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地域や自分たちの将来の経営を見極めよう  (社)日本施設園芸協会・木田滋樹名誉会長

・韓国に追い上げられている日本
・崖っぷちに立っている日本の施設園芸
・GPECは見る展示会から将来を考える場に
・視野を広げ将来の経営を考えることが
・コストの積上げではなく目標からコストを設定する
・JAが中心になって産地の団地化を

 7月25日から東京ビッグサイトで第2回目となる「施設園芸・植物工場展」(GPEC)が開催される。従来の展示会とは異なり、生産者がこれからの経営を考える場にして欲しいというのが、主催者の基本的な考えだ。そこで、社団法人日本施設園芸協会の木田滋樹名誉会長にGPECの意図すること、そして現在の日本の施設園芸の課題について忌憚なく語ってもらった。

GPECの主役は生産者
施設園芸・植物工場展


◆韓国に追い上げられている日本

 ――今年の5月で日本施設園芸協会の会長を篠原温千葉大園芸学部教授に譲られ名誉会長となられましたが、協会の会長は何年務められたのでしょうか。
(社)日本施設園芸協会・木田滋樹名誉会長 「8年半です。篠原教授は私とはいろいろな意味で持ち味の違う人だから会長が代わることの意味があると思います」
 ――この間、日本の農業も変化してきましたし、施設園芸もずいぶん変わってきたのではないですか。
 「私に言わせると変わり方が遅すぎます。施設園芸協会は昭和47年(1972年)設立ですが、そのときの設立趣意書には”日本の施設園芸の現状は、規模は零細で経営の近代化も進んでいない。だから、施設の大型化、経営の近代化が喫緊の課題である。そのために協会をつくる”というようなことが書かれています」
 「それから40年経ちましたが、施設園芸の1戸当り平均経営規模は、当時の10aから現在の20aへと2倍にしかなっていません。ところがお隣の韓国は、日本を手本にかなり遅れてスタートしたのに、現状では1戸当り経営規模は70aになっています」


◆崖っぷちに立っている日本の施設園芸

 「世界的に施設園芸の国として知られるオランダではトマトの養液栽培で全国平均で10a70トン収穫しますし、目標は100トンだといいます。日本だと全国平均では10aで約7トンです。土耕が中心で露地もありますから…」
 「そういう意味では、日本の施設園芸は“崖っぷちに立っている”といえます。農業の中でも先頭を走るのが施設園芸といわれながら、こういう状況では将来に大きな懸念が残るわけです。そういう意味で、JAの経営幹部のみなさんにも施設園芸のこういう現状をしっかり認識してもらって、これからの日本の農業の将来を切り拓く先頭部隊としての施設園芸という位置づけで、しっかり力を入れてほしいと思います」
 ――日本は水田農業中心の発想が強いので施設に限らず園芸分野は後回しにされる傾向はありますね。
 「いまTPPが大きな問題となっていますが、施設園芸など野菜の世界はすでに関税も低く設定され、何かあれば輸入野菜がどんどん入ってくる“裸と同じ状態”です。そして韓国がものすごいスピードで追いかけてきています。遅いくらいですが“世界に冠たる日本の施設園芸”は健在だということを示していければ日本農業の将来展望を拓く道筋を示していけるのではと思います」


◆GPECは見る展示会から将来を考える場に

 ――そういう状況の中で、従来のスタイルから2010年に衣替えしたGPECの役割は何ですか。
 「従来は新しい施設や機械などを並べて見せれば良いという展示会でしたが、それではダメだということでGPECにしたわけです」
 「GPECは、施設園芸にかかわるすべての人たちが、この場を共有して日本の施設園芸の将来を考える場にしたいというのが基本的な考えです」
 「そして生産者を中心に来場してもらい、生産者がお客さんではなく主役として主体的に参加をしてもらいたい。主体的に参加することで、関係する人たちと一緒になって、自分たちの経営や地域の農業の将来を考える場にしてもらいたいのです」
 ――そういう意味で土耕だけではなく、最先端の植物工場まで幅広く施設園芸全体を考える材料を提供しているわけですね。
 「参加をした生産者は十人十色でものの見方・考え方がそれぞれ違うから、それぞれの人が自分の目線で何かを掴み取って帰れるように、土耕のパイプハウスから完全閉鎖型植物工場まですべてを網羅しています」
 「生産者の皆さんには、展示をしている人たちと積極的に会話して頂きたい。そしてGPECほど、海外の動向から国内の具体的な取組みまで、幅広いテーマで数多くのセミナーを実施しているところは他にはありません。また、経営問題から栽培技術、国の補助金や融資まで幅広い分野に亘って専門家が直接お答えする相談コーナーも設置しています」


◆視野を広げ将来の経営を考えることが

 ――メディアを中心に植物工場に注目が集まり勝ちですが…
 「一般の人たちの関心はそちらにいきますが、GPECは生産者主体、生産者に何かを掴んで帰ってもらう仕組みにしようと考えています。従って生産者の皆さんには、自分たちがやっている施設園芸の最先端の位置にある植物工場で今どのような技術が開かれつつあるかということをしっかり認識したうえで、自分の経営を考えてもらいたいと思っています」
 「植物工場をめざす人たちのためだけに用意しているわけではありません。パイプハウスから完全閉鎖型植物工場に至る幅広い世界の中で、自分の立ち位置はどこかをしっかり見据えたうえで、視野を広げて将来を含めて自分の経営を考えてもらえばいいわけです」
 ――視野を広げて自分の位置づけを見直す場にして欲しいということですね。
 「自分の経営の見通しを立てるには施設園芸の世界が諸外国も含めて、どう動いているかをよく見ていくことが大事だと思います」
 「儲かる経営を実現するためには、世の中の動きをしっかり見極める必要があるということです。そしてJAの役職員の人たちにも、地域農業の展望を考えるときに、その“矢じり”の部分に施設園芸を位置づけて新しい時代を切り拓く取組みをして欲しいと思います」


◆コストの積上げではなく目標からコストを設定する

 「これからの新しい地域農業を打ち立てるためには、若い人たちに施設園芸の世界に入ってもらい、地域の目指すこれからの新しい農業の姿を示していくことが重要だと思います」
 「そのためには経営の目標というか展望を明確な数値を置いた具体的なものにして示すことが極めて重要だと思います。具体的には、人並みの労働時間で人並み以上の所得を得る“時間当たり所得”の概念が必要だと思います。従来のようなコストなどの積上げから経営を考えるのではなく、時間当たり3000円とか5000円確保するには、どういう価値のものをいくらのコストでつくるのか。そのために掛けられる施設関係の総経費はいくらかと考えることです。それが本当の経営ではないですか」
 ――とりあえずハウスをつくってから、ではダメということ…
 「どういうものをいくらでつくるかがまずあって、それに必要な最低限の装備として何があり、掛けられるコストの限度はここまでと考えなければ本当の経営はないでしょう。そういうことも含めてGPECに来て、いろいろなものを見て、いろいろな人と議論をして、考えて欲しいということです」


◆JAが中心になって産地の団地化を


 ――先ほど40年経っても規模拡大できす、崖っぷちにあるという指摘がありましたが、世界に負けない日本の施設園芸にするためにはどうすればいいとお考えですか」
 「JA中心となって産地を団地化し、そこには集出荷施設もあり、一定以上の量と品質を保証してブランド化することではないですか。それは単につくったら売りますではなく、地域特性に合ったマーケットはどこで、そこにどういう商品供給をしていくかという基本方針を明確にして、生産者に示して技術的なことも含めてお互いに話し合い、考え、実行することです」
 ――そういうことをGPECに来て、生産者もJAの関係者も考えて欲しい…
 「ここへくると、自分のアンテナが広がり、視野が広がるので、目標がある人はそれを検証することができますし、とくに目標を持たなくても、将来を考える多くの要素がここにはあります。施設園芸で結果が出せれば露地野菜や他の分野にもおうようできますから…」

※GPECの詳細はwww.gpec.jpで確認できる。

           第7回

(2012.07.23)