シリーズ

現場に役立つ農薬の基礎知識

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第9回 土壌消毒剤の上手な使い方

・連作障害はどうして起こるのか?
・土壌消毒による連作障害の回避
・剤の特徴を上手に活かした使用を

 昨今は農産物が1年中スーパー等の売場を賑わせているのが当たり前になった。農産物の季節感も薄れ、栽培技術の進歩もあるが、施設作物については、ほぼ年中供給できるようになり、同じ施設で同じ作物を連続でつくることがごく普通になっている。また、高齢化によって農家が減る中、一定の供給量を担保するためには、特定の産地に生産が集中することとなり、どうしてもそういった産地での連作が常態化している。
 このことが、年々作物の生育が悪くなり収量や品質が落ちる連作障害を招く結果となり、優良産地であればあるほど、避けることのできない大きな問題として立ちはだかっている。
 今回は、この連作障害にスポットをあて、その回避に必要な土壌消毒について紹介する。連作障害には、肥料成分や微量要素の不足などにより発生するものもあるが、ここでは特に直接的な被害が起きる病害虫による障害に絞って紹介する。

病害虫によって効果が違う土壌消毒方法


連作障害はどうして起こるのか?


同じ施設で同じ作物をつくり続けると連作障害が 病害虫による連作障害は、同一の作物を作付し続けることで、その同一の作物を好む土壌病原菌や土壌害虫が選択的に大量に増殖することによって起こる。つまり、土壌病害虫にとって快適な環境が続くため、他の土壌微生物や昆虫たちよりも土壌病害虫が優先化してのさばってしまった結果発生する。
 これを防ぐためには、農作物の種類を変える輪作が効果的であるが、供給量を確保するために、連作を余儀なくされる場合も多く、なかなかうまい輪作体系を確立できないのが現状のようである。

(写真)
同じ施設で同じ作物をつくり続けると連作障害が

 

土壌消毒による連作障害の回避


 病害虫による連作障害は、その原因となっている病害虫を駆除することで回避できる。その方法として一般的なのが土壌消毒である。一口に土壌消毒といっても、太陽熱消毒など熱を使うものや、土壌消毒剤を使うものまで様々であるが、効果の面や土壌病害虫の種類によって効果があったりなかったりする。以下に、主な土壌消毒法をご紹介する。


◆太陽光で病害虫を死滅「太陽熱消毒」

 土壌に十分な水分を入れ、ビニールなどで被覆して太陽光を当て、土壌の温度を上昇させることで、中にいる土壌病害虫を死滅させる方法である。
 この方法を成功させるためには、内部の温度をどれだけ上昇させることができるかが鍵である。連作障害を起こすたいがいの病害虫は、およそ60℃の温度で死滅してしまうため、いかに土壌内部の温度を60℃に到達させることができるかどうかで成否が分かれる。
 太陽光でこの温度まで上昇させるためには、施設を密閉して十分な太陽光を当てる必要があり、夏場でも日射量が少ないところでは60℃に達するまでいかない場合もある。
 このため、露地でマルチをした程度では、土壌表面の消毒にしかならず、十分な効果が期待できないことも多い。
 このため、夏場にカンカン照りになる西南暖地などの施設栽培向きの消毒法といえる。


◆有機物を土壌に混入する「土壌還元消毒法」

 この方法は、フスマや米ぬかなど、分解されやすい有機物を土壌に混入した上で、土壌を水で満たし、太陽熱による加熱を行うものである。
 これにより、土壌に混入された有機物をエサにして土壌中にいる微生物が活発に増殖することで土壌の酸素を消費して還元常態にし、病原菌を窒息させて死滅させることができる。この他、有機物から出る有機酸も病原菌に影響しているとのことである。
 このため、有機物を入れない太陽熱消毒よりも低温で効果を示すので、北日本など日照の少ない地域でも利用が可能な方法である。ただし、還元作用により悪臭(どぶ臭)が出るので、住居が近接しているようなところでは注意が必要である。


◆お湯や蒸気による「蒸気・熱水消毒」

 文字通り、土壌に蒸気や熱水を注入し、土壌中の温度を上昇させて消毒する方法である。
 病害虫を死滅させる原理は太陽熱と同じで、いかに土壌内部温度を60℃にまで上昇させるかが鍵である。
 土壌内に効率よく蒸気や熱水を行き渡らせるための工夫が消毒機器メーカーによってなされ、それぞれに成果をあげている。
 ただし、この方法を実施するには、お湯や蒸気を発生させるためのボイラーや土壌に均一に注入するための設備が必要であるため、そこそこの投資と燃料代のランニングコストが発生する。このため、稼動可能な設備を共同で使用するなど、地域一体となった大掛かりな取り組みが必要のようである。

 

剤の特徴を上手に活かした使用を


◆土壌消毒剤による消毒

 効果の安定性やコスト面から考えても、現在の技術で最も一般的なのが土壌消毒剤の使用による土壌消毒である。
 土壌消毒剤の分野では、長い間臭化メチルが主流であった。しかし、1992年にモントリオール議定書契約国会合においてオゾン層破壊物質に指定されたため、先進国では、検疫や土壌ウイルス防除など不可欠な用途を除いて2005年に全廃することになった。
 その後、不可欠用途の許可数量は減り続け、国際的に「全廃すべき」との機運が高まり、2012年に土壌用の臭化メチルの使用が廃止されることとなった。このため、2013年からは、土壌消毒用の臭化メチルは、例外なく一切姿を消すことになった。
 すでに、臭化メチル代替の技術開発は各地で進んでいるので、大きな混乱はないかと思うが、土壌消毒剤にはそれぞれ特徴があるので、それらを良く把握し、上手に使用願いたい。以下に主な成分の特徴を示す。

 

クロルピクリン
(商品名:クロールピクリン、ドジョウピクリンなど)


 揮発性の液体で、土壌に注入することで効果を発揮する。激しい刺激臭がするので、使用時は、防毒マスク、保護メガネ、ゴム手袋など保護具の着用が必須である。その反面、ガス抜けが早いので、ガス抜き作業が基本的に不要なのが特徴である。
 最近では、灌注機や同時マルチ機などが普及し、より安全により楽に処理できるようになっているので可能であれば利用したい。クロルピクリン剤PVAフィルムに封入し、土壌に埋設するだけの簡単処理ができるようにしたクロピクテープやクロピク錠剤があるので適宜使用するとよい。主に、フザリウム病など土壌病害に効果を発揮する。

 

D―D
(商品名:D―D、DC油剤、テロン)

 主に、土壌センチュウに効果を発揮する。クロルピクリンに比べ、ガス抜けが悪いので、丁寧に耕起して、ガス抜き期間3〜4日を確実において作付けに移る。ガス抜きが不十分だと薬害が起こるので注意が必要。

 

ダゾメット
(商品名:ガスタード微粒剤、バスアミド微粒剤)


 微粒剤を土壌に均一散布し、土壌の水分に反応して、有効成分であるMITC(メチルイソシアネート)を出して効果を発揮する。そのため、処理時には適度な水分が必要であり、ガス抜きも10〜14日と比較的長い期間が必要である。主に土壌病害に効果を示す。

 

土壌消毒剤の上手な使い方ヨウ化メチル
(商品名:ヨーカヒューム)


 常温で液体であるため、臭化メチルほどの拡散力はなく、液体の土壌注入によって使用する。効果は最も臭化メチルに近いが、ガス抜きにやや時間がかかる。

主な土壌消毒剤の特徴

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           第9回

(2012.06.22)