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遺伝子組み換え農産物を考える

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「虫も食べない農産物」は本当に危ないのか?

・「交配」と「遺伝子組換え」技術
・「遺伝子組換え」は自然界でも見られる
・従来の品種改良でも遺伝子の「場所」は未確認

 遺伝子組換え(GM)農産物をめぐっては、なお「期待」と「懸念」が入り交じっているのが現状だ。今後、深刻化すると予想される世界の食料不足の解決に貢献するなどの期待がある一方、環境や人体への影響を心配する声もある。
 ただし、日本ではGM農産物の1つひとつについて、▽生物多様性への影響、▽食品や飼料としての安全性、について最新の科学的知見に基づいて確認し、その安全性が確認されたもののみ使用を認めることにしている。
 今回は改めてGM農産物について基本的な知識を整理してみる。

◆「交配」と「遺伝子組換え」技術

 

 GM技術について農林水産省のホームページでは現在、次のように説明している。
 GM技術は品種改良の1つの方法であり、(1)ある生物から特定のタンパク質に対応する遺伝子を取り出し、(2)改良しようとする生き物の細胞の中に遺伝子を導入し、(3)細胞が(目的とする新たな)タンパク質を合成するようになる、である。
 この結果、新たな形質を持つ農産物を作り出すことになる。
 遺伝子とその情報をもとに作り出されるタンパク質は、どの生物でも共通性があることから「理論的にはあらゆる生き物の間で遺伝子を組み換えることができます」と説明している。
 では、これまでの品種改良とはどう違うのか?
 従来の育種技術は、作物Aと作物Bを交配させるものだ。交配によって生まれる作物はAとBの遺伝子の半分づつを受け継ぐが、それがどのような機能や形質を持つのかはあらかじめ分からない。つまり、遺伝子の組み合わせは偶然に任せられている。
 そのため目的とする機能や形質を持つ品種を得るには、交配を繰り返す「選抜」が必要になる。
 一方、GM技術は目的とする機能を持つ遺伝子を対象とする作物に、直接、組み入れるため、目的とする品種改良を行うことができる。また、交配技術では交配が可能な同じ種類か近縁種どうしで交配を行うしかないが、GM技術では幅広い生物を対象にして目的とする機能を持つ遺伝子を選び出して組み入れるため、従来の交配より品種改良の可能性が広がることになる。
 ただし、GM技術は自然界では起きない遺伝子の組み合わせも可能なことから、それを人間が作り出すことについて「懸念する意見もある」と同省のホームページでは記している。

 

◆「遺伝子組換え」は自然界でも見られる

 

 GM技術は、ある生物から取ったある遺伝子を別の生物に導入すること、といえるが、これは必ずしも人為的な操作だけではなく自然現象としてもみられるものだという。
 筑波大学大学院生命環境科学研究科の鎌田博教授によると、そのひとつは薬の現象がバラ園で発生しているクラウンゴール病である。
 これは土壌に存在する微生物、根頭癌腫病菌が植物の傷口に感染することによって起きる。この菌が持っている遺伝子の一部がバラなどの植物に送り込まれて植物の遺伝子に組み込まれる。それによって植物の細胞がガンのように無限に増殖して、根の部分にコブが形成される現象である。
 これも自然現象だが、クラウンゴールでは植物の細胞に土壌細菌という微生物の遺伝子が組み込まれていることになる。現在、商業栽培が行われている害虫抵抗性(Bt)トウモロコシは害虫に効果を持つ微生物の遺伝子を組み込んだが、この種の遺伝子組み換え自体は自然界でも起きているといえる。

 

◆従来の品種改良でも遺伝子の「場所」は未確認

 

 このように遺伝子組み換え自体は自然界でも起きている現象のため、GM農産物の安全性を考える際、もっとも基本的なことは遺伝子組み換えを行ったこと自体を評価はしていないということである。評価するのはあくまでもGM技術によって品種改良された植物(農産物)である。概念としては「プロダクト(=農産物)を基礎とする評価」という考え方だ。
 したがって、安全性を考える際、“プロダクト(=生産された農産物や食品)を基礎とする評価”、ということなら、これはGM農産物に限らず、従来の品種改良による農産物や、あるいは食品添加物についての評価と同様だということになるだろう。
 その点で鎌田教授らが強調するのは、従来の育種技術で品種改良されてきた農産物も、その起源となった野生種にくらべれば極めて多くの遺伝子が変化しているという事実である。
 しかも、どの遺伝子がどう変化したかはほとんど分かっていない。GM技術への懸念には、導入遺伝子が、“対象作物遺伝子のどこに組み込まれたか不明で不安だ”、というものがあるが、従来の品種改良でもそれは確認されていない。
 その意味では食品としての安全性とは、改良過程で毒性などの少ないものが選抜されてきた結果ということになる。プロダクトに対する安全性評価、という観点から考えれば、鎌田教授は「GM技術で導入した遺伝子の位置が分かったからといって、それで食品としての安全性が高まることにはならない」という。
 従来の品種改良でも「自然を人為的に操作」し、そのうえで栽培しやすく安全で栄養的にも有用なものをつくってきたということになる。
 安全を脅かすリスクの点では次のような事例も報告されたいる。
 2年前の事故米を食用米に不正規流通させた問題では発ガン性のあるカビ毒、アフラトキシンの発生が、残留農薬以上に問題となったことが思い起こされる。このアフラトキシンは、たとえばトウモロコシでも発生しそれは当然、食の安全に関わる問題となる。このカビ毒は害虫の食害によって発生する。
 これまでの研究でトウモロコシでのアフラトキシン発生がもっとも多かったのは害虫防除をしなかった有機無農薬栽培のもので、次いで農薬を使用して栽培したトウモロコシ、そして、いちばん低かったのが害虫抵抗性遺伝子を導入したGMトウモロコシだった、という。(『遺伝子組換え食品・食品添加物の安全性評価の仕組みと考え方』鎌田博、「都市問題研究」第61巻第11号2009年P41‐P64)
 繰り返しになるが、アフラトキシンはアワノメイガなどの食害によって発生する。したがって、この場合は、「虫も食べない農産物」ではなく、「虫が食べた農産物」のほうが安全性リスクは高いということになる。

従来の交配と遺伝子組換えの違い

【著者】シリーズ(6) 品種改良と遺伝子組換え

(2010.12.07)