農協がそれぞれ300ほどずつありましたが、所得格差が開きはじめて、開拓者がどんどん離農し始めました。離農者の借金や放棄地は農協が引き受けたので、農協もどんどんつぶれていきました。75年に「みどり生産組合」という農事組合法人を設立。借金や放棄地の受け皿になる小さい法人で、12人で始めました。それから毎日、馬車で2〜30kmと飛び地の離農跡地まで通いましたね。その後、トラクターなど入れて機械化に取り組んでからは、農家も自立し始めてようやく安定しましたね。
 今村 「川西」というのは、十勝川水系札内川の西の意味ですよね。昔は洪水があったが肥沃な土地です。今でこそ一農家平均30haありますが、産地をつくるのは大変だったんじゃないですか。
 有塚 当時、100ミリも雨が降ったら、もう畑がびちゃびちゃで使い物にならなかったんですね。それをなんとかするため暗渠排水をしっかりやる必要がありました。こういう生産性を大きく高める公共事業、つまり自然との闘いは、国の責任だと思っています。一農家では抗し切れませんからね。むかし第二臨調(※1)の頃、農業基盤整備事業は金がないからやめようという話があって、とんでもないということで土光敏夫さんを呼んで、現状を直訴して続けてもらいました。
 今村 とにかく川西地区には見事な農道や排水路がありますよね。
 有塚 それからずっと国で農業基盤整備をやってこられたので、土地改良もできて、川西地域も豊かになって、そして今日の「十勝川西長いも」があるんです。

 


◆十勝産長いもが相場の主導権を握る


HACCP認定を取得した長いも選別工場 今村 「十勝川西長いも」の作付面積450ha、生産量1万6430トンで日本最大ですね。国内で太い長いもが売りずらかったので、シンガポールや台湾へ輸出して行った。農産物輸出のさきがけですよね。
 有塚 もともと長いもの産地は鳥取砂丘でした。それが北海道に入ったのは大正末期。炭鉱夫の機能性食品として入ってきたんです。国内の量販店が核家族化の進展で売りずらい太い一本物をカットして傷物の相場で安く取り扱うようになってからは、精力剤や薬膳料理の食材として海外へ売り出し、大好評になりました。今ではEPAやFTAを利用して、台湾やシンガポールなどから全世界に輸出されていますよ。2009年度は不作だったので、輸出量は1700トン強と多少控えましたが、日本の総輸出量の3分の2は十勝産です。東京の大田市場や台湾での産地間競争に勝って、十勝が相場の主導権を握っていますから、ちょうど生産が間に合うところに抑えています。なぜここまで力があるかというと、「十勝川西長いも」工場がHACCP(ハサップ※2)を取ったからです。
 今村 HACCPは普通、畜産とかですよね。野菜で認定とるのはどうやったんですか。
 有塚 「十勝川西長いも」は農業大賞も農林大臣賞も天皇賞も頂いて日本一になりました。さらに上をめざすのが農協の役割だ、ということで宇宙へ行くぞ! と、NASAの精神に則ったHACCP認定をめざしたんです。それまで根物や葉物などの基準はなかったので、担当はスイスの本部に何回も通いました。だから世界の野菜HACCP工場は、十勝が基準なんですよ。
 HACCPは組合長から、農協から、生産者から、とにかく全部まとめて意識がないとダメですね。あとはしっかりした輪作体系が必要です。これは生産現場の役割であり、農協の役割です。消費者へいかに安心安全の認識を持ってもらって信頼関係をつくるか、というね。
 この輪作体系の管理は農協の営農指導がやっています。しかしそんな簡単な指導ではできません。今は担い手が大学出て海外修行もしてるので、農協職員がそんなプロに向かって指導なんてできるわけがない。だからいろんな悩みとか相談を聞いたら、すぐに帯広畜産大学とか試験場に持っていってそれらの難問をプロに相談する。これが十勝の営農指導です。

(写真)HACCP認定を取得した長いも選別工場

 

帯広工業団地のみなさんと有塚組合長(前列左から2人目)

(写真)帯広工業団地のみなさんと有塚組合長(前列左から2人目)

 


◆一次産業に支えられた十勝の地域産業


 今村 その結び目にいるのがJAなんですね。
 有塚 はい、そうです。十勝の24農協がお金を出し合って大学や法人に研究させていますが、帯広畜産大学などは委託事業が非常に多くて、地域になくてはならない大学になりました。ようやく国も産学官や農商工の連携に目を向けてきましたが、帯広や十勝では一番の基幹産業として農業のクラスターづくりをずっとやってきました。
 十勝の農畜産物生産量は北海道の約4分の1、485万トンです。2004年には全量トレーサビリティをやりました。生乳から、野菜から、コメから、肉の細切れまですべてです。量販店で検索すれば、すべての生産履歴がわかります。2年後には北海道全体にも拡大しました。産地間競争に勝つため、十勝のものはすべて信頼されるようにしようと、今年から2〜3年かけて一軒残らずGAP農場(※3)にする計画です。それこそが生産現場の役割であり、農協の役割だと思っています。
 今村 正組合員は860人だけど、准組合員が9613人というのもすごいですよね。
 有塚 十勝の地域経済は農業2600億円、工業400億円ですが、工業の半分は農業関連です。2次、3次産業は1次産業に支えられているので、十勝市民のほとんどが農業にかかわっています。十勝農家6600戸が6万1000人の雇用を創り、生産額の8倍になる2兆円超の経済波及効果を産んでいます。だから農協の事業というのは、まさに公益事業なんですよ。
 地域住民のためにも485万トンを全量売らないといけないし、クレーム処理なども必要なので、東京の神田に事務所をつくり7人の職員をおいています。JA帯広かわにしはちっちゃい農協ですが、北海道の農協の中では8年連続利益率も納税額もトップです。組合員の利用高配当もがっちりやりました。農協は農家と一体ですから、北海道で農協不要論なんていう人はまずいません。組合員のためにも、地域のためにも、命を賭けてやっています。

 


【解説】
※1
)第二臨調:第二次臨時行政調査会、1981年発足。中心人物は土光敏夫第4代経団連会長など。
※2)HACCP:Hazard Analysis and Critical Control Point、食品製造の危害要因分析に基づく管理手法。1950年代にNASA等が構想した。
※3)GAP:Good Agricultural Practice、農業生産工程管理。生産の各段階での管理基準とその実践を定めたもの。


【略歴】
ありづか・としのぶ
1931年12月生まれ。北海道立帯広農業高等学校卒。71年帯広市農業委員会会長(7期)、78年十勝農業委員会連合会会長、84年北海道農業会議副会長、1993年JA帯広かわにし組合長、98年十勝地区農協組合長会会長、JA北海道中央会理事、ホクレン理事、2009年農協人文化賞受賞。

(2010.05.12)