地域ごとに発生害虫の種類・時期を把握して
主な水稲害虫
最近は中・後期防除を重視
水稲の生育初期では、イネミズゾウムシ、イネドロオイムシ、ヒメトビウンカなどが主な防除対象害虫だ。しかし、これらは、近年普及が進んでいる育苗箱処理剤で防除できてしまうので、最近ではあまり問題となることはなくなった。あるとすれば、抵抗性害虫の発生による効果の低下が問題となるようだ。
もっぱら、近年の防除上重要視されているのは中期や後期に発生する害虫であり、それは、カメムシをはじめとして、イナゴやニカメイチュウ、ツマグロヨコバイ、トビイロウンカ、コブノメイガ、フタオビコヤガ等の害虫である。
これらの害虫についても、長期に持続する有効成分の開発により、育苗箱処理で効率的に防除できる薬剤も登場している。
ただし、「育苗箱処理剤」は薬剤によって残効期間や防除対象となる害虫が異なるため、その地域での害虫の種類や発生時期を把握することが重要になってくる。
(写真)左からツマグロヨコバイ(雄成虫)、アカスジメクラガメ、ハネナガイナゴ
初期の害虫
◆ウイルス病を媒介するヒメトビウンカに注意
イネミズゾウムシとイネドロオイムシ
イネミズゾウムシは、雑木林や堤防、畦畔などの雑草の株元で冬を過ごした越冬成虫は周辺のイネ科雑草を食べ、田植が始まると水田に侵入してくる。
イネドロオイムシは、幼虫がドロの塊を背負っていることからこの名前がついた。寒冷地中心の害虫であるが、近年では暖地でも山間部を中心に発生している。
この2つの害虫の被害はよく似ており、成虫と幼虫がイネの葉を食べて白くボロボロにすることであり、いずれも幼虫の被害の方が大きい。
(写真)上からイネミズゾウムシ(成虫)、イネドロオイムシ(成虫)
イネ科雑草で越冬するヒメトビウンカ
ヒメトビウンカは、大き目の幼虫で越冬し、最初はイネ科雑草やムギ類を棲みかとしているが、田植えが始まると広範囲の水田に飛んでくる。
ヒメトビウンカは、稲縞葉枯病や黒条萎縮病などのウイルス病を媒介し、この被害の方が大きいので保毒虫率などの情報には常に注意が必要だ。
(写真)
ウィルス病を媒介するヒメトビウンカ(雌成虫)
中・後期の害虫
◆斑点米引き起こすカメムシ類
種類が多いカメムシ類
中・後期に発生する害虫で最も防除が必要なのがカメムシ類である。
出穂直後〜固熟期前の柔らかい籾に吸汁針を刺して、汁を吸い、その刺した痕に菌が入るなどして斑点米を引き起こす。
斑点米は、等級を下げる要因であるうえ、その基準が厳しいため防除が欠かせない。
それに単にカメムシといっても種類が多く、近年の斑点米の原因カメムシとしては、小型のアカヒゲホソミドリカスミカメやアカスジカスミカメ、大型のクモヘリカメムシやトゲシラホシカメムシが主なものである。
小型のものは、育苗箱処理剤や本田の粒剤処理でも防除が可能な場合もあるが、大型のものは育苗箱処理剤での防除は難しく、散布剤による防除が必要となる。
(写真)上からホソハリカメムシ、シラホシカメムシ
抵抗性もったものもいるトビイロウンカ
その他、ウンカ類ではトビイロウンカが被害の大きい重要害虫である。偏西風の変化が影響してか、近年は飛来時期が大きくずれたりする上、主要防除剤であるネオニコチノイド剤の抵抗性を持った害虫も飛来するようになっており、薬剤選択の際に注意が必要だ。
(写真)トビイロウンカ
年ごとに発生程度が変わるガの仲間
ガの仲間(チョウ目害虫)では、ニカメイチュウ、コブノメイガ、フタオビコヤガが主要害虫であるが、近年では、一部地域でフタオビコヤガが大発生して問題になった。
年ごとに発生程度が変わるので、広範囲に効果のある薬剤が必要である。
(写真)上からニカメイチュウ(幼虫)、コブノメイガ(成虫)
上手な薬剤の選び方
育苗箱処理を中心に薬剤を選択
近年の環境問題や薬剤使用回数制限の問題などから、病害と同じように害虫の場合も育苗箱処理剤を中心に据えることにより効率よく防除できるようだ。
近年は、長期に効果が持続する有効成分が広く普及しているので、それらの中から、害虫の発生状況に合わせて薬剤を選択すればよい。
◆初期害虫のみの地域では
例えば、害虫の発生が初期害虫のみの地域の場合は、ベンフラカルブ(オンコル)剤やカルボスルファン(ガゼットなど)剤、カルタップ塩酸塩(パダン)剤を選べばよい。
初期害虫に加え、トビイロウンカを抑えたい場合は、残効の長いネオニコチノイド(アドマイヤー、ダントツ、スタークル、アクタラ)剤を選べばよい。
これにチョウ目害虫も問題になるようであれば、フィプロニル(プリンス)剤やクロラントラニリプロール(フェルテラ)を含む薬剤を選ぶ。
◆小型と大型では防除が異なるカメムシ類
ただ、厄介なのはカメムシ類だ。育苗箱処理でカメムシにまで効果を示す薬剤は、いずれもネオニコチノイド系薬剤のジノテフラン(スタークル)剤、クロチアニジン(ダントツ剤)、チアメトキサム高濃度(アクタラ)である。
これらの育苗箱処理で効果が発揮されるのは、どちらかというと小型カメムシ中心で、大型カメムシへの効果は期待が薄いとのこと。
このため、大型カメムシが問題となる地域では、育苗箱処理で大型カメムシ以外を防除し、大型カメムシには専用の防除が必要となる。
大型カメムシ用の薬剤としては、エチプロール(キラップ)剤やエトフェンプロックス(トレボン)剤、MEP(スミチオン)剤に定評がある。
◆田んぼが違えば発生害虫が違うことも
このように、様々な場面に対応できるだけの数の薬剤が普及しているが、同じような薬剤があって、その選択には苦労する場面も多いだろう。そういった場合は、よく地域での害虫の発生状況を把握した上で、試験結果や先行事例などをよく吟味し、地域にあった薬剤を選択するようにしていただきたい。
その場合でも、害虫の発生は、同じ町内であっても田んぼが違えば発生が違うこともあることをよく考えて、個別対応しなければならない、あらかじめ対応策を練っておくようにしたいものである。