シリーズ

JAは地域の生命線

一覧に戻る

第6回 大切なことは・・・農協が元気だからこそ地域を守れる 萬代宣雄(JAいずも代表理事組合長)

・地域を改革するため起業家に
・役職員教育のため、地域へ還元を!
・組織の合理化ではなく地域密着型の合併構想

起業家、政治家、農協人の経験を生かすボトム・アップ路線

 地域に根ざした農協をめざすこと、そして農協人は常に教育・学習に励まなければならないこと。それらを基本にいかにボトム・アップ路線を提起し追求していくべきか。これが萬代組合長と対談して強烈なインパクトを与えられたことである。その思想の上に立って新世紀JA研究会は作られ、全国に拡める行脚を続けられておられる。
 萬代組合長は農協組合長としては珍しい経歴を持っている。専業農家として大規模養豚をやるかたわらさまざまな起業を行い、市会議員として政治の道を歩み、そしていま農協組合長となり、全国をまたにかけて活動しているが、原点はJAいずもにある。これまで他流試合の連続の中で新しい発想と構想を磨き上げて来られたのだと思う。農協人よ、おおいに他流試合をして地域興しに励もうではないか。 (今村奈良臣)

2010年4月5日、笑味ちゃんバッジを市内の幼稚園・保育園に贈呈した。最後列中央が萬代組合長。

(写真)
2010年4月5日、笑味ちゃんバッジを市内の幼稚園・保育園に贈呈した。最後列中央が萬代組合長。

◆地域を改革するため起業家に

今村 萬代さんは、農協に入る前には長らく市議会議員を務めていましたね。
萬代 昭和50年に32歳で初当選してから7期28年務めました。また、29歳からは自動車の整備・販売、保育園、運送業などの会社経営を始め、農村でできる業種を3人の仲間と協力しあいながらそれぞれに起業しました。なぜ起業なのか。昔ながらの地域を改革しようと思った時、県会議員一人位は出せる組織を作らなければならないと考えていました。それを実現する為に起業し、飲み代稼ぎと票拡大の為、日夜がんばったものです。さらに、家族経営で水田3ヘクタールと300頭の養豚を営み、JAを拠り所としながら農業経営にも一生懸命取り組みました。
今村 起業家、政治家、農協人と3つの道を歩んできた基盤には、営農があったんですね。組合長になってからも集落座談会へ参加されて熱心に議論しておられますが、地域や集落などをしっかり考えている一方で、新世紀JA研究会を設立し全国を巻き込んだ議論をされましたね。その発想の飛躍はどこにあるんでしょうか。
萬代 農協は地域に根ざした組織です。地域を活性化させる為には、なんとしても農協が元気でなければなりません。組合員をいかに仲間にして共有意識を持ってもらえるか、ということが大事です。しかし単協だけではどうにもならない部分があります。その際、県連を通して全国連に話がいくわけですが、その過程にもどかしさを感じていました。間に人を挟むと、話がとんでもないことになりますからね。また私は、系統を利用するのは農協の基本理念だと思い、販売にしろ、飼料にしろ、最大限に利用してきました。しかし一方で、全農や経済連のやり方に不満もありましたので、ずっと前から体制内改革をしようと言い続けてきました。単協が抱えている問題をもう少し全国連にも分かってもらいたいという願いもあって、全国で同じ想いの仲間を募り、色々な提言活動や勉強をやろうということになり、新世紀JA研究会を立ち上げたわけです。


◆役職員教育のため、地域へ還元を!

出雲市農政会議今村 つまり全中や県中からのトップダウンじゃなくて、組合長や地域の方から変えていこうというボトムアップ路線ですよね。会の活動はずいぶん広がってきたんじゃないですか。
萬代 当初、全中は冷ややかでしたよ。全国連を突き上げるような組織だと思われていたみたいで。しかし最近は、各連とも役員さんに出てきて頂き話を聞いてもらえるようになりました。ただ、私は異質なことを言い続けているので、受けがよくないんですけどね(笑)
 例えば、農林中金や全共連は税金が優遇されていますが、それは単協が地域のためにがんばっているからです。だからその差額ぐらいは地域に還元してほしい、と提言してきました。農林中金は10年間で2000億円ぐらい税金が少なくて済んでいますから、せめて1割の200億円を農協に戻して役職員教育のために使ってほしい、と。
 北海道など一部の地域ではしっかりした役職員教育の基盤がありますが、他の地域では財政が厳しくてなかなかできません。農協に入った当初から気になっていましたが、目先の指導ばかりしているから、本物の農協職員がいなくなってサラリーマン化していますよね。自分たちでしっかりと勉強しなくてはいけません。私は全職員に「自分はこの立場でこういう改革をした」というのを必ず職場毎にやれと言っています。先人がやってきたものを継続して守るだけでも大変ですが、それだけではダメなのです。
今村 農協は全中を先導にして船団を組んでいるようなものだけど、単にくっ付いていくだけじゃなくて、それぞれ嵐はいつ来るか、敵はどこか、とか考えて動かないといけませんよね。
萬代 農協がそれぞれ、地域での役割を担うことが大事ですね。全国各地で頑張っている皆さんが、その地域を守りながら県や全国をどうするか考えていけば良くなると思います。さまざまな情報やアイディアを集める技量があって、初めてトップとして指示ができるわけですから、勉強をしていくなかで「これだ!」と確信できるような活動をすることが必要です。

(写真)
出雲市農政会議で話す萬代組合長


◆組織の合理化ではなく地域密着型の合併構想

4月18日の吉岡隆徳記念第64回出雲陸上競技大会で。今村 JAいずもは本当に農協が地域の拠点になっていますよね。ファミリーマート、葬祭センター、高齢者福祉施設、カントリーなど、色々見てつくづくそう思いました。昨秋の県大会で島根県1JAの方向性が決定しましたが、県全体がこうなればいいなと思います。
萬代 1県1JA構想にはたくさんの問題がありますが、まず組合員離れをしてはいけない。これが第1原則です。だから、組織の合理化が第一目標になるような合併構想はダメです。今の県内11JAをそれぞれ地区本部制のような形にして、地域密着型できちっと組合員の面倒を見られるような形が理想だと思います。鍵となるのは、県全体の信用・共済事業収益を協同の精神のもとでメリハリをつけながら、全地域を支援出来るような仕組み(システム)の確立ができるかどうかだと思います。
今村 これは萬代さんが提唱したんですか?
萬代 1県1JA構想について話が出始めた時、私はむしろ、そこまでしなくてはいけないのか、と慎重だったんです。しかし、検討結果を踏まえて5年、10年という先を考えた時に、過疎化が今よりも進み、しっかりした農家経営ができるのかと不安に感じ、地域を守る為には必要であると思い賛成しました。

(写真)
4月18日の吉岡隆徳記念第64回出雲陸上競技大会で。

◆農家が再生産可能な所得を得られるために

今村 どこの県内でも冠婚葬祭から食文化まで地域ごとに違います。歴史的に地域社会というのは一体になりにくいので、そこに根を張る農協が県内1本というのはなかなか難しいなと思います。
萬代 島根県は東西に長いので、例えば石見と出雲では人の気質が違います。歴史的にも一緒になるのは困難だという意見もありましたが、今の地域はそういうことを言っていられる状況ではありません。ただ、どんな小さな地域でも必ず歴史があるので、職員もそれを承知して農家支援をしなくてはいけませんね。農家が一定の所得を確保し、再生産可能な所得が得られるような支援が必要ではないでしょうか。地域と共にがんばらなければなりません。

(2010.06.11)