◆強化された生産調整
そこではまず「政府は食糧法に基づき、米穀の需給及び価格の安定を図るため生産調整を実施することとし、その実施の実効性を担保するため、生産調整への参加を要件とした各般の施策を講じている」と当時の米政策の根本を強調している。
そのうえで「米の先物取引をする商品市場を開設することは、生産調整に参加するか否かにかかわらず、すべての生産者に先物取引を通じた販売を可能とすることになり、明らかに、生産調整への参加を要件とした施策を実施することにより生産調整への参加を誘導している現在の政策とは整合性を保てない」と結論づけた。
こうした結論から、現在の米の生産・流通・価格政策と整合的ではなく、認可基準の「生産・流通に著しい支障を及ぼす恐れがある」に該当すると判断した。つまり、政策遂行に著しい支障をきたすことを立証したことになる。
その後も政府は主食である米の需給と価格安定に向け、国境措置を前提に食糧法のもとで生産調整の取り組みや需給調整対策を引き続き実施してきている。 政権交代で22年度からは戸別所得補償制度モデル対策が実施され、今年度から本格実施となる。
しかし、この政策についてJAグループは「国の主導で生産数量目標に従って米を生産する販売農家に強力なメリットを付与し、生産調整への誘導」をさらに強くした政策となっていることを強調。米先物取引が「生産調整への参加を誘導している政策と整合性を保てない」のは平成17年と同じであり、当時の判断を尊重すべきだと主張してきた。
◆米価下落で生産調整参加者は増加傾向
しかし、JAグループのこの主張に対して今回、農水省は次のような見解を示した。
それは、平成17年当時は、米に関わるほとんどの政策が価格維持を目的とした生産調整への参加を要件としており、「生産調整への参加を半強制的に誘導していた当時の政策と整合性が保てないとして不認可にした」のだ、というものである。
さらに現在は「戸別所得補償制度の導入により価格政策から所得政策に抜本的に転換した」として、生産調整への参加は「生産者の経営判断による選択制に大きく転換した」との見解も示した。
これに対して全中は再反論。当時の不認可理由とは、あくまで生産調整への参加を誘導している政策との整合性が保てない、ということであって「半強制的か選択制かといった政策手法が不認可理由ではない」と強調した。実際、先に引用した17年当時の不認可理由をみればその通りである。
また、戸別所得補償制度は、国が示す生産数量目標の達成を交付金交付の要件としており、生産調整へのより強力な誘導手法をとっていることを改めて指摘。所得政策ではあるものの、事実として22年産の米価下落を受けてこの制度への参加意欲は高まっているとして、生産調整による需給と価格安定をはかる方向にあると強調している。
実際、7月末現在、米の所得補償交付金の申請件数は昨年より5万件も増え、生産数量目標にしたがって作付する面積としては昨年よりも2万ha増加しているのだ(農水省発表)。
◆どこが変わったのか?
農水省は、今回の試験上場をめぐる議論のなかで、ここで触れたように戸別所得補償制度の導入によって米政策が「抜本的に転換した」ことを盛んに強調した。
しかし、本当にそうかという疑問がある。本紙の「シリーズ・21世紀の農政にもの申す」第51回(7月19日付)で梶井功東京農工大名誉教授が指摘している点を改めて紹介しておきたい。
梶井教授の指摘の第1は、生産調整を「制度」として規定している食糧法の規定は17年当時も今も変わっていないということである。戸別所得補償制度を導入したというが食糧法は改正されてはいない。23年度から本格実施されるが、これを新たに制度化するための法案については、ねじれ国会となったために政府は提出を見送ったのである。
指摘の第2は、生産調整への参加が「経営者の経営判断による選択制に大きく転換した」というが、それは本当か? である。
平成16年の食糧法改正で、国の役割は政府備蓄米の管理だけに後退し、流通は原則自由化、そして生産調整については「農業者・農業者団体の主体的な需給調整システム」に委ねることになった。
このシステムについて梶井教授は当時の議論を振り返り、改正当時すでに生産調整は制度的には「選択制」に移行していたことを指摘、「民主党政権下で初めて選択制になったわけではない」と強調している。
梶井教授は本紙に対して「抜本的に転換したなどというが、実は『制度』自体は変わってはいないことをしっかり認識すべきだ」と改めて話す。重要な論点だ。
(続く)