◆低調な取引が続く
72年ぶりの米先物取引の再開ということから、この取引結果について「ご祝儀相場のような意味あいもあるのでは」(関西)とのコメントが小紙の取材にも寄せられた。
図はその後の推移を示したものだが、まさに“ご祝儀相場”だったといえる。
図は10月末時点の相場だが、東穀の12月限、1月限とも1万4440円へと大きく下落している。12月7日の相場をみると12月限:1万4360円、1月限:1万4430円とさらに下がっている。関西も同様で1万5000円台に下がっている。
何よりも取引高が大きく落ちた。取引開始当初こそ、東穀で4万tを超える出来高だったが、8月中旬には2000t台となった。12月7日の取引高も438枚、2628tにとどまっている。関西はわずか510枚、1530tに過ぎず、目標の10分の1の取引高となっているのが現状だ。
◆何のための試験上場か?
商品取引所で先物取引されているのは「標準品」であり、今回の試験上場で東穀は「23年産関東産コシヒカリ」とした。具体的には栃木、茨城、千葉のコシヒカリだが、JA全農が提示している相対取引価格はいずれも1万5500円だ。一方、先物相場は前述したように8月中旬以降からこの水準を下回り1万4000円台となっており、現物市場と1000円程度の開きがある。
かりに先物取引で8月に1万4000円台で売り注文が成立し現物受け渡し決済するとするなら、その場合は現物相場よりも低い価格で販売することになる。しかも、指定された倉庫への現物受け渡しの運送費用は自己負担だ。 反対売買(=買い戻すこと)を行い差金決済によって取引を終了させるとしても、売り注文と同じ条件(量と価格)で成立するとは限らないことも考えられる。試験上場の申請にあたって先物取引は農業経営の安定化に役立つと両取引所や商品市場関係者は強調したが、現状ではそのようなメリットはない。
何よりも問題なのはそもそも試験上場申請の際には、東西で合わせて130社を超える参加意向があると主張していたにも関わらず、参加者が少なく取引高が低調であるだけでなく、関西商品取引所では理事長が代表を務める商品取引会社がときには売買のほとんどを占める日もあるという実態だ。
この問題は取引スタートの8月にすでに指摘され、取引データをみると売買を行ったのはこの1社のみという日もある。
先物取引に詳しい関係者は「自作自演。取引の需要がないのに上場したということだ」と批判する。
11月30日に開催された食料・農業・農村政策審議会食糧部会でもJA全中の冨士重夫専務が「まさに取引実績づくりのためではないか。異常なことをやっているのなら農水省は即刻、試験上場認可を取り消すべきだ」との意見を述べた。
しかし、農水省の担当者は、商品取引の資格を持つ企業が取引に参加している以上、「何ら違法性があるものではない」と突っぱね、「72年ぶりの米先物取引開始から3カ月と少し。取引数量などにいろいろな議論はあるが評価するのはまだ早くしっかり注視していきたい」とかわした。
違法性はないとしても現在の低調な取引をみれば、商品取引所のための試験上場でしかなかったのではないか、との指摘は出そうだ。
農水省は米の先物取引について試験上場認可にあたって「コメ価格センターの解散により、米取引の指標価格が存在しないなかで取引の目安となる客観的な価格を提供」との考え方を示している(6月の論点と考え方)。 一方、23年産米の取引価格をみると、JA全農の相対販売基準価格よりも市中取引価格のほうが高い銘柄が多い。22年産米が買い急がれ23年産米は主産地の供給がタイトになるのではないかと先高感があった。また、作付け面積でも過剰作付けが大きく減少したことが明らかになり、米流通関係者によると現在の相場は「需給状況を見ているだけ」と話し、先物相場が目安にはなっていない、と話す。 その理由が取引量の少なさ。すでに触れたように東穀の場合、最大でも1日4万tでその後は数千tで推移している。試験上場の後、両取引所は本上場を申請するなら▽十分な取引量が見込まれること、▽対象商品の生産および流通を円滑にするために必要かつ適当であること、などを申請者として証明することが求められる。
これまでに商品先物取引市場に試験上場された国産農産物には、大豆ミール、野菜、バレイショ、ブロイラーがある。しかし、いずれも試験上場のみで本上場の申請は行われなかった。農水省によると申請されなかった理由は明らかではないというが、十分な取引量が見込めなかったことも考えられるという。
その後、これらの品目の価格形成は現物市場で行われている。「先物取引は必要がない、なくても困らない」と市場関係者も結論を出した結果だといえるだろう。
(以下、次回)