【JA兵庫西の概況】
東西は姫路市から岡山の県境まで、南北でも瀬戸内の港から山間部まで広大な面積を持つ。平成22年に合併10周年。キャッチフレーズは「人・ふれあい・結びつき」。
◎組合員数:10万3435人
(正組合員5万5550人、准組合員4万7885人)
◎職員数:1687人
◎販売品販売高:約49億9800万円
◎購買品供給高:約59億4400万円
◎信用事業(貯金高):約1兆919億円
◎共済事業(長期共済保有高):約2兆6648億円
(以上、21年度)
現地レポート
◆女性だけの支店、業績はトップクラス
「女性だけで利用者に何のメリットがあるんや?」
「最初は地域の人たちの反発や疑問の声が強かったですね」と話すのは、姫路市大津区恵美酒町のJA兵庫西大津支店・堤弘子支店長だ。5年前支店長に任命され、そのとき大津支店は“女性支店”になった。
全国的にJA運営への女性参画は他業種に比べて遅れている。女性の管理職登用には内外からさまざまな反発もあるが、「女性の感性を活かして組合員や利用者の気持ちがわかる“女性支店”を」とJAトップの願いも込めて誕生した。
しかし、それはあくまでもJA運営側の都合。地域住民からは、その正否を疑問視された。
堤氏は「まずは地域に馴染み、覚えて信頼してもらうことが大事だ」と考え、「最初の3カ月は、なんでもいいから顔を売ろう。何より楽しくがんばろう」と、渉外担当者を中心に全職員が地道にコツコツとくまなく地域を回った。
女性職員の一生懸命さや明るさも手伝って予想以上に早く受け入れられると、逆に地域の人たちが応援してくれるようになり、自然と業績も上がった。
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女性のみのJA兵庫西大津支店。前列中央が堤支店長
◆フットワークと大胆さで地域の信頼を
もちろん単に“女性だから”実績が上向いたのではない。むしろ“女性ならでは”の活動がより大きな信頼を生んだのである。
大津支店では、毎週土曜日の朝6時半〜8時までの1時間半、大津ふれあい朝市という支店独自の農産物直売市を、1年に1回は、“感謝祭”を開催し、地域の人たちが集まる場となっている。
3年前からは地区内の幼稚園と協力して、園児の描いた祖父母の似顔絵130枚の店内展示会も毎年9月に開催。子どもの、孫の絵を見ようと、これまで来店したことがなかった人たちが来るようになった。
「顔が見える、直接触れ合うことで新たな提案もできるし、何より達成感がある」。
そんな地道な活動が実を結んだのは、地元信金の支店が近くにオープンした時だ。JAが渉外2人なのに対し、信金は8人導入し徹底したキャンペーンで攻勢を仕掛けてきたが、JAへの影響はほとんどなかった。
それは長年の地域貢献と絶え間ない活動に加えて、職員全員が信金オープン前に徹底して地域を訪問したからだ。
一方で堤氏は堂々と誰より早く信金の支店長にあいさつに行ったという。JAの榎淳子専務はそんな活動を「男性職員に比べて、フットワークの軽さと大胆な行動力がある。キメ細かさと大胆さを併せ持つのは女性だからこそ」と評する。
現在はセキュリティ上の問題もあり、統括部からLA・融資専任の男性職員が派遣されているが、支店職員は女性のみ。いまや5年前のような疑問は聞こえなくなったが、「これからも地域になくてはならない支店となれるよう努め、常に感謝の気持ちを忘れないようにしたい」と堤氏は謙虚に語る。
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大津支店の朝市の様子
◆直売所間の物流整備で地域格差をなくす
JAが新たな販売拠点として期待する直売所。管内4カ所の「旬彩蔵」に6カ所のインショップ、2カ所の野菜市を加えた直売所全体の売り上げは21年度で16.5億円。今年度もこれを上回る順調なペースだ。
JAでは独自の物流ネットワークをつくり、生産者が直接店舗に持ち込むだけでなく、地域・店舗間の品物の移動や生産者の集荷まで対応している。
管内が都市部から中山間地まで幅広く、出荷者によっては、近くに直売所がない、あってもお客が少ないためなかなか多くを売りに出せない、という不公平感がある。また店舗としても、近隣の生産者だけに頼って品揃えが偏ってしまうのを解消するためだ。
旬彩蔵は、道の駅やSSなどを併設する山崎店、加工所を持つ福崎店、レストランがある姫路書写店など、4店舗それぞれ特徴がある。
というのも「地区同士のライバル意識が強く、切磋琢磨している」(中林亨組合長)からだ。地区ごとの営農基盤や特徴が異なるため、地域別の営農振興計画を策定し独自のブランド戦略や商品開発も手がけるなど、JA内の高い競争意識がプラスに働いている。
一方、JA全体でも広大な面積と最大700mの標高差を利用した「旬彩蔵品切れ防止プロジェクト」を22年度から始めるなど総合戦略も明確だ。冬取りタマネギ、キャベツ・カボチャの周年栽培など定番9品目は地域間で連絡を取り合い、いずれの店舗でも品切れが起きないようにしている。
今後もさらなる新規出店と、広域物流体制の強化をめざしている。
JAを元気に、の一途で
インタビュー
中林亨組合長
榎淳子専務
インタビューに参加したのは中林亨組合長と榎淳子専務の2人。女性のJA運営参画について尋ねると、榎専務は開口一番、その厳しさを語った。
◆目立たぬよう、しかし女性らしさを忘れずに
榎 私の言えることはたった1つ。農協は男社会、女性にはとにかくハードルが高い、ということです。
今村 榎さんご自身はどんなご経験をされたんですか。
榎 旧林田町農協の当時の組合長が大変理解ある方で、男女関係なく管理職として採用して頂いたのが始まりです。JA兵庫西合併前の旧JA姫路西で平成9年に参事職という大役を細々と務めさせて頂きましたが、当時は男尊女卑を感じたことはありません。
平成13年に合併し、JA兵庫西の発足時、総務部長に任命、無我夢中の日々が過ぎました。翌年、常勤理事総務担当常務に就きました。
「女に何ができるか!」という痛烈な反対もありましたが、応援してくれる役職員に支えられ、今日があります。批判にも打たれ強くなったと思います。強気と弱気が交差し、刺激は仕事の励みになりました。皆さんから大きな勇気のカツを頂いたと現在は感謝しています。
今村 榎さんが普段の業務で気にかけていることは?
榎 まず、あまり目立たず、派手な格好をしないようにしています。それは男性陣と変わらぬ心構えで務めるためでもあります。一方で、男性にはない女性らしさを出せるよう日々心がけています。
例えば、コミュニケーション力、謙虚な心、細かい気配りや思いやりの心ですね。あとは日々危機感を持って、女性目線でJAはどうあるべきか、JA兵庫西を良くしたい、元気にしたい、一途と、組織が10年後どうありたいか、絶えず組合員、生産者にとってのお手伝いができるか、を常に考えています。
なにより協同組合活動には女性の力が必要だ、ということを強調したいんです。なぜなら消費者の気持ちを汲んで、生産者がどうすればいいかを伝えるのは、両方の気持ちがわかる女性の方が適役ですから。
中林 これからはそういった女性のよさを伸ばして、JA運営に役立てていかなければいけないですね。農協組織はいまだ封建的で、今、職員の構成比はパートを含めても2対1ぐらいで男性が多いですが、やはり女性がいないと組織は成り立ちません。16年度から始めた女性組合員加入促進運動のおかげで、今は組合員の女性比率が4分の1ほどになりました。
20年度には女性総代枠も設けて、今は総代1100人のうち103人が女性です。昨年からは、「女性総代の集い」も開いて、地区を越えた交流の場として大変好評でした。
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中林組合長(右)と榎専務
◆“儲かる農業”はJAが主導・PRする
榎 JAの方向性として、これからは直売所をメインにしてそこに元気な農業者を育てようとしています。管内はほとんどが兼業農家で、男性が勤めに出て女性が営農するいわゆる“母ちゃん農業”ですから、女性の力は大変重要です。農産加工で付加価値つけて売る“儲かる農業”をJAが主導してPRするためにも女性組織で研究熱心な人たちをもっと支援したいですね。
今村 パートよりも農業の方がよっぽど儲かるんだ、というアピールのためにも、JAは地域の基盤だということをしっかり示さないといけませんよね。
中林 JA兵庫西でも6次産業化を推進しようと、今もかなりたくさんの加工品を手がけています。特産のコメを使った粕漬けや日本酒のほか、珍しいところでは紫黒米のワインなんかもあります。最近、力を入れているのはユズ加工で、JAで加工場もつくりました。
榎 JAの信用、共済事業を批判する人もいますが、やはり収益をしっかり確保しないと、生産者への十分な支援はできませんからね。
中林 信用、共済でしか収益を出せないのは辛いところです。合併して10年経ちましたが、当初は本当に大変でした。123あった支店を62に再編しましたが、現在を考えるとエリアを拡げすぎたかも、という反省もあります。しかし、エリア拡大で組合員の状況を逐一把握するのが難しい中、10年かけてようやく人並みになれたのは、組合員や地域の皆さんの支えと、そして何より職員のおかげだと思っています。
今村 私も旬彩蔵を訪ねましたが、職員が非常に優秀ですよね。何を聞いてもしっかり答えられる、いい職員だなと感じました。
榎 ここまでやってこられたのは、本当に職員の力だと思います。職員はJAの大きな財産です。農協運動が好きな人たちが、JAのさまざまな総合事業の中で“食”を生かす戦略を選択して実行できるのがJAだと思っています。
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加工品開発にも力を入れており、たくさんの商品がある。