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時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

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(26) 注目すべき県単独の水田農業支援策

新規就農促進に期待
他産業並みの所得確保
国は地方に学ぶべき

09年度農水予算の第1の柱に据えられ、4000億円が計上されている"食糧安全保障の確立"予算、政策意図はいいが、若い担い手支援策の欠落などの問題があることを前回指摘しておいたが、同じ想いを現場に近い県の方々も持ち始めたようだ。"国の助成だけでは不十分として、地方財政が厳しいなかでも水田の活用に県単独事業を組む自治体がある"ことを、09・3・13付全国農業新聞が報じたし、3・17付日本農業新聞も"食料自給率の向上が大きな課題になる中、地産地消を柱に独自の取り組みに乗り出す県が目立つ"ことを、09年度都道府県農林水産予算の調査結果として報じた。

◆新規就農促進に期待

  09年度農水予算の第1の柱に据えられ、4000億円が計上されている“食糧安全保障の確立”予算、政策意図はいいが、若い担い手支援策の欠落などの問題があることを前回指摘しておいたが、同じ想いを現場に近い県の方々も持ち始めたようだ。“国の助成だけでは不十分として、地方財政が厳しいなかでも水田の活用に県単独事業を組む自治体がある”ことを、09・3・13付全国農業新聞が報じたし、3・17付日本農業新聞も“食料自給率の向上が大きな課題になる中、地産地消を柱に独自の取り組みに乗り出す県が目立つ”ことを、09年度都道府県農林水産予算の調査結果として報じた。
  “米飯給食を週3.8回から全国最多水準の4.2回に増やすため、回数を増やす自治体を支援。地場産農産物の導入も後押しする”ため9033万円を組んでいる山形県、“3億円近い財源を投じ、集落営農組織の法人化を急ぐ”広島県など、日本農業新聞が紹介している各県の“独自の取り組み”にも注視を続けたい事業がいろいろあるが、食糧安全保障政策との関わりで“水田フル活用などの県単事業”に注目した全国農業新聞の報じた事例にまずは注目したい。

  同紙が報じた各県の事業は上表のようにまとめられている。静岡、島根の07年、08年から始まった事業もあるが、その他は09年度からの新規事業であることにまず注目しておくべきだろう。
  取りあげられている事業内容としては、米粉、飼料米の販促、給飼実証、経費補てんが多い。水田フル活用の主役が米粉、飼料米といった非主食用米の増産だから、“独自の取り組み”も主役に関連した事業になってしまうのであろう。
  そういうなかで、“所得補償モデル”の構築、“新規就農者補償”を打ち出した新潟県の取り組みは、ちょっと違って注目に値する。県説明資料で内容を紹介しておこう。

◆他産業並みの所得確保

  表示した“水田経営安定化・フル活用モデル事業”と“中山間地域新規就農者確保モデル事業”は、一括して“新潟版所得補償モデル事業”という名称になっている。水田経営安定化事業は平成2125年の5年間、中山間地事業は平成2123年の3年間実施し、“制度の設計とその有効性”なり“効果”を検証して“所得補償モデル”を構築、国の施策に反映させることを意図している。
  “水田経営安定化・フル活用モデル事業”は、“米価下落や米粉用米等の水田フル活用に対応し、経営発展を目指す農業者の所得を一定レベルまで支援する”事業であり、“主たる従事者1人当たり労働時間18002000時間で400500万円程度の所得を確保”できるようにするのだという。“米価が下落した場合にも一定の所得が確保されるよう支援”するし、非主食用米等については“水田フル活用の取組に対し一定の所得レベルまで支援”する。2030haの2集落をモデル地区として選定、1地区600万円の助成金が用意されている。
  中山間地域新規就農者確保モデル事業は、“中山間地域等直接支払制度対象地域において、企画販売力を有する新規就農者等への「所得補償」により、中心となる農業者の年齢引下げによる営農継続性の確保と農産物等の高付加価値販売を通じた地域全体の所得向上を図るモデル的な取組を実施し、その効果を検証する”ことを事業目的にしており、年500万円助成1地区、年300万円助成3地区計4地区で3年間行うことになっている。
  “中山間地域の農業生産法人、農業担い手公社”などが、“販売経験者のIターンなど販売ノウハウを有する者(500万円タイプ)”、或いは“農家子弟のUターンなど若い就農者(300万円タイプ)”を“新たに雇用する場合に、他産業並みの給与を助成”する。

◆国は地方に学ぶべき

  一昨年暮の本欄(07・12・10)で、JA新潟中央会と県農対本部が行った署名運動に言及、次のようにコメントしておいた。
  “目標の2倍を超す賛同者”を集めた農相への「要望」の真っ先には、“米の需給調整は、国の責任のもとで確実に実施するとともに、メリット措置の拡充など参加者に不利益が発生しない仕組みを実現する等、生産調整の実効性が確保できるよう抜本的な見直しを行うこと”が書かれ、「要請の考え方」のなかには“生産調整の確実な達成には、実施者のメリットとして再生産可能な稲作収入の水準まで引き上げることが不可欠であり、米政策及び関連対策の抜本的な見直しが必要である”という文章があった。
  “米の生産調整は国の責任のもとで”、そして“再生産可能な稲作収入の水準まで引き上げること”は、22万5000人の新潟県民のみならず全国の稲作農家のほとんどが賛同するところだろう。前回の本欄でふれたように、民主党の農業者戸別所得補償法案はこの要請に応えるものとなっており、だからこそ参院選で民主党は圧勝した”。
  経営所得安定対策といいながら、今の水田・畑作経営所得安定対策は“再生産可能な稲作収入の水準”確保どころか、所得低下へのピン止め策も持っていない。その国の施策にたまりかねての県単“経営安定”事業になったのであろう。
  若い担い手支援策の充実こそが、今日、農政は急務とすべきであり、“国は「サラリーマンよりもちょっと有利な収入」だと思わせるくらいの大胆な支援が必要だ”と前回書いたばかりだが、“就農者確保モデル事業”は、県単事業でそのモデルを示してやろうということなのである。
  両事業の成果を、私は刮目して待つことにしたいが、新潟県のこの両事業ばかりでなく、県単事業として各県が取り組みだした独自の農業・農村施策に、国も充分学んでほしいものである。

【著者】梶井 功
           東京農工大学名誉教授

(2009.04.09)