◆総合JA批判の背景
前回述べたように今回のJA批判の特徴は「総合」JA批判です。それは、信用・共済事業の分離論に集約されます。今回、政府の行政刷新会議の規制・制度改革分科会の農業WGでは、(1)JAに対する金融庁検査・公認会計士監査の実施、JAなどの独占禁止法適用除外の見直しに加え、(2)信用・共済事業の分離、准組合員制度の廃止などが検討テーマになりました。
これらの問題は、協同組合であるJA批判であることには変わりませんが、(1)の独占禁止法の適用除外などの問題は、協同組合への批判であり、(2)の信用・共済事業の分離論はJAに固有な総合事業の否定を論じており、両者は区別して考える必要があります。
なぜなら、これらの問題への反論は、(1)が一般的な協同組合の理念・特質・運営方法をふまえたものが中心になるのに対して、(2)の信用・共済事業の分離への反論には、それに加えて、「総合JA」が持つ組織の理念・特質・運営方法を踏まえた分析・検討が必要とされるからです。
不思議なことに、JA研究者からは、JAの死命を制する重要な分離論に対して、ほとんど反論の声が出ません。それどころか、これを容認する意見すら見られます。
その原因は、議論が抽象的な理念論に終始し、理念を実現する肝心な組織の特質・運営方法が明らかにされてこなかったことにありそうです。JA関係者には、信用・共済事業が分離されればJA経営が成り立たず絶対反対という意見が多く、それはそれで大きな説得力を持ちます。が、大切なのは特質・運営方法の分析による総合JAの理論武装であり、日常的な取り組みです。信用・共済事業の分離問題は、規制・制度改革分科会の農業WGでは中期的課題として先送りされましたが、この問題が何を意味しどのように対処すべきかを考えておくことが重要です。
それは、これまで無関心であったJA理念を実現する「JA組織の特質・運営方法」について改めて考え直して見ることでもあるからです。
◆『農協の大罪』の論理
信用・共済事業分離論への反論や対応を述べるまえに、今回の信用・共済事業の分離論の背景から見ていくことにします。そもそも、今回の総合JA批判は、前に述べたように日本経済新聞に掲載された、山下論文「農協の解体的改革を」が発端になっています。
この論文の主旨は、日本農業の発展を阻害しているのは総合JAであり、JAを解体することによって企業的農家を育成すべきというもので、形式的な経済効率一辺倒な考え方がその基礎になっています。総合JAを解体し、全て稲作など専門農協に再編することはもちろん、それでも効率化がはかられなければ、協同組合の仕組みそのものを解体してもかまわないなどというのはいくら何でも現実を踏まえない暴論でしょう。
山下氏はその後も『農協の大罪』なる書を著すなど、さらに徹底した悪意に満ちたJA攻撃をしています。『農協の大罪』では、日本農業の発展を阻んでいるのは「食管制度」「農地制度」「農協制度」であり、なかでもその要は「農協制度」でこれが諸悪の根源と批判しています。
これほどまでのJAの過大評価は、いささか面映ゆい気さえしますが、その論調は、これが元農水省特権官僚の考えることかと唖然とする思いがする内容です。こうした形式的経済効率論に、早速財界の代弁者である日本経済新聞や評論家が飛びつきました。小泉内閣の経済財政諮問会議などでも競ってこの論調を取り入れました。
総合JA研究会主宰