◆強い加工食品の原料原産地表示の要望
昨年9月から、消費者庁は「食品表示一元化検討会」を開催してきたが、現在その検討が最終段階にさしかかっている。食品表示一元化とは、これまでの食品表示が、複数の省庁、法律をまたがって存在していたところから、それを消費者庁が一手に掌握して、新しく法律を作ろうというものである。具体的には、食品衛生法、JAS法、健康増進法の3つの法律の中の食品表示に関する部分を集め、新しい法律を作るというもの。
検討会はすでに5月上旬までに8回開催されている。3月に開かれた6回目の検討会で「中間とりまとめ」が出され、それについて一般からの意見が募集され、3月23日には、誰でも発言できる意見交換会が開催された。
その意見募集の全体像がまとまり、発表された。それにより、食品表示に市民が求める傾向が明らかになった。
要望として多く寄せられた項目は、
1.法律の目的に「消費者の権利」「食文化を守る」という言葉を入れてほしい、
2.「加工食品の原料原産地表示」を行ってほしい、
3.「遺伝子組み換え食品」のきちんとした表示を行ってほしい、
4.「栄養表示の原則義務化」を行ってほしい、
というものだった。どの要望も納得のいくものである。
◆食品業界の一部は表示の簡略化を希望
しかし検討会は、この消費者が求めるものに、背を向けて議論をすすめている。というのは、この検討会で大きな位置を占めているのが、一部の食品業界だからである。消費者団体から委員になっている人もいるが、業界寄りの立場で発言を行っている人が目立つ。
また検討会の議論の中で、その一部の食品業界が狙っているのが表示の簡略化であることが、明らかになった。何度も「分かりやすい表示」という言葉を用い、文字を大きくし、簡略化することを求めている。一見、消費者に配慮した、良い提案のように思えるが、簡略化すれば中身が分からなくなってしまう。食品表示には、業界に都合が悪いものが多いからである。それが、これまで多くの表示偽装をもたらしてきた。簡略化すれば、偽装しなくてもごまかすことができる。
分かりやすい表示とは、いったいどんなものか。それは、消費者がその中身を正確に知り、選択できるものである。現在でも、日本の表示は分かり難くなっている。表示の実際について日本と韓国の表示の違いを見てみたい(表参照)。例としてあげるチョコレートと調味料は、日韓両国で販売されている同じものである。
◆具体的で分りやすい韓国の食品表示
このチョコレートでは、植物油脂が使われているが、日本の表示では何が使われているか分からないが、韓国ではパーム油、ナタネ油、ヒマワリ油だということが分かる。また、日本では光沢剤としか表示されていないものが、韓国ではシェラックであることが分かる。香料も、日本では「香料」としか表示されていないが、韓国では、具体的に示され、しかも天然のものか合成のものかも分かるようになっている。
調味料では、日本の表示では、酵母エキスとしか表示されていないものが、韓国では具体的に5―イノシン酸ナトリウムと表示され、遺伝子組み換え由来であることが分かる。
調味料(アミノ酸等)も日本の表示でよく出てくる添加物だが、韓国では具体的にL―グルタミン酸ナトリウム(香味増進剤)と表示され、味の素だということが分かる。
日本の製品でも、韓国ではこのように具体的に表示できるのだから、日本でも表示できるはずである。
しかし、検討会に参加している食品業界は具体的な物質名で表示するのは難しいと、繰り返し発言している。それが嘘であることを示した表示である。
そこには消費者の意向を無視する業界と、その業界の方ばかりを向いている消費者庁という現実が見えてくる。
【著者】天笠啓祐
市民バイオテクノロジー情報室代表