◆JAの役割は農業振興のみか
農水省の農業重視のJA指導の方向は、経済の閉塞状況のもとで、言わば必然の方向ですが、JAとしてはこうした背景・動きを十分理解して自主的な協同組合としての運動を展開して行くことが肝要です。当面重視すべきは、二つの観点です。一つは、当然のことですが、農業振興にはJAのみの努力だけには限界があり、行政の支援が欠かせないことです。
農業振興に責任を取れと言われても、できることとできないことがあります。農産物貿易における国境措置や担い手の育成、米の生産調整など行政の関与なしにはできないことが数多くあります。こうしたことは国が責任を持って進めていくことは当然でしょう。
また、もう一つは、農水省のJAにおける農業重視の指導方向が、信用・共済事業の分離、いわゆる総合JAの解体の世論形成の方向に向かわないようにすることです。農水省に総合JA解体の意思があるとは考えられませんが、総合JA解体の急先鋒になっている山下一仁氏が農水省の元特権官僚であったことには一応の留意が必要でしょう。
JAは組織にとって重要な事業領域が農協法で決められているゆえに、行政の下請け機関であるとのそしりを受けることになります。だが、見方を変えればJAはそれだけ国にとって重要な役割を果たす存在であるということの証左でもあります。JAとしては、常に時代の変化に対応した行政との新たなパートナーシップを構築して行くことが重要です。
◆自主的な協同組合運動の展開
農水省はJAに対して農業重視の指導を強化しているといっても、一方で農業を中心として地域振興・地域貢献、つまりJAの総合事業への取り組みは極めて重要になっています。1999年に制定された食料・農業・農村基本法はその名が示す通り、それまでの「農業」基本法から「食料と農村」へとウイングを広げました。
このことは、今後の農政が農業のみならず食料と農村を軸に展開されることを意味します。食料への関与は消費者接近の行政の姿勢を必要とし、農村への関与は行政の地域全体への取り組みを必要とします。農水省にとってのJAの役割は、農業振興重視の姿勢を鮮明にしていますが、他方で農政全体の流れは総合事業の展開・総合JAへの期待が高まっていると言えるのです。
1970年に策定された「生活基本構想」は、その後のJAの生活活動の取り組みを決定づけることになりました。以後、JAは組合員の営農・生活を車の両輪として運動を進めてきました。「生活基本構想」は、農水省との直接の連携で生まれた方策ではなく、その意味では、JAとして初めて自主的な協同組合組織として自らの運動を自覚し、かつ内外にそのことを宣言したものとして画期的な内容を持つ方策でした。
今、経済成長が止まり農業の復権が叫ばれる中で、JAの生活活動の取り組みや准組合員対応は農水省にとって直接の関心事ではなく、むしろ排除すべき政策でさえあります。しかし、JAにとっては重要課題です。JAは、農業振興はもちろんですが、時代の変化を良く見極め、協同組合として取り組むべき課題を幅広くとらえて将来に向かっての発展に備えていくことが重要です。
総合JA研究会主宰