茨城県は春ハクサイ、春レタスの作付で全国一
茨城県では春野菜として、春ハクサイ、春レタスのトンネル栽培を行っている。茨城の園芸(茨城県農林水産部産地振興課公表:平成21年)によれば、春ハクサイ(4月〜6月収穫)の作付面積は、616ha、収穫量が4万6800tであり、また、春レタス(4月〜5月収穫)では1390ha、4万0900tといずれも全国1位となっており、本県の野菜の主要品目である。
今回は、春ハクサイおよび春レタスに発生する主要病害虫の発生状況とその防除対策のポイントについて述べてみる。
春ハクサイ、春レタスともに発生する病害虫は、病害が主体である。そこで、防除対策を講じることが必要な病害として、春ハクサイではべと病、白斑病を、春レタスでは、腐敗病、菌核病を取り上げ、被害の特徴、病原菌とその生態、防除のポイント、薬剤防除の方法と注意点について記載する。
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春ハクサイ
気温低く多湿が続くと発生する「べと病」
◆主に葉に発生
主に葉に発生する。葉では、はじめ外葉に淡黄色の不規則な形をした病斑ができ、その裏面に灰白色のかびを生じる。病斑は葉脈に仕切られた多角形となることもある。病斑はやがて淡褐色となり、多発生すると外葉から枯死する。
葉柄部に発生する場合と、はじめ糸状の黒点症状が現れ、その後、墨が入ったような症状になる。病勢が進むと、墨状の部分が陥没する。この症状は、外葉のみならず結球葉でも発生がみられ、内部まで進展することもある。
このように葉柄部に発生するべと病は、通称「茎べと」とも言われている。葉柄部に発生するべと病は黄芯系品種で発生が多くみられる。
気温が比較的低く推移し、多湿状態が続くような日が多いと多発生する。茨城県では2月頃から発生がみられる。
(写真)
茎に発生したハクサイべと病
◆病原菌は風雨で飛散
病原菌は、糸状菌(かび)である。
べと病菌は、菌糸または卵胞子の形で発病株の根部または病葉について越冬し、温度と湿度が適当な条件になると分生子を形成する。分生子は、風雨等により葉に運ばれ、発芽して細胞の境目や気孔から侵入し、感染する。発病すると葉裏に再び分生子を形成し、これらが飛散して第二次感染する。
べと病菌の発育最適温度は7〜13℃で、最高は25℃、最低は3〜4℃である。
◆トンネル内の湿気を低く
・ほ場の排水対策を実施する。トンネル内が多湿になると発生が助長されるので、換気によりトンネル内の湿度を低く保つ。
・発病部位は早急に取り除き、ほ場外に持ち出し適切に処分する。
・伝染源となるほ場周辺の雑草等は除草し、適切に処分する。
・栽培終了後は、被害残渣の適切な処分を行い、ほ場衛生に注意する。
・堆肥を十分に施し、生育中期以降に肥切れしないように注意する。
◆発病初期から薬剤防除を徹底
多発すると防除が困難となるため、発病初期からの薬剤防除を徹底する。薬剤散布は、薬液が葉裏や株元にもかかるよう丁寧に十分な量を散布する。
・薬剤選択の参考事例(平成24年茨城県農作物病害虫・雑草防除指針のハクサイべと病に掲載されている薬剤を参考にした事例)(表1)
(1)収穫までに日数がかなりある時に初発生が見られ、全体的には少ない発生の場合
フェスティバルM水和剤を散布し、その10日後にダコニール1000を散布し、発病進展の状況をみる(有効成分のTPNは2回以内しか散布できないので注意する)。
(2)収穫までの日数がかなりある時に初発生が見られ、全体的に多く発生している場合
ホライズンドライフロアブルを散布し、その10日後にプロポーズ顆粒水和剤を散
布して発病進展や新たな発病を抑制する。
(3)収穫が近く、発生が多く見られる場合プロポーズ顆粒水和剤を散布し、その7日後にランマンフロアブルを散布する。
ハクサイの全生育期で発生する「白斑病」
◆発生多い雨が多い年
はじめ葉の表面に、灰褐色の小さい斑点ができる。病斑はのちに拡大し、円形、多角形または不規則な形となる。大きさは6〜10mmとなり、灰白色または白色となる。
病斑がたくさんできると、葉は火であぶったようになり、著しく商品価値を損なう。はじめ老葉に発生し、次第に新葉に進展する。
ハクサイの全生育期を通じて発生し、雨が多い年に発生が多い。また、連作すると発病が多くなる。
◆空気伝染する病原菌
病原菌は、糸状菌(かび)である。
白斑病菌は、主に菌糸の形で罹病葉の組織内で越冬し、温度と湿度が適当な条件になると分生子を形成し、空気伝染する。
分生子は葉から侵入し、侵入後15〜16日で病斑が作られる。葉の病斑上にも分生子ができ、風などで飛散して二次感染する。
◆ほ場衛生に努める
・発病部位は早急に取り除き、ほ場外に持ち出し土中に埋設するなどして適切に処分する。
・栽培終了後は、被害残渣を土中に埋設するなどして適切な処分を行い、ほ場衛生に努める。
・多発生した場合はアブラナ科以外の作物を導入した輪作を行う。
◆多発すると防除が困難に
多発すると防除が困難となるため、発病初期からの薬剤防除を徹底する。薬剤散布は、薬液が葉裏にもかかるよう丁寧に十分な量を散布する。
・薬剤選択の参考事例(平成24年茨城県農作物病害虫・雑草防除指針のハクサイ白斑病に掲載されている薬剤を参考にした事例)(表2)
(1)収穫までの日数がかなりある時に初発生が見られ、発生が少ない場合
ジマンダイセン水和剤、オーソサイド水和剤80、ダコニール1000を交互に10日間隔で散布し、二次感染を予防する。
(2)発生が散見される場合
トップジンM水和剤を散布し、その7日後にロブラール水和剤を散布して発病進展
を抑える。
春レタス
悪臭をともなわない「腐敗病」
◆2つの型がある病徴
病原菌は以下の3種類の細菌である。
病徴は2つの型に分かれる。病原菌によって1つは、結球葉の外側に黒褐色、不整形の病斑を生じ、同様の症状が内部の数枚の葉にも及ぶ。病勢の進展は比較的早い。
病斑は葉肉部だけが黒変し、表皮が腐らないため、表面が光って見える。もう1つの場合は、葉縁あるいは凍霜害を受けた部分から発病し、暗緑色または暗褐色水浸状に腐敗し、乾くと褐色の紙のようになる。茨城県では2月頃から発生がみられる。
また、本病による腐敗は、悪臭を伴わない。
(写真)
レタスの栽培状況
◆日中の換気を十分に
・トンネル内が高温多湿にならないよう、日中は換気を十分に行う。
・排水を良好にする。
・雨中、降雨直後の収穫は避ける。
・適切な肥培管理を行い、窒素過多または肥切れを防ぐ。
◆強風雨後はいち早く薬剤を散布
強風雨の後は、できるだけ早く薬剤散布を行う。
・薬剤選択の参考事例(平成24年茨城県農作物病害虫・雑草防除指針のレタス腐敗病に掲載されている薬剤を参考にした事例)(表3)
(1)発生が少ない場合
有機銅剤であるキノンドーフロアブルやヨネポン水和剤、銅が一部成分であるカスミンボルドー及びカッパーシン水和剤を予防重点にして散布する。ただし、有機銅剤は汚れを生じることがあるので収穫が近い場合は汚れの心配のない薬剤を散布する。また、カスミンボルドー及びカッパーシン水和剤の薬害軽減にはクレフノン(炭酸カルシウム剤)の添加は有効であるが、収穫が近い場合は添加しない。
(2)発生が散見される場合
発病抑制効果が高いスターナ水和剤、アグレプト水和剤、バリダシン液剤5を7日間隔で交互に散布する。
(写真)
レタス菌核病
平均気温15〜20度ころに発生しやすい「菌核病」
◆病原菌は糸状菌(かび)
はじめ地際の茎や葉の基部に水浸状の病斑が現れる。やがて淡褐色水浸状となり、地際の茎あるいは葉の基部が軟化腐敗し、下葉から順次しおれてくる。
腐敗した株の葉の基部などには、白色綿状のかびが生じ、さらに進展するとそこにネズミの糞に似た黒色の菌核を作る。
茨城県では2月頃から発生がみられる。
病原菌は、糸状菌(かび)である。
菌核病菌の発育適温は15〜20℃で、25℃以上では発育が抑制される。平均気温が15〜20℃になってきた頃に発生しやすい。
(写真)
レタス腐敗病
◆菌核をほ場に残さない
・トンネル内が高温多湿にならないよう、日中は換気を十分に行う。
・排水を良好にする。
・発生を認めた場合は、菌核が形成される前に発病株を抜き取り、土中に埋設するなどして適正に処分する。
・収穫後は、菌核をほ場に残さないよう被害残さをほ場外へ持ち出し、土中に埋設するなどして適正に処分する。
◆薬剤防除を徹底
発病株を抜き取ったら薬剤防除を徹底する。
・薬剤選択の参考事例(平成24年茨城県農作物病害虫・雑草防除指針のレタス菌核病に掲載されている薬剤を参考にした事例)(表4)
(1)発生を確認した場合
スミブレンド水和剤かスミレックス水和剤を散布し、その10日後にカンタスドライフロアブルを散布する。
(写真)
多発生したレタス菌核病
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ドリフト(飛散)防止対策
ドリフト(飛散)問題が発生しないよう右記に示したような基本的散布操作を励行する。
・風の弱い時に風向に注意して散布する。
・散布の方向や位置に注意する。
・適切なノズルを用い、適正な圧力で散布する。
・適正な散布量で散布を行う。
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