◆従来とはタイプ異なる「非定型」BSE
10月22日に食品安全委員会は、厚労省より諮問されていた、米国産牛肉の輸入条件の緩和についての諮問に対して「安全」という答申を行いました。
これまで日本では米国から輸入する牛に関しては、BSE(狂牛病)の恐れが少ない20カ月齢までしか輸入を認めてきませんでした。それを30カ月齢まで緩和するというものです。もし条件緩和が行われれば、米国産牛肉は禁止直前と同程度の量の輸出が可能になり、TPP参加に向けて、日米間での大きな壁のひとつになっていた、米国産牛肉輸入問題が解決することになります。
米大統領選挙戦が最高潮に達する時期に合わせた発表でした。
では本当に、米国産牛肉は安全なのでしょうか。最も大きな争点になっていたのが「非定型」と呼ばれる、従来のBSEにはないタイプの病気です。2012年4月下旬、米国で4例目のBSE感染牛が確認されました。米国産牛肉の危険性が改めて示されました。そのため輸入条件緩和は絶望視されるはずでした。
しかし食品安全委員会は、その牛が「非定型」だったため問題ないとしたのです。非定型とは、従来の肉骨粉を飼料としたために感染した典型的な症状ではない、これまでにはないBSEを意味します。
従来からBSEの検査は「ウエスタンブロット」法が用いられてきました。この方法では、脳などの組織からプリオン蛋白質を拾い出し、そのタンパク質をバンドの形に画像化して検査する方法です。
英国でBSEが初めて確認されて以来、そのバンドの位置も形も変わりはありませんでした。しかし、2003年に日本で23カ月齢の牛で、このバンドのパターンが異なるものが見つかり、その後、同様のタイプのものが欧米で相次いで見つかるようになりました。なぜバンドの位置が異なるのか説明できないことから「非定型」という言い方がされるようになりました。
◆8歳超えての非定型は問題ない??
現在、この非定型のBSEに関しては、バンドの位置が高い位置にずれたものをH型、低い位置にずれたものをL型といっていますが、同じH型でもバンドの形が違うものなど多様であり、謎となっています。米国で見つかっているBSEは、すべて非定型のL型です。
食品安全委員会が、なぜ非定型だと問題ないと結論づけたかというと、これまで確認されたものは「日本で見つかった23カ月齢を例外として、確認時の月齢は6.3歳?18歳で、ほとんどが8歳を超えている」からだというのです。
今回は、牛肉の輸入条件を、これまでの20カ月齢以下から30カ月齢以下に緩和するという諮問ですから、年取ってから出る「非定型」は問題ないと説明されています。
また、日本で確認された23カ月齢のものも、延髄で調べたところ、プリオン蛋白質はわずかであり、無視できると説明されています。
このような説明が安全の根拠にならないのは、当の食品安全委員会も十分承知のはずです。確認されたものは大半が年取っていたというのですが、米国では検査率は1%以下であり、確認されていないものが圧倒的に多いからです。また日本での23カ月齢のケースは、延髄しか調べられておらず、他の部位は調べられていないのです。
◆感染性が強いL型BSE
では非定型だと何が問題なのでしょうか。とくにL型の非定型BSEは、感染性が強く、種の壁を越えて牛から人間に感染しやすいことが推測されています。欧州食品安全庁も、L型は人への感染の危険性があることを指摘しています。潜伏期間が短いものもあります。
感染実験では、早く歩行困難になるなど症状が早く出ることが確認されています。英国でこれまで確認されたものがないため、汚染飼料による感染ではないと見られていますが、それも確認されたわけではありません。現在、科学者の間では、まだサンプル数が少なく、科学的評価を下すことができないとされています。また、イタリアで見つかったL型BSEでは、肉の感染性が確認されています。そうなると牛肉の安全性そのものを直撃することになります。
このように非定型だからこそ問題なのです。なぜこのような新型のBSEが登場したか分からないですし、危険性は未知数です。米国の科学者の中には、かえって危険性が強いといって警告を発している人もいるほどです。
食品安全委員会は、本来、科学的に安全性を評価する機関なはずですが、今回の答申は、明らかに政治的判断が優先されています。非定型だから、問題ないという言い方は、TPP参加に向けて牛肉の輸入条件緩和を行うための、政治的な言い方、政治的決定以外の何ものでもありません。
市民バイオテクノロジー情報室代表