◆米韓FTAでは30カ月齢規制も撤廃
昨年10月に、ハワイのホノルルで開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力)において、野田首相がオバマ大統領にこの見直しを確約し、それを受けて1月19日には食品安全委員会プリオン専門調査会が審議を開始した。30カ月齢へと規制緩和が行われることは必至となった。
規制のきっかけは、2003年12月末、米国でBSE感染牛が発生し、日本への輸入が停止されたことに端を発した。米国での牛肉産業は、同国での農業産業分野で最も大きな位置を占め、しかも最大の輸出先が日本だった。輸出が停止した時点で、その量は22万トンに達していた。
日本ではBSE発生以降、国産牛肉の安全確保のために、3つの方法で牛肉の安全を守る体制を築いた。全頭検査、危険部位の除去、トレーサビリティ(追跡可能性)である。他方、米国はどうかというと、ごく一部しか検査は行わず、危険部位の除去もずさんで、トレーサビリティはしないという、安全確認としてはまったく不十分な状態にある。その状態は、現在も変わらない。
にもかかわらず、米国政府による圧力の前に、2005年12月12日、20カ月齢までという制限がつけられたものの、輸入再開が決定された。この時からすでに、米国政府は月齢での制限撤廃を求めてきた。米国からの牛肉の輸入量は、2010年の実績で9万8000トンである。30カ月齢まで規制が緩和されると20万トンを超え、以前の水準に戻ることになる。しかも、そこにとどまらない。すでに米国と韓国の間で締結されたFTA(自由貿易協定)では、30カ月齢の規制も撤廃することが合意されている。現在、日米間で検討に入っている30カ月齢の規制すら撤廃されることは確実となる。
◆牛成長ホルモンや多種類の抗生物質を使用
米国産牛肉が増えることで、BSE以外のところでも食卓の安全は脅かされる。
米国では短期間で通常よりも大きく成長させるために多種類の薬剤が使用されている。とくに問題なのが、米国の牛肉や牛乳生産で一般的に用いられている、牛成長ホルモン剤がもたらす悪影響である。
米国内で牛肉や牛乳、乳製品などをよく食べる人の間で、双子などの多胎出産が増えていることが判明している。その他にも、女性や子どもに乳がんが発生する危険性が高くなると指摘されている。このホルモン剤を投与された牛自体も、乳を過度に搾り取られるため、免疫力が低下するなど体が弱まることになる。牛乳も、ビタミンB13などの重要な栄養素が欠乏することが指摘されている。
その上、米国牛には多種類の抗生物質が必要以上に用いられているため、抗生物質耐性菌の拡大が深刻化している。米国ではいま、抗生物質耐性菌が広がったために、治療法を失って死亡する人が増え続けている。毎年200万人が院内感染し、内9万人が死亡しているといわれている。これらの薬剤の多くが、日本では使用が制限されている。
◆くず肉を接着剤で固めた安価なステーキ
安い牛肉を用いているファミリーレストランや牛丼屋などでは、米国産が幅を利かせている。
米国産牛肉の輸入が停止した時点で、牛丼屋から牛丼が消え、ファミレスからはステーキが消えた。なぜ安い外食チェーンは米国産に依存するのか。これらの店で出る安い牛肉には、合成肉と呼ばれるものが増えているからだ。
これは米国産の牛肉を用いたもので、くず肉と呼ばれる通常は使いものにならない部位を用いる。このくず肉を接着剤で固め、タンパク質分解酵素で柔らかくしている。これは米国産だからできる方法であり、米国は部位ごとに売ってくれるため、くず肉を大量に入手できるからである。米国産牛肉は、安全性だけでなく、食文化も奪ってきた。
【略歴】
(あまがさ けいすけ)
1947年東京生まれ、早大理工学部卒、技術と人間誌編集者を経て、現在、ジャーナリスト、市民バイオテクノロジー情報室代表、日本消費者連盟共同代表、法政大学講師。主な著書『世界食料戦争』(緑風出版)、『放射能と食品汚染』(芽ばえ社)ほか多数
市民バイオテクノロジー情報室代表