これまでの国の暫定規制値は、食品中からの放射性セシウムの被曝許容線量を「年間5ミリシーベルト」で割り出していたが、4月からはこれを「年間1ミリシーベルト」とする。
一方、適用が始まったパルシステムの新基準は、放射線の影響をもっとも受けやすい乳幼児や妊婦に考慮し、ほとんどのカテゴリーで国の新基準より2分の1、米については10分の1も低い数値となっている。これまでも国の暫定規制値の5分の1を自主基準としてきたが、その差はさらに大きくなっている(表参照)。
◆新基準がもたらす懸念
4月から適用される国の新たな基準についてどう考えるか―。2月7日、食の安全・安心財団による第6回目の意見交換会が都内で開かれた。
講演した消費生活コンサルタントの森田満樹氏はその中で、新基準値への変更は消費者に安心感を生むことや、原発事故由来の放射線のリスクをできるだけ低減させるという原則からいえばいくらかのリスク低減につながる、などをよい点とする一方で、▽これまでの暫定規制値は危険だったのではないかという誤解、▽消費者のゼロリスク志向を助長し、生産者、流通、事業者はゼロベクレルを目指さざるを得なくなる、▽被災地の農業に壊滅的な打撃を与える、ことなどをマイナス面にあげた。
実際に福島県の生産者からは、規制値が下がれば作付制限がさらに厳しくなり、風評被害もさらに強まるとして「農家の苦境を無視している」といった不安と怒りの声が上がっている。
◆「万が一」の対策は?
昨年9月から独自の規制値を適用してきたパルシステムは「『食の安全』を何よりも優先し、『放射線の被曝はできる限り少なく』という原則に従い放射能対策を進めて」きた。しかし森田氏が指摘するマイナス面への配慮や、国より低い基準が存在することによる混乱は想定しているのだろうか。万が一、国の規制値以下なのに、この独自基準を上回った場合の生産者への補償はどうするのか? そういった「万が一」への対策をパルシステムは具体的に決めているわけではないという。
パルシステムの例を契機に、大手スーパーなども消費者に「安全」をアピールする“付加価値”として独自の規制値を設定すれば、森田氏のいうゼロベクレルを目指す風潮も加速しかねない。
低い数値が歩き出すことで「低数値=安全」という消費者意識を強め、検出されるリスクを避けようと「福島産」との取引きをやめる事業者が出てくることも懸念される。
◆作られた消費者像も問題
また食の信頼向上をめざす会幹事の伊藤潤子氏は、基準値の引き下げなど消費者の不安を優先した対応は行政やメディアが作り出した画一的な“消費者像”によるものと指摘。本来ならば多様であるはずの消費者を一部の過剰な消費者に合わせてイメージ化し、報道や情報提供をそうした消費者が望むであろう表現にすることで、イメージそのものの消費者を作り上げてしまったことを問題に挙げた。
「新基準についてこれでいいのか」、という論議を消費者の中で深めていく体制が今後は必要だとし、それができるのは生協や消費者団体だと強調した。
原発事故は消費者も生産者もともに被害者であることを忘れてはならない。分断や対立を増長するのではなく、互いに議論しあうことで最善の道を探ることが大切ではないか。パルシステムにはまさにその姿勢を求めたい。