◆「JA組合員心得」の提案
「JA綱領」は、以上に述べた活用方法のほかに、いま一つ大きな問題を抱えています。それは、主語がJAにあることです。
「綱領」では、「わたしたちJAのめざすもの」として、主語はJAになっています。「JA綱領」はそれまでの「農業協同組合員綱領」に代わって、合併JAの精神的支柱として、また全国共通のJAの経営理念として制定されました。その意味では、「綱領」の主語がJAにあることは当然のことです。
主語であるJAには、組合員・役職員が含まれ、「綱領」にはそれぞれの立場からの役割が示されているように見え、何の問題もないように思えます。しかし、実際には、「綱領」はJAの体制確立のために使われ、組合員や役職員の立場は隅に追いやられてしまっているように思えます。このことは、実はJAに大変憂慮すべき事態を招いていると言って良いのはないでしょうか。それは「綱領」の大義名分のもとでの「悪しき経営主義」の蔓延という事態です。
最近の「JAは組合員のものだ、そのために組合員主体の運営を取り戻せ」、あるいは「組合員はJAにとっての顧客ではない」などといった原点回帰の機運の盛り上がりがそのことを物語っています。組合員主体の経営を行っていくためには、様々な対策が考えられますが、その一つの方法として、「綱領」に埋没してしまったように思える「組合員」と「役職員」という主語を取り出し、それぞれの役割を考え直して見ることが有効と考えられます。
とくに組合員の心得・役割を明らかにして行くことは重要で、組合員主体、もしくは参加の経営を取り戻すために、組合員を主語にした「JA組合員心得」もしくは「JA組合員憲章」(いずれも仮称))の制定を考えてみたらどうでしょうか。言うまでもありませんが、この「心得」は、「JA綱領」と対立するものではなく、「綱領」を補完するものとして活用が期待されます。
◆組合員の自覚を促す
「JA組合員心得」の内容は、例えば「われわれ組合員は、協同組合精神に基づき使命感を持って協同組合運動に挺身します」などと言った、大時代的で大上段に振りかぶったものではなく、地道に組合員の権利・義務(権利と義務は裏腹の関係にある)を謳い、さりげなく、しかし確かな形で組合員としての自覚を促すものが基本とされるべきでしょう。「JA綱領」が、地域や国民の皆さんに対してJAの社会的使命を宣言し、JA組合員・役職員の意思統一をはかるものであるのに対して、「心得」はJAの役割を果たす組合員の立場を明確にするものと位置づけられます。
現状では、綱領と称するものには「JA綱領」の他に「JA青年組織綱領」や「JA女性組織綱領」があり、これらはいずれも組織の綱領です。「JA青年組織綱領」と「JA女性組織綱領」は組織の綱領ですが、一面で構成員である青年部員や女性部員の「綱領」でもあります。両綱領とも組織と構成員は一体になっています。
これに対して、巨大化したJAでは、組織と構成員たる組合員の遊離現象が生じてきており、JAと組合員は必ずしも一体のものとして認識されなくなってきています。このため、JAは自分たちがつくったものであるという組合員の自覚を促す「組合員心得」が必要になってきているように思えます。
総合JA研究会主宰