シリーズ

信用・共済分離論を排す

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第3回 農業改革を妨げるJA

―総合JA批判の背景とは その3―
・農業改革を妨げるJA
・職能組合論への回帰

 今回の総合JA批判の背景はどこにあるのでしょうか。それは一口に言えば、わが国の農業構造の改革が容易に進まないことに主な原因があります。
 今、日本経済はバブル崩壊後の失われた20年のなかにあります。この状況の中で経済界は、農業に次のことを要請しています。それは、経済の活性化をはかるための、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉などの促進による一層の自由貿易の推進です。そのためには農業分野での譲歩が必要であり、市場開放のための農業経営の合理化が求められることになります。

◆農業改革を妨げるJA

 今回の総合JA批判の背景はどこにあるのでしょうか。それは一口に言えば、わが国の農業構造の改革が容易に進まないことに主な原因があります。
 今、日本経済はバブル崩壊後の失われた20年のなかにあります。この状況の中で経済界は、農業に次のことを要請しています。それは、経済の活性化をはかるための、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉などの促進による一層の自由貿易の推進です。そのためには農業分野での譲歩が必要であり、市場開放のための農業経営の合理化が求められることになります。
 だが、自由貿易推進のための農業構造の改革は容易には進みません。そのいらだちがJAに向けられます。「農業改革の妨げをしているのはJAで、JAが総合事業を営み、信用・共済の事業を兼営しているからだ、JAから信用・共済事業を分離して農業振興・営農活動に専念させよ」という筋違いの主張が行われます。これは、経済効率一辺倒のいわば財界の論理と言われるものです。
 農水省の試算によれば、TPP参加によるわが国農業への影響は、農業生産額が4・1兆円減少し、これは2008年の農業総産出額8・5兆円の48%にあたります。これに多面的機能の3・7兆円の減少が加わり、農業は壊滅的打撃を受けます。JAから信用・共済事業を分離すれば農業振興がはかられるなどの次元の問題ではありません。

◆職能組合論への回帰

 JAには古くから2つの議論があります。1つは職能組合論であり、もう1つは地域組合論です。
 前者は、JAは農業振興を行う協同組合であるとする見解であり、後者は、JAは農業だけでなく地域全体の振興を行う協同組合であるとする見解です。この議論は高度経済成長などの経済の拡張期で盛んに行われ、地域組合論優勢のうちに推移してきましたが、ここにきて俄然職能組合論が息を吹き返してきました。その発信源は、ほかならぬ農水省です。
 経済の停滞期には農業が見直されます。一方、税収の削減から行政の合理化が厳しく求められます。このことから、主務省である農水省はJAに対して、農業振興の役割発揮をJAに求め、その責任をJAに移行させようとします。農業が見直され行政の役割が求められるが、農水省にそのような財政的余裕はない、JAが農水省に代わってその役割を果たせという訳です。
 この方向づけは、JAの第一の事業を営農指導事業にした農協法の改正(01年)やJAの生活事業を否定した「農協のあり方についての研究会」報告(03年)などによって急ピッチで進められました。以後、この流れに沿って、JAは農業振興の役割を担う協同組合であり、農業以外の事業には手を出すなという農水省指導が徹底されることになります。
 JAは組織の死命を制する農業振興と総合事業という事業領域が、農協法によってガードされています。農業振興を謳った農協法第一条と、各種事業の兼営を謳った農協法第十条一項がそれです。事業領域を法律で定められていることは、会社などでは一般的には行われることはありません。JAが行政の下請け機関と言われるのは、事業領域が法律で決められているからです。

【著者】福間莞爾
           総合JA研究会主宰

(2010.11.04)