水稲用除草剤「バッチリ」が全国一となった
◆農業の現場で評価される企業になる
――小高根社長は就任されて何年ですか。
小高根 「2007年からですからもうすぐ5年です」
――安藤常務は…
安藤 「協友アグリが設立されたときからですので、今年10月の決算で7年です」
――社長が就任された時期は経営的に厳しく改革が必要な時期だったと思いますが、改革に着手されたときの基本的な考え方は…。
小高根 「“愚直に現場主義を貫く”です。日本の農業のなかで大きな存在感を示す協同組合セクターの系統メーカーですから、甘えの気持ちがなかったわけではない、という反省から、企業サイズは小さいけれど、現場で農薬という商品の特徴や正しい使い方、効果的な使い方を普及することに全力で取組んでいく。そのことで現場で認められ、評価していただく企業になる、というマインドを一人ひとりの社員が持つ…。そうしないと会社が維持できないという思いでした」
――この5年でずいぶんと変わられたのではありませんか。
小高根 「経営的な危機を脱しただけではなく、経営内容が充実してきています。愚直につまり正直に、誠実に、透明度の高いガラス張りの経営に切り替えた結果だといえます。いまが協友アグリの等身大の姿だといえます」
――社員の方の意識も変わりましたか。
安藤 「変わりました。以前はムリしてでも数字を作ってという傾向がありましたが、いまはお客さんの評価・支援があってそこで売上を作っていくというように変わりました」
(写真)小高根利明 代表取締役社長
◆5つのDNAを持つハイブリット企業
――合併企業が一つになるには時間がかかるといわれますが…
小高根 「協友アグリには大きくみて旧八洲化学、旧三笠化学、旧武田薬品、そして住友化学、さらに私のような協同組合というように5つのDNAがあります。これだけあるとDNA同士が対立するということはありません。むしろ多種多彩な企業文化やバックグラウンドを持った人たちがいるので、各々のDNAの良さをどうやって引き出して、新しいカラーを作り出すかと考えています」
安藤 「違った良さを持った“ハイブリット企業”になるということです。そしていま、協友アグリとしての共通の言語ができてきていると思います」
「さらに若い新入社員もこの2年間で30人近く入り、来年も10人強が入社、中途採用も入れれば50人を協友アグリとして採用し、新しいDNAも増えてきていますから、新しい協友のカラーを早くつくりたいと思います」
小高根 「TPPをはじめ日本の農業がおかれている状況や近未来の変化は非常に厳しいので、本当の実力をつけ、そうした環境変化に対応できるような企業でなければ、淘汰されると自覚しながらすすめています」
(写真)安藤敏 取締役常務執行役員営業部長
◆協友アグリ誕生を象徴する剤「バッチリ」
――「バッチリ」が上市されたのは平成20年でしたが、徐々に普及され23年には水稲用除草剤として全国一の普及面積となりましたが、具体的には…
安藤 「バッチリが18万8000ha、そしてバッチリの原体の一つであるピラクロニルの他社への原体供給を加えると48万haです」
――最初に開発されたのはいつですか。
安藤 「開発に着手したのは協友アグリが発足した年です」
「バッチリの中身は、旧八洲化学が開発したピラクロニル、旧武田が開発したイマゾスルフロン、そして住友化学が開発したブロモブチドで、協友アグリとして象徴的な剤の組み合わせになるのではという思いもあって開発しました」
小高根 「協友アグリができたからこそ開発された剤だといえます。効力・普遍性では自信がありましたので、大きく育てたいという思いはありました。それが全国一の普及面積となったのは、全国のJAのみなさんや農家のみなさんのご支援の賜物だと感謝しておりますし、嬉しくおもっています」
◆“これはいい”という現場の声を水平展開
――ここ数年、水稲除草剤は各社から新剤が上市され“戦国時代”の様相をみせているなかでのNo.1ですから、相当努力されたのでしょうね。
安藤 「当初、開発の段階では数ある除草剤のなかでトップになるとは思ってもいませんでした。試験場ではなく、実ほ場試験の結果“これはいいよ”とJAの営農指導員や生産者の方から認めてもらい、私たちが逆に教えてもらいました」
「どこそこでこう評価をされましたという現場の声を小冊子にし、水平展開と社内ではいっていますが、地道に広げていくことで、皆さんに支持され、評価され、この数字になったと思います」
――メーカーからの一方的な情報ではなく、遠回りではあっても現場の声を地道に伝え広げてきたことが良かったわけですね。
小高根 「数字はお客様の評価の結果だと考えていますので、私たちは何万haやりますとかという数値を対外的に示したことはありません。愚直に剤の性能を伝え、見ていただく機会をできるだけ多くつくり、お客様に選択していただくことに力を入れています」
小高根 「従来の農薬普及や営業のやり方とは、発想は異なっていると思いますが、それが現場主義ということです」
(写真)協友アグリ誕生の象徴的な剤として開発された「バッチリ」
◆田植同時処理や大型規格に対応したことも
――剤の性能と同時に使い勝手のよさもいまは大事な要素だといえますね。
小高根 「田植同時処理できるよう登録を拡大していますし、無人ヘリや直播などに対応できる性能をもっていますから、登録を広げていって、いろいろな使われ方をされ満足いただけるようにと考えています」
安藤 「田植同時処理が安心してできることも支持された大きな要素だといえます」
「担い手への対策として全農の大型規格品にも積極的に対応していることも、農家から支持された要因ではないかと思います」
小高根 「系統メーカーとして割安感があって使いやすい規格を提供するという思いがありましたので、経営的に安定したときに一番最初に行ったのが山形工場への10kg袋自動充填装置の導入でした」
――24農薬年度もバッチリ中心に展開していく予定ですか。
小高根 「住友化学が開発した新規ALS阻害剤・プロピリスルフロンと弊社のピラクロニルをコンビネーションさせた2種混合の水稲用初・中期一発処理除草剤『ビクトリーZ』を今年から発売しています。2種混合なので特栽米とか成分数を減らしたいというニーズに応えたものとして、バッチリと並行して普及していきます」
◆IPMで施設園芸にも貢献していく
――IPM関係にも積極的に取組まれてきていますが、今後、この分野では…
安藤 「系統はどちらかといえば園芸分野が弱いので、園芸農業を支えていくことができればと考え、IPMを強化しました」
「具体的には、商系ルートで販売されている出光興産の天敵を含めたいくつかのIPM資材を12月から販売開始しました。これで弊社の取扱剤だけで施設でのIPM体系防除ができる体制になりましたので、いままで以上に力をいれていきます」
小高根 「園芸分野とくにIPMで結果を残すためには、栽培のこともある程度分り、当然病害虫も分るといった技術力をもち、農家の方から相談を受けたらきちんと回答できる、より現場に刺さった技術力や機動力をもった人材を育成しなければなりません」
「私どもは、国内農業の発展に貢献できる企業になりたいと思いますし、そのためにはもっともっと技術力をもった人材を育成していくことが、今後の大きな課題だと考え、力を入れて取組んでいます」
――今後も現場主義を貫いていく…
小高根 「そうです。愚直に現場主義を貫き、それを実践できるような能力の高い社員を育成していく。そして評価はお客さんにしていただく。それで協友アグリが生き残れるかどうかが決まる。そういう思いでこれからも進めていこうと考えています」
※小高根社長の「高」の字は正式には旧字体です。