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JAは地域の生命線

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「組合員にどう還元できるのか」を至上命題に  JAふくおか八女(福岡県)

・絶品の冷凍米飯にまず驚く
・多彩な農産物と優秀な栽培技術をもつ産地
・消費地と直結した直販事業が伸びる
・付加価値をつけ「オンリー1」の商品に
・レシート金額の0.1%を地域に還元
・お茶は「ブレンド技術が命」
・役職員の思いが一つに

 JAふくおか八女は、本紙に何回も登場したことがあるように、全国でも屈指の農協としてさまざまな場面で紹介されてきている。それでもなお今回、本紙と今村先生が注目したのは、農産物をそのまま市場などを通して販売するだけではなく、加工をするなど付加価値をつけて販売することで、農家組合員の所得向上に寄与する「地域農業6次産業化」のトップランナーとしてのJAふくおか八女だ。

地域農業のトップランナー


今村奈良臣(東大名誉教授・JC総研 研究所長)


 ブドウ、茶、ナシ、イチゴ、い草、大豆(受賞順)。これがJAふくおか八女管内の天皇杯受賞者である。1つのJAでこれだけの品目の天皇杯を受賞した個人、営農集団、農業法人を輩出したJAを私は知らない。それだけ気候、風土に恵まれ、優れた組合員に恵まれ、その組合員の結集の上でJAふくおか八女は松延利博組合長を先頭に、次々と新しい目を見張る新戦略を展開してきているように思う。そのJAの新戦略とは何か。
 一言で表現するならば、地域農業の六次産業化の路線を早くから進めてきたことである。
 全国にその名声のとどろいてきた八女茶の産地である。周知のようにお茶は、安全・安心をモットーに茶葉を育て、一次加工の粗茶、二次加工の上製茶に仕上げ、そして販売に全力を挙げ、消費者に選択してもらわなければならない。つまり、お茶は地域農業の六次産業化そのものを体現している。
 この歴史的経験が他の分野にもすべて生かされている。
 イチゴやブドウなどはプレパッケージセンターでていねいに選別包装され多彩な販売戦略のルートに乗せられていく。ナシやトマト等の果菜類は大規模・高性能の選果場で選別、包装されて多彩な販売ルートで消費者に届けられるようになっている。
 しかし、味はよいが姿、形が悪く、生果で売れないものも多い。また、特産のタケノコのように特定時期しか生産されないものも多い。それらをいかに加工し八女の味を全国の消費者に届けるか。そのためにすばらしい総合食品加工センターが目を見張るような多彩な味のよい加工品を作り消費者に喜ばれている。また管内のすべての農産物の安全性を調査、保証する検査機関として環境センターが早くから設置され活躍している。販売戦略を一身に背負っているのがJAの東京事務所で戸田橋で司令塔の役目を果たしている。もちろん、管内には5つの農産物直売所がにぎわっている(うち3店舗はAコープに併設)。JAふくおか八女は地域農業六次産業化のトップランナーである。

 

対談


6次産業化のトップランナー

松延利博 JAふくおか八女組合長
今村奈良臣 東京大学名誉教授


「存在感のある農協たれ」をモットーに
生産意欲がもてるような農業支援を


対談―松延利博 JAふくおか八女組合長・今村奈良臣 東京大学名誉教授 今村奈良臣名誉教授は、かねてから「地域農業の6次産業化」を唱えられてきた。そのことを早くから実践してきたのが、JAふくおか八女ではないだろうか。なぜ、JAふくおか八女では早くから6次産業化に取り組んできたのか、茶葉の生産者でもある松延組合長と今村名誉教授に語り合っていただいた。

 

◆組合員のための農協を再確認して

 今村 「存在感ある農協たれ」が松延組合長のモットーと聞きましたが…
 松延 存在感があれば情報も集まってくるし、人も集まってくる。そうした存在感を持つためには、自分もしっかり勉強をして磨きなさい。いろいろな言葉を発しても薄っぺらな人間では、誰も信用しませんよ、というのが主旨なんです。
 今村 八女地域は、数mから800mの中山間地まで含めて非常に恵まれた土地だと思います。だから農業そのものが存在感がある、だから農協はもっと存在感を持てということですか。
 松延 八女にいる人たちが「恵まれた」という評価をしているのかどうか、当たり前だという気持ちでやっているのでは…。
 今村 それはあると思うね。
 松延 だからいい商品ができても発信ができないのは、そこに原因があるような気がします。そうしたなかで、自分たち自身が存在感を示しながら仕事をしていくのが、農協の使命だと思います。
 今村 JAふくおか八女は、お茶をはじめ産地としては立派だし、営農指導をしっかりやってきた。そして販売戦略が九州の中では頭抜けていて、新しい方向を打ち出してきたと私は見ています。
 松延 いままで農協がやってきたことが、果たして組合員のためだったのか、農協のためだったのか、自問自答する部分もありますから、あくまでも組合員のための農協であり、農協のための組合員ではないということを再度確認しながら進めていかなければと思います。

 

◆先人のつくった産地をさらにグレードアップ


 今村 しかし、恵まれた条件があって、そのうえに天皇杯を6部門で受賞しているのは珍しいことですよ。
 松延 それだけ先人たちが一所懸命になって産地を形成してきたわけで、本当に恵まれた産地です。はっきりしているのは、それを後の代に引き継ぐのもわれわれの仕事ですが、それに胡坐をかいていてもいけない。さらなるグレードアップを図るのが生きている私たちの使命だということです。
 今村 組合長が自分の茶農園で農業をがんばり、肥料のやり方や茶葉のつみ方そして加工まで技術革新をずいぶんしてきた。そういうバックグランドがあるから“あの組合長ならついて行くか”となるのではないかと思いますね。
 松延 自分の農業経営に対しては、ある程度、自負していますが、それが即農協経営にとはなりません。
 しかし、その農業経営にいかに農協がマッチングしていけるかも仕事の一つだと思います。そのために存在感のある人格になれというのが自分のポリシーですし、“自分が現役の時代には笑われないような農業経営をやっていこう”と思い農業をしています。

 

◆マーケティング次第で価格が変わる


 今村 販売戦略をたてるために東京事務所を設置して、消費の現場に密着して生協や量販店に直接発信して売っているわけですね。
 松延 一番情報が集まるのは東京です。東京の情報を収集して消費の現場はいまこうだということをリアルタイムで生産者につなげるようにするために、東京に拠点をおき、職員を配置し、飾り気のない情報が入ってくるようにするというのが一つの目的です。職員も八女の商品に自信を持っているので、それを持って営業に回るというように互いに相乗効果を上げています。
 費用対効果はどうかという議論もありますが、消費地での宣伝広告費だと思えば、十分効果が上がっています。
 今村 加工とか地域農業の6次産業化にも取り組んでいますね。
 松延 生果での市場流通は時期が限られていますし、市場で価格形成されるので、付加価値をつけてとにかく生産者に還元できることをと考えると、加工・6次産業化しなければということになりますが、試行錯誤しながらやっています。
 今村 6次産業化をなぜ九州でいち早くはじめたのかと考えると、お茶は生葉では売れないから常に一次加工、二次加工さらに仕上げ加工をする経験が、ほかのものでもとつながってきた…
 松延 そうですね。マーケティング調査をきっちりやれば、同じ商品でも値段が変わります。東京事務所の職員がまずすることは、直接取引をしなくてもいいから調べる。その情報がリアルタイムに入ってくるわけです。
それを活かしていかに組合員に還元するかが6次産業化ということになる…

 

◆元気な地域をつくり農協ファンを増やす


 今村 ただ儲けるだけではなく、地域へも還元しようとしていますね。昨年来たときに見つけて感心したのが、直売所の『小学校に図書を』ということで、レシートをいれるボックスがあり、レシートに記載された金額の0.1%を学校へ寄付するということです。
 松延 あれは利用者の皆さんが“自分たちも地域に貢献している”ということで、元気づきます。0.1%ですから年間100万円強ですが、皆で積み上げていくという感覚がタイムリーだったのだと思います。
 今村 最後にこれからの抱負を語ってください。
 松延 まず、農家が安心してくらせることです。1日がんばったら、今日はがんばったと晩酌を一杯やり明日もがんばろう。そして1年間経って“今年はがんばった甲斐があった”。“来春はイチゴを一坪でも二坪でも増やすか”という生産意欲をもてるような農業支援をしたいですね。
 そしてそのときに八女の農協を“拠り所”にして欲しい。その延長線上に、存在感のある農協であって欲しいし、JAマンであって欲しいですね。
 農協がめざすものは、農家組合員と地域の活性化です。そういう意味で農協で取り組んでいるのは、青少年のさまざまなスポーツ大会を通じての協賛です。JA杯としてバレーボール(高学年と低学年の部がある)、サッカー、野球、剣道などがあります。大人の大会なら親父だけが来ますが、子どもたち孫たちの大会だと一家あげてきます。そして貯金魚とかのグッズを配りますから、楽しみにして集まります。
 これはまず農協に目を向けて欲しいなという、ファンづくりです。
 そして究極は、農協の健全経営です。
 今村 ありがとうございました。

 

JAふくおか八女(福岡県)現地ルポ

「農協は組合員のためにある」ことを忘れずに


◆絶品の冷凍米飯にまず驚く


今年春にオープンした直売所「よらん野」、看板の左側に天皇杯受賞6作物が 「これは旨いよ」
 今村先生がが思わず叫んだ。眼下に矢部川の豊かな流れをはさんで八女市内が一望できるという眺望のよいJAふくおか八女の食品加工センターの一室でのことだ。
 それは、国産ウナギの蒲焼と蒲焼のタレがしっかりしみ込んだご飯を竹の皮で包んだ冷凍食品の「うまうま」だ。冷蔵庫の必需品でお酒を飲んだ後や小腹が空いたときに食べると松延利博組合長お墨付きの逸品だ。
 さらに生協と開発したという冷凍の「竹の子おにぎり」、ダイエット志向の女性に人気の「こんにゃくごはん」も美味だった。
 今回のテーマは「農業6次産業化のトップランナー」。そのためほ場を訪れたのは、2日目の早朝にまわった星野村の茶畑だけで、実際に見せてもらったのは、直売所「よらん野」と道の駅「立花」(直売所)、八女茶加工センター、パッケージセンター、環境センターと選果場そして食品加工センターだった。

(写真)今年春にオープンした直売所「よらん野」、看板の左側に天皇杯受賞6作物が

 

◆多彩な農産物と優秀な栽培技術をもつ産地


星野村の茶葉 JAふくおか八女は福岡県南部の八女市・筑後市・黒木町・立花町・広川町・上陽町・星野村・矢部村の8市町村を管内とし、東は大分県、南は熊本県と境を接している。
 八女の「母なる川・矢部川」がほぼ中央を流れ、肥沃な大地と地域の暮らしを育み、古くから栄えた土地だ。
 JAの販売事業をみると、米麦大豆が、販売事業253億円(21年度)の8%、みかん・ぶどう・なし・キウイフルーツなど果樹類が26%、イチゴ・ナス・トマト・タケノコなどの野菜類が34%、電照菊など花きが18%、特産品のお茶が14%などとなっており、多彩な農産物の産地だということが分かる。
 そして今村先生が再三指摘されているように、ブドウ・茶・ナシ・イチゴ・い草・大豆の6部門で天皇杯を受賞しているように、品目が多いだけではなく、優れた農業技術が持っている産地でもある。

(写真)星野村の茶葉

◆消費地と直結した直販事業が伸びる


星野村の茶畑 こうした多種多様な農産物を有利に販売するために合併してJAふくおか八女が誕生した平成8年に東京事務所を開設。生協や量販店など消費サイドの情報をリアルタイムで伝え、その情報を有効に活かして「組合員に最大限の利益還元ができる」事業として、直販事業を立ち上げる。
 そして、平成11年秋にはパッケージセンター(PC)を開設し、生協などのニーズに合わせたイチゴの包装などを開始する。19年には黒木町に第2PCを開設。直販事業は年間41億円の規模に成長。2つのPCで約190名が働いており、地域に雇用も創出した。
 平成14年には、中国冷凍野菜の残留農薬問題や無登録農薬使用問題などが発生し、全国的に「食の安全」への感心が高まるが、JAではいち早く「環境センター」を14年9月に建設し、全生産者から「農薬安全使用基準の遵守」に関する誓約書の提出と栽培記録の記帳を義務づけとともにこのセンターで残留農薬検査を実施する。
 このあたりのことは既によく知られていることだといえる。

(写真)星野村の茶畑

 

◆付加価値をつけ「オンリー1」の商品に


 そして平成15年に食品加工センターが開設されるが現在は白木加工場、矢部加工場も加わり3工場で加工が行なわれている。白木加工場は、年間3000t生産されているタケノコの1000tを加工。矢部ではコンニャク、梅干、ラッキョウなどの加工が行なわれている。そしてセンターでは冒頭にみた冷凍米飯などの加工を行なっている。
 リストをみると、各種ジャム類や柑橘類の缶詰など、多彩な加工食品が並んでいる。八女産の農産物でどう付加価値をつけ「何ができるか」を生協とも相談しながら商品開発に励んでいる。「No.1でなくてもいいから、オンリーワンの商品」を開発することが、ここのモットーだという。現在、販売高は3工場で15億円前後だが、これからの期待が高かい部門だ。

 

◆レシート金額の0.1%を地域に還元


旬の野菜だが珍しいものには何枚もレシピが これまで直売所はAコープの店内に設置されていたが、ことしの春に独立した店舗として直売所「よらん野」を開店した。近隣には食品スーパーもあり競合が厳しいが、良好なスタートをきった。
 店内はカートを押してもゆったりと歩けるよう平台が配置され、キャベツやニンジンのように定番ではないが、地元の旬な野菜には生産者の家で作っているレシピが何枚も添えられるなど、この店を盛り上げていこうという意気込みが感じられた。
レシートの0.1%が各地域の小学校に本として寄付される そしてレジを出ると「小学校へ本を贈ろう」の掲示が目に飛び込んでくる。投函されたレシートの0.1%が八女の各地域の小学校に寄付される仕組みで、地域に密着したJAらしいアイディアに感心する。

(写真)
上:旬の野菜だが珍しいものには何枚もレシピが
下:レシートの0.1%が各地域の小学校に本として寄付される

 

◆お茶は「ブレンド技術が命」


「八女葉」をつくる茶加工センター なぜ、JAふくおか八女は6次産業化のトップランナーになったのか。今村先生は「お茶の産地」だからではと指摘する。
 摘まれた茶葉は、生産者によって、まず蒸されその後に揉みながら乾燥され、摘まれた生葉の20%ほどの量の「荒茶」として茶取引センター(全農ふくれん)などに出荷される。
 その後、JAや茶商が荒茶を購入し、それぞれのブランドの茶に仕立てていく。同じ八女で生産されたものでも、生産されたほ場や時期、荒茶の仕立て方で味が異なり個性がある。それをブレンドすることで「八女茶」が誕生する。
 つまり、摘んだだけの生葉で取引きされることがないのがお茶の世界なのだ。「お茶はブレンド技術」だとお茶の専門家でもある松延組合長はいう。そしてかつては市場占有率を高めることを目的にしていたが、いまは消費者の多様なニーズに応える「少量多品目」へ転換したという。まさにブレンド技術・加工技術がお茶の命ということだ。

(写真)「八女葉」をつくる茶加工センター

 

◆役職員の思いが一つに


 そのうえで、松延組合長は「農協は組合員のためにあり」どうしたら「組合員に還元できるか」を常に考えている。それは組合長一人の思いではなく、取材中に会った多くのJA役職員の皆さんの共通の思いだと感じた。
 この組合長を先頭に役職員一人ひとりの熱い思いが、JAを動かすエネルギーとなり、それが組合員との信頼関係を築いているのではないだろうか。

(2011.06.21)