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放射性物質検査を考える

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【放射性物質検査を考える】第3回 「被災地を支援したい」声が理解を広める

・農水省が自主検査に対して通知
・生産者の努力と消費者の理解
・産地の実情を伝える

 農林水産省は4月20日、食品中の放射性物質の自主検査について関係企業などへ通知を出した。
 通知では自主検査を実施している事業者に対して「過剰な規制と消費段階での混乱を避けるため」、独自基準を設けるのではなく国が4月から定めた食品衛生法による新基準値で判断するよう求めた。 また、科学的に信頼できる分析のための要件も示した。
 それによると、「いつ、どこで、誰が分析しても同様の分析結果が得られる」ように科学的・客観的に検証された方法を使用することが必要だ、としている。
 また、分析者には組織管理、内部での分析の精度管理などのマネジメント体制を構築することや、定期的に外部の技能試験を受けて自らの技能を評価することも求められるとした。そのほか、確認分析が必要になった場合に備え、分析試料と同じ量の食品を冷凍保存しておくことなども留意事項として指摘した。

◆農水省が自主検査に対して通知

 この通知について鹿野農相は、4月24日の記者会見で強制するものではないとの考えを示し、独自基準で自主検査を行っている業者がいることについて「否定するものではなく、差し出がましく口を挟んでいくということではない」として、新基準値について理解と周知のためであることを強調した。
 とくに、農水省は今回の通知で新基準値が国際基準にくらべても厳しい基準であることを改めて強調している。
 この欄でもすでに解説したが、新基準値はFA0(国連食料農業機関)とWHO(世界保健機構)の合同会議であるコーデックス委員会の指標である年間1ミリシーベルトに合わせた。そのため暫定規制値よりも5分の1に引き下げられた。
 そのうえで基準値を算定する際の前提条件として、放射性物質に汚染された一般食品の割合を50%とした。コーデックス基準ではこれは10%となっている。EUもこの前提で基準値を決めている。一方、日本では原発事故が起きてセシウムなどが放出、汚染された食品の割合が高くなっているとの前提に立った。


◆生産者の努力と消費者の理解

 このように国際的にも厳しい基準を決めたにも関わらず、さらに引き下げた基準で独自に検査をする取り組みがあるのは、国の基準に対する国民の不信感があるからではないか―。こう問われた鹿野農相は「そういう方々も現実、おられる」として厚労省とともに不安払しょくに努める姿勢を強調した。
 同時に、生産者にとっても新基準値は厳しいものになっているとして「生産者の方々の努力、消費者に方々の理解がうまくマッチしていくことになればいい」と鹿野農相は話した。
 農相の答弁は何とも苦しいものと言わざるを得ないが、消費者のなかには正確な理解をして産地を支援しようという動きもある。
4月20日、消費庁などが開いた放射性物質対策に関するリスクコミュニケーション 4月20日、消費庁などが東京で開いた放射性物質対策に関するリスクコミュニケーション。日本生協連理事でコープとうきょうの河野恵美子理事は、同生協連が昨年7月に実施したアンケート結果から、震災後の食品利用の変化などを報告した。
 それによると原発事故後の買い物で「放射能汚染問題が心配なため特定産地のものは買わないようにしている」が42.3%だが、「産地を意識しているが実際はあまり気にしていない」が40.6%あった。
 また、「被災地を応援したいので特定の産地のものを買うようにしている」が20.9%あった。河野理事よると生協組合員には、不安な産地の商品は扱わないでという声がある一方、福島産や茨城産を積極的に扱ってほしいとの声もあるという。
 生協では学習会を行ってきたが「怖さを伝えるだけになってしまった」との反省も出ているといい、「福島に行ってみて、偏らない知識で判断して行動することを学んだ」などの認識も広がっているという。そのうえで不安に思う消費者を責めることはできないとしつつも、▽産地状況を伝え風評被害を減らす、▽商品の利用で被災地支援につなげる、といった取り組みを進めていくことの重要性を強調した。

(写真)4月20日、消費庁などが開いた放射性物質対策に関するリスクコミュニケーション


◆産地の実情を伝える

 その産地の実情については2人の農業者が報告した。
 郡山市で糖度の高いニンジン、キャベツなどブランド野菜の生産と直売に仲間と取り組んできた鈴木光一さんは事故後、露地野菜のほとんどが出荷制限に。解除された後も風評被害で販売額が激減。今では全品が検査され安全性は確認されているが「消費者には“安心”のところまでいっていないのが問題。もっと情報提供をしていかなければ」と話した。
 その情報のひとつとして放射性物質の検査結果だけでなく「おいしさや栄養価なども数値化して示せないか」と考えているという。
 栃木県の大田原市の酪農家、坂主正さんは県内にいる酪農家は1000戸だが毎日900tの生乳を東京に届けていることを強調。原発事故で3000haもの牧草地が汚染され今でも牧草が放置されている状況を話し、しかし、どの酪農家もセシウム検出ゼロを続けている、と産地の努力を強調、「私たちは商品をつくっているという意識を持っている」と訴えた。
 2人の生産者の報告に会場からは拍手が湧いた。これまで政府はさまざまなテーマでリスクコミュニケーションの場を設けてきたがこんな光景は初めてではないか。
 鈴木さんはこんな根本問題も投げかけた。 「原発はこれからどうなっていくのか。福島の農業がどうなっていくのか。息子に農場をつないでいけるかも不安だ」。
 会場の参加者からも「そもそもこういう場をつくらなければならないことこそ罪深いこと」との指摘もあった。
 それだけに、日本生協連調査で示された「被災地を支援したい」という消費者がいることは、産地復興のためにも食品の放射性物質検査について正確に理解しようという動きにもつながるといえる。食品安全委員会の熊谷進委員長代理も「被災地を支援したいという人にこそ情報が必要。もっとこうした層が増えることを期待したい」と述べた。
 また、この日は食品と放射性物質の知識について改めて厚労省などから説明された。
 そのなかで自然放射線により食品から年間0.41ミリシーベルトの線量を受けることや、昨年9月と11月に、東京、宮城、福島で実際に流通している食品を調べたところ、放射性セシウムの摂取量は年間0.002から0.02ミリシーベルトであることも分かったことが説明された。放射性セシウムの摂取量は自然界に存在する放射性カリウムの摂取量0.2ミリシーベルトよりも小さい。
 ただし、会場からは公表される食品の検査数値などについて単に数値を伝えるだけでなく、その意味についても分かりやすく伝える努力が必要だとの指摘も出た。報道にとっても課題である。

           第3回

(2012.04.27)