◆GM作物の栽培面積は6680万ha
米国におけるGM作物の栽培面積は図のように推移してきているが、今年6月30日にUSDA(米国農務省)が発表した2011年の米国内農産物作付け状況に関するデータによると、トウモロコシの作付面積合計は10年より5%増の約3735万ha、うちGM品種の割合は88%(10年より2%増)と予測している。
そのうち害虫抵抗性(Bt)だけを持つ品種は10年と同じ16%、除草剤耐性だけを持つ品種も10年と同じ23%、害虫抵抗性と除草剤抵抗性の両方の性質を持つスタック(掛け合わせ)品種は2%増の49%になると予測されている。
大豆は10年より3%減の約3042万haだが、GM品種の割合は1%増の94%と予測。そのすべてが除草剤耐性となっている。
ワタについては、10年より25%増の約554万haで、うちGMは3%減の90%と予測されている。そのうち害虫抵抗性だけを持つ品種が17%(10年より2%増)、除草剤耐性だけを持つ品種が20%(同5%減)、両方の性質を持つスタック品種は58%(10年と同じ)と予測されている(以上は日本モンサント社HPから)。
米国ではこれ以外にも、ナタネ、カボチャ、テンサイ、アルファルファ、さらに12月1日から日本でも販売できることになった、生(未加工)のGM植物をそのまま日本で初めて食用にするパパイヤのGM品種が栽培されており、その栽培面積は6680万ha(10年、ISAAA資料による)と推定されている。
◆一巡した普及 今後は飼料用から食品用途へ
立川雅司茨城大学教授は「米国のトウモロコシ、大豆、ワタのGM栽培に関しては、普及が一巡した観がある」とみている。そして今後はトウモロコシにみられるようなスタック品種が大豆などでも生じてくると考えている。
そして米国では「さらに多様な品目に拡大、とくに食品用途への本格的拡大」へ進んでいくとみている。具体的には、「GMサケとGM小麦」などだ。
ウィルス(PRSV パパイヤ・リングスポット・ウィルス)によって、ほぼ壊滅的な打撃を受けたハワイのパパイヤがこのウィルスに抵抗性を持つGM品種(レインボー・パパイヤ)の開発で復活(98年から米国では商業化)したというように、一部では食品用GM作物が開発されてきているが、これまでのものは飼料用や加工用が中心であった。「食品用途への本格的な拡大はこれからの課題であり、その道は平坦なものではないだろう」と立川教授はみている。
なぜ「平坦」ではないのか。立川教授の分析はこうだ。
(写真)
一面に広がるトウモロコシ畑
◆政治的反対もあり紆余曲折が予想されるGMサケ
まずGMサケだが、これがFDA(動物医薬品センター)に対して申請をしたのは1996年ですでに15年も経過している。
これだけ時間がかかっているのは米国でも「特異なケース」で、その背景には連邦政府のなかでの明確な規制方針が09年まで決まらなかったことがあるという。
さらにFDAでの審査はほぼ終了し今年中には最終的な認可がなされるといわれているが、アラスカ州出身の議員などの政治的な反対があり、連邦下院議会では政治的な介入もあった。
また実際に認可されても、水産関係は州政府を含めて権限が多数の基幹に分散する傾向が存在しており、商業的利用には多方面での調整が必要になるという問題も存在する。
ちなみにこのGMサケは、採卵はカナダで、生育はパナマの山中の養殖タンクで行われることになっており、万一養殖施設から逃げ出しても、(1)すべての魚が3倍体でメス化されていること、(2)熱帯地域のパナマでは高水温のため生存確率が低く、自然生態系に対する影響は無視できるほど小さいと開発企業はいっているという。
◆乾燥耐性など新たな課題に応えるGM小麦
それではGM小麦についてはどうだろうか。
モンサント社が除草剤耐性小麦の商業化を04年に断念して以降、しばらくはGM小麦の開発は進展がなかったが、08年以降は「小麦業界とバイテク企業との新たなネットワークが形成されつつあり、10年程度を見越した開発が進みつつある」と立川教授。
その背景には、04年以降数年を経ずして起きたバイオ燃料ブームで、小麦からトウモロコシや大豆に作付転換する農家が増えたことと、干害などの天候不良も小麦の収益性悪化に追い討ちをかけたことがある。そうしたことが「小麦生産者団体にバイテク企業のドアを叩かせたといえる」。
しかし、GM小麦の開発はこれまでのトウモロコシや大豆とは異なった開発手法を採用していると立川教授は指摘する。その特徴は、
(1)バイテク企業独自の開発ではなく、(遺伝資源を有する)公的機関とのパートナーシップが形成されていること。(2)09年に出されたように米・加・豪3カ国による同時商業化をめざすなど、国際的な連携をとりつつ、長期的な視点でGM小麦の推進が図られつつあること。さらには、(3)製粉や製パン業界など川上から川下まで、多様なステークホルダー間のコミュニケーションを密にしながら、10年先の導入の土壌づくりを行いつつあること、である。
さらに開発がめざしているのはラウンドアップ耐性ではないということもトウモロコシや大豆とは異なる大きな特徴だ。それでは、何を開発目標としているのか。それは、(1)乾燥耐性、(2)窒素利用効率の向上、(3)病害耐性などであるという。つまり「条件不利作物化」した「小麦が抱える課題に対応するもの」だといえる。
そして、11年10月発表されたカナダ小麦局の改革法案は、カナダ産小麦の販売権を穀物企業にも開放するものであり、こうした流通機構の変化もGM小麦生産への後押しになると立川教授は考えている。
(写真)
大豆の収穫(アメリカ大豆協会)
シリーズ(10) 海外の状況(1) 米国編