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誕生物語

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【第3回 「オリゼメート」 (Meiji Seika ファルマ株式会社)】

・植物がもつ防御システムを活性化する
・稲が吸収することでいもち病を防除
・天然物由来抗生物質農薬を試験するなかで
・開発には3つの難関があった
・キュウリやキャベツなど野菜の病害にも効果が
・いまでもその効果は「第一級」と評価

 品質のよい食料を安定的に収穫するために農薬は不可欠な生産資材だが、農薬にもさまざまなタイプがある。一般的には、殺菌剤でも殺虫剤でも、対象となる病害虫に直接作用して病害虫の生育や活動を阻害し、農作物への被害を防除するものだが、オリゼメートは農作物など植物が持っている生体防御システムである病害抵抗性を活性化させ、いもち病などを発病しにくくなるようにする他の農薬とは異なる作用機作をもつ薬剤だ。

新たな植物防除への扉を開く

植物防御機構活性化剤「オリゼメート」


◆植物がもつ防御システムを活性化する

 私たち人間や動物には自らの体や健康をまもるために「免疫」という生体防御システムが備わっている。
 植物にもこれに準ずるような生体防御システムが備わっていることは、100年以上前から知られていた。昆虫類などによる被害や病原菌などによって病害が植物に発生すると、この機能が発動し、その植物がもつさまざまな防御システムが作動し、被害を受けにくくしたり、発病しにくい植物体となる。
 こうした機能を人為的に誘導して発揮させることができれば、植物自身が、さまざまな病害から自らを予防したり、感染の拡大を防ぐことができるようになる。
 そのため、殺菌剤の開発では、環境問題への対応や薬剤抵抗性回避の観点からも、植物自体がもっている防御システムを利用して病害を抑えようという研究が盛んになっており、病害抵抗性を誘導する薬剤も開発されている。


◆稲が吸収することでいもち病を防除

 Meiji Seika ファルマ(株)のオリゼメートの有効成分であるプロベナゾールは、世界にさきがけて実用化に成功した病害抵抗性誘導剤だ。
 プロベナゾールの試験結果をみると、プロベナゾールを直接いもち病菌へ処理しても、処理されていないいもち病菌と同じように生育していく。プロベナゾールには菌への直接的な殺菌力はないと考えられている。
 ところがプロベナゾールを吸収した稲では、いもち病菌が感染すると、殺菌作用があるといわれるスーパーオキシドが放出されたり、抗菌物質が産出されたりする。また、稲の細胞膜の物理的な強度を高めるリグニンが形成され、いもち病菌の菌糸の蔓延を防ぐ。こうした一連の現象は、プロベナゾールが、いもち病菌が浸入したというシグナルを増幅させ、稲に抵抗性を発現させるためだと考えられている。


◆天然物由来抗生物質農薬を試験するなかで

 では、このプロベナゾールはどのようにして発見されたのだろうか。
 齋藤好明同社生物産業事業本部農薬資材部テクニカルグループ専任部長によれば、オリゼメートの有効成分であるプロベナゾールが発見された昭和40年代初めは、カスガマイシンなど抗生物質農薬が世に出た時期で、明治製菓(現Meiji Seika ファルマ)でも天然物由来のものをベースにした既存の抗生物質に「いろいろなものを結合させて、その構造変化を試験している」ときに、ベースになる抗生物質よりもそれに結合させたある物質の方に、より高い防除効果があることが分かった。
 そこでこれの類縁物質が合成され、より高い防除効果を示す物質の探索が進められ、最終的にプロベナゾールにいきついたという。それは昭和41年のことだった。
 明治製菓(現Meiji Seika ファルマ)はペニシリンとか発酵バイオなどの医薬品の伝統があったことも、この発見の背景にはあったといえるだろう。
 その後、昭和46年にオリゼメート粒剤として農薬登録を申請。昭和49年に稲・いもち病(本田)適用剤として農薬登録を取得し、昭和50年に発売が開始された。

オリゼメート処理イネにおける抵抗性発現


◆開発には3つの難関があった

 農林水産技術情報協会顧問だった西尾敏彦氏によれば、「オリゼメートの開発には3つのブレークスルー(難関突破)」があったという開発に携わった岩田道顕氏の言葉を伝えている(「続・日本の『農』を拓いた先人たち」農業共済新聞2004年8月2週号)。
 一つは、すでにふれた有効成分プロベナゾールの発見だ。
 二つ目は、「水面施用」という新施用法の発見だったという。それはこの薬剤を吸収した稲がいもち病への高い抵抗性を示すことが分かってきたので、田面水溶解→根から吸収という粒剤型薬剤を開発することになったからだ。
 三つ目は、昭和49年ころは石油ショックの影響で製造原価が高騰し、社内には撤退の声もあったという。しかし、この昭和49年はいもち病が多発した年でもあったが、宮城県などのオリゼメートを施用した現地展示ほ場では、「まったくいもち病が発生しなかった」。これをみた営業担当者が熱心にオリゼメートの上市を進め、販売にいたったという。


◆キュウリやキャベツなど野菜の病害にも効果が

 発売開始された昭和50年(1975年)から、40年近くが経ったが、オリゼメートは現在も防除の第一線で活躍し続けている。しかも稲のいもち病だけではなく白葉枯病もみ枯細菌病へと適用が拡大されている。
 さらに稲だけでなく、キュウリの斑点細菌病、レタスの腐敗病・斑点細菌病、キャベツの黒腐病を野菜類の多くの病害にも有効(表参照)だということが認められ適用が次々に拡大されていることも特筆できる。

オリゼメート適用病害一覧


◆いまでもその効果は「第一級」と評価

 オリゼメートの開発と実用化は、「新しい植物病害防除への扉が開かれた」といえ「世界の植物病害防除剤創製に与えた影響は極めて大きい」(30周年記念誌「オリゼメートのあゆみ」)といえる。
 こうした功績を讃えられ昭和54年には「プロベナゾールの開発と工業化」で大河内記念技術賞を、昭和56年には「殺菌剤プロベナゾールの作用機構に関する研究」で日本農薬学会業績賞を受賞している。
 販売が開始されてから40年近くが経過するが、最近、問題になることが多い耐性菌リスクは、オリゼメートのような抵抗性誘導型剤では低いと考えられており、現在でもその防除効果は「第一級」だと生産現場からの評価は高く、同剤の重要性はこれからも変わらないといえる。

           第3回

(2012.12.13)