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現場に役立つ農薬の基礎知識

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第12回 夏のカンキツ類・カキの病害虫防除  佐賀県上場営農研究センター研究部長 田代暢哉

・カンキツ類の主要な病害虫とその防除法
・長雨の予報が出たら迷わず薬剤散布を
・台風襲来前に必ず薬剤散布をすませておく

 この号が読者のもとに届くころは、夏の暑さが本格的になっていると思われるが、今回はこの夏の時期の果樹、特にカンキツ類とカキの病害虫にはどのようなものがあり、その防除のポイントと、数多くの剤から、何を基準に薬剤を選択したらよいのか、そしてもっとも有効な使い方のポイントは何かなどについて、佐賀県上場営農センターの田代暢哉研究部長に執筆していただいた。

8月下旬〜9月上旬が最重要防除時期


カンキツ類の主要な病害虫とその防除法


黒点病
黒点病(軸腐病) 8月下旬にマンゼブ水和剤(ペンコゼブ、ジマンダイセン)を散布する。黒点病のみでよい時は600倍とするが、褐色腐敗病やチャノキイロアザミウマとの同時防除を兼ねる場合には400倍で散布する。
 なお、前回散布時からの累積降雨量が300mm程度に達している場合には、8月上中旬であっても直ちに散布する。感染は10月上まで続き、一方で9月の長雨によって残効が切れることもあるので、高糖系温州や中晩柑では、8月散布の残効が9月中下旬にきれそうなときにはもう一回の散布が必要。
 マンゼブ水和剤の使用回数は4回までなので、多雨によってこの回数を超えるときには、有機銅水和剤またはストロビードライフロアブルを使う。

(写真)黒点病(軸腐病)


褐色腐敗病
黒腐病 8月下旬にマンゼブ水和剤(ペンコゼブ、マンゼブ)を400倍で散布する。600倍では力不足。豪雨や長雨で多感染が起きたと考えられる場合には雨があがったら直ちにアリエッティ水和剤、またはリドミル銅水和剤(炭酸カルシウム剤200倍加用)を散布する。
 降雨後の時間の経過とともに発病抑制効果は低下するので、直ちに対応することが必須。アリエッティ水和剤は400倍で散布するが、気温が30℃度を超えるような場合には果実に日焼け症状の激しい薬害を生じるので、高温が予想されるときは散布できない。

(写真)黒腐病


かいよう病かいよう病:葉身に多数形成された病斑
 銅剤で対応する。このうち、最も効果が高いのはICボルドー。しかし、8月以降の散布では果実でスターメラノーズが問題になるので200倍とし、さらに炭酸カルシウム剤(クレフノン等)を200倍で加用する。コサイドDFなどの無機銅水和剤でもクレフノン等の加用は必須。
 8月以降に銅剤を散布することで、9月の長雨時に果実を加害するウスカワマイマイ対策も兼ねることができる。

(写真)かいよう病:葉身に多数形成された病斑


果実腐敗
白かび病:極早生温州の症状 9月の高温期に収穫時期を迎える極早生温州では白かび病、炭疽病が問題になる。
 白かび病にはベフラン液剤25で対応するが、炭疽病との同時防除を兼ねる場合は、ベフトップジンフロアブルまたはベフラン液剤25とベンレート水和剤との混用散布とする。
 これらの薬剤または混用散布は10月以降に問題になる緑かび病に対しても効果が高い。

(写真)白かび病:極早生温州の症状


ミカンハダニミカンハダニ
 8月下旬〜9月上旬は果実被害を抑制するための最重要防除時期。かけムラのないようにていねいにコロマイト水和剤、カネマイトフロアブルまたはスターマイトフロアブルを散布する。
 ミカンサビダニが発生して同時防除が必要な場合には、ダニエモンフロアブルまたはバロックフロアブルで対応する。バロックフロアブルは殺成虫力が低いので、効果が実感できるまでに10日ほどを要する。
 9月下旬以降になるとパノコン乳剤が、10月中旬になるとオマイト水和剤が使えるようになる。
 9月上旬までに散布した殺ダニ剤の効果が不十分だった場合には、これらの薬剤で対応する。

(写真)ミカンハダニ


ミカンサビダニ
 8月下旬の仕上げ摘果時に加害果実があり、ルーペで見て表面にサビダニが増殖しているようであれば、防除が必要。
ミカンサビダニ この時期は、他の重要害虫との同時防除時期にあたるので、ミカンハダニとの同時防除をねらう場合にはダニエモンフロアブルやバロックフロアブルを散布し、チャノキイロアザミウマとの同時防除が必要な時には、コテツフロアブル、マッチ乳剤またはハチハチフロアブルを使用する。ミカンサビダニだけの場合には、サンマイト水和剤またはダニカット乳剤で対応する。
 なお、かいよう病対策として銅剤が何回も散布されている園では、ミカンサビダニの被害が激しくなるので、注意が必要である。

(写真)ミカンサビダニ


チャノキイロアザミウマ
 後期被害対策の重要時期は8月中旬〜9月上旬。モスピラン水溶剤やダントツ水溶剤の効果が高い。しかし、これらの薬剤ではミカンハダニのリサージェンス(異常多発)を招く場合がある。コルト顆粒水和剤は昆虫行動制御剤(IBR)といわれる新しいタイプの薬剤で、多くの天敵類に対して悪影響が少ないのが特徴で、この時期の散布に適している。
チャノキイロアザミウマに加害された果実 一方、ミカンサビダニとの同時防除が必要な場合にはコテツフロアブルやマッチ乳剤が有効。また、多発園では8月下旬の黒点病防除時にマンゼブ水和剤の希釈倍数を400倍にする(登録はミカンでの使用)。これは果実等に薬剤の付着痕が白く残って、チャノキイロアザミウマを忌避する効果があるからで、600倍での効果は不十分。
 なお、ホワイトコート(白塗剤)を樹全体に散布することによってチャノキイロアザミウマの被害を回避できる。樹全体が真っ白くなるが、光合成、そして果実品質には何の問題もない。
 園全体に散布すれば効果は高いが、経費がかかるので、園周囲にイヌマキやサンゴジュが防風樹として植えてある場合にはそれらから3列目程度までの樹に散布するとよい。

(写真)チャノキイロアザミウマに加害された果実


カイガラムシ類
 8月下旬の仕上げ摘果時期に発生が激しいようであれば、ただちにスプラサイド乳剤40、エルサン乳剤などの有機リン剤を散布する。この時期までに散布すれば被害を抑制できる。


カメムシ類
 カメムシ対策は飛来極初期からの対応が必要で、一頭でも園内への飛来を見つけたら直ちに散布することが重要。
 理想的には地域の防除所やJAから発表されている飛来予測情報をもとに前もって殺虫剤を散布しておくとよい。予測された飛来時期になった時点で殺虫剤を散布する。
カメムシ類:チャバネアオカメムシ この時に使うのは吸汁抑制効果が長く続くテルスター水和剤、マブリック水和剤、MR.ジョーカー水和剤で、散布後10日間は効果が持続する。また、スタークル(アルバリン)果粒水溶剤の効果も期待できる。このうち、テルスター水和剤の耐雨性は高く、散布後の累積降雨量100mmまでは吸汁抑制効果が持続する。
 なお、これらの薬剤ではミカンハダニのリサージェンスが問題になるが、カメムシ類が大発生するということであれば、使わざるを得ない。


(写真)カメムシ類:チャバネアオカメムシ


長雨の予報が出たら迷わず薬剤散布を

カキの炭疽病防除
炭疽病:葉柄の病斑 8月下旬に園内を見回って発病果実の割合が1%を超える園では9月以降に多発する恐れがある。このような園では早速、殺菌剤を散布する。この時期以降に使用できる殺菌剤は、ストロビードライフロアブル、オーソサイド水和剤80、ナリアWGD等。散布後の耐雨性は150mmが限度。9月末までは感染して発病するので、散布後の降雨量をみながらの追加散布が必要。
 雨が続くと、散布したくてもできない。その間に散布した薬剤はどんどん流され、残効が切れて多発生を招く。天候が回復した後でどんなに殺菌剤を散布しても効果はなく、予防散布あるのみ。このため、前回散布した殺菌剤の残効がまだ結構残っていたとしても、長雨の予報が出たら迷わずに散布することが大切。手散布では果実中心だけの散布ではなくて、樹全体の、特に樹冠上部の葉表にたっぷりと散布する。そうすることで、樹全体の付着薬量を増加させ、長雨に対抗できる。
炭疽病:枝の越冬斑 SS散布では、上昇気流が少なく、風の弱い早朝に散布するように心がける。樹体の付着量がものをいうので、ドリフトが多いSS散布ではどうしても弱いところがある。このため、往復散布や十文字散布などで付着量を増やすことが大切。
 なお、殺虫剤等との混用では薬液付着量の減少によって殺菌剤の効果が低下するので、長雨対策の散布では必ず単用とする。

(写真)
上:炭疽病:葉柄の病斑
下:炭疽病:枝の越冬斑

 


台風襲来前に必ず薬剤散布をすませておく

炭疽病:カキ 台風の強風雨は広い範囲に病原菌を拡散するとともに、果実に傷を付ける。このため、台風が通過して3週間もするとカンキツではかいよう病が、カキでは炭疽病が多発する。 この時になって散布しても手遅れ。台風襲来時に、それ以前に散布していた殺菌剤の効果がまだ持続していたとしても、台風の雨にはひとたまりもない。台風の襲来までには必ず散布を済ませておく。台風が近づいてくると天候不順で薬剤散布の機会を逃してしまうこともあるので、ゆとりを持った対応が必要。
 また、タイベックマルチが強風ではがれて、カンキツでは褐色腐敗病が多発することがある。そのようなことがないように、事前に確かめておくことが大切。

(写真)炭疽病:カキ

           第12回

(2012.08.03)