◆大変な大衆課税1%で2・6兆円
今、社会保障費の財源不足といえば消費税、大震災の復興資金といえば消費税―。そのつど消費税は引き上げの対象にされています。 現在の消費税は89年に導入されましたが、そのときの税率は3%、今は5%です。1%の税収がおよそ2・6兆円。国税分だけで10兆円を超える税金です。
昨年の国の税収で見ると所得税は税率が5%から40%で12・6兆円、法人税は最高税率30%で6兆円です。日本の消費税は5%とはいいながら、一律の税率で課税対象が広く、生活必需品に対しても例外がありません。大変な大衆課税なのです。
◇ ◇
消費税は古くは物品税として、地租とは別に戦費の調達や財政逼迫の際に、そのつど国が庶民にかけていたものです。
アダム・スミスは資本主義の初期の段階に、小麦粉やなめし皮などの生活必需品に課税することは、所得の低い人にとって大変な負担になるといっています。また、資本主義の興隆期でも消費税が労働者にとって実質賃金の引き下げと生活苦をもたらすものとドイツの労働運動の指導者ラサールが反対しています。
現在の日本の消費税はヨーロッパでは付加価値税といわれているもので、1960年代の前半、当時EECといっていたヨーロッパ共同体の共通農業政策の原資として導入されたものです。ヨーロッパの場合は、それまでの消費税の欠陥を極力排除し、食料や農産物の生産、生活必需品を安くする低所得者対策を取り入れ、逆進性を和らげる措置がとられています。
◆農業・食料に配慮ない日本の消費税
益税をなくして増税
ところが竹下内閣が入れた消費税は違いました。1978年の大平内閣のときはヨーロッパ型の付加価値税でしたが、導入された消費税はシステムこそヨーロッパを真似たものの、所得の低い人や農業・食料品に対する配慮は一切されていません。アダム・スミス以前の単なる大衆消費税なのです。
そのうえ、当初の税率は3%であったもののその後97年に5%(うち1%は地方消費税)に引き上げました。また、当初は免税点が3000万円。簡易課税制度で適用上限5億円、みなし仕入れ率は90%と80%の2つの区分で、限界控除制度は6000万円と課税対象者を絞っていたのです。
しかし、その後の改正で免税点は2003年に1000万円、簡易課税制度も同時に5000万円までに引き下げ、みなし仕入れ率は90%、80%、70%、60%、50%と5区分としたのです。特例の対象者は04年に106万人から半分の50万人に減っています。限界控除制度は94年に廃止されています。
消費税導入の際は商工業者の反発をおそれ種々の益税を生み出したのですが、定着と見るやこれをなくし増税となっています。
◆農業にとっての負担
消費税の最終の負担は消費者ですが、納税者は事業主です。売上高1000万円への引き下げでは小売業者のマージン20%として、所得200万円からの課税です。消費の末端ではなかなか転嫁できない負担となっています。
農家も1000万円以上の売り上げがあれば課税の対象となり、簡易課税制度などによって納税しています。農協の場合は生活資材、肥料・農薬・農機など生産資材の購買事業、農産物の販売では市場を通じる場合も産直等の場合も消費税を払っています。
また、経済連、全農も同様です。農協の厚生連も医療機器の購入では支払っています。担い手農家も2000万円ほどの収入であれば、農協への販売委託料などの消費税で、みなし仕入れ率70%を適用しても40万円を超える消費税となります。農協であれば、生活資材、生産資材など購買関係の40億円ほどで1600万円(表参照)、購買売り上げ23億円、販売売り上げ60億円の農協では4200万円ほどの消費税です。
また、全農・経済連の場合2010年の決算で見ると46億円となっています。
ヨーロッパの付加価値税の場合、農産物への課税、食料品への課税は軽減するかゼロ税率にしているのですが、日本では農家を含め4段階に課税されています。現在の消費税は流通上のパイプが多いほど負担がかかります。
このためヨーロッパでは連合会型の協同組合が消滅しています。協同組合の流通とともに消費税への対応を考えるときです。
( [2]に続く )
【著者】石原健二元立教大学経済学部教授