◆水田フル活用へ「転換」したはず
5月19日の閣議で、08年度「食料・農業・農村白書」が決定、公表された。その概要は本紙前号3面で適確に取りまとめられている。本欄ではその取りまとめを前提にしながら、幾つかの問題点を指摘することにしたい。
取りまとめは、白書の“特徴”を
“世界的な食料価格高騰をふまえ、「食料の需給をめぐる国際情勢にかつてない変化が起こっている」ことを指摘、食料を安定的に供給していくためには「水田フル活用」がわが国に必要な取り組みであると端的に整理した点が特徴だろう”
と冒頭で要約している。その通りだと私も読んだ。
「水田フル活用」施策は、07年度生産調整施策を大きく転換した08年度施策の延長上にある。“転換”というのは、(A)「農業者・農業者団体の主体的な需給調整システム」から(B)「自給率向上が必要な麦、大豆、飼料作物などや飼料用米、バイオエタノール米等の非主食用米の生産を着実に定着させる取組」への転換である。
◆次なる課題は食糧法改正
(A)は施策転換前の08年度予算の概算要求段階の表現、(B)は転換後の08年度予算説明での表現だが、(B)を含む「平成20年度農林水産予算の概要」が発表された後の08・4・10付本紙の本欄で私は
“自給率引き上げ政策の重要な一環に生産調整施策が復帰したことをBの文章は意味する。歓迎すべきことである。当然食糧法第2条第2項、第4条、第5条の改正に着手すべきであることを再度強調しておきたい。”
と述べておいた。食糧法云々とは、これらの条項で生産調整は「農業者・農業者団体の主体的な需給調整システム」であるべきことが規定されているからである。取りまとめによれば“「水田フル活用元年」が農林水産省のキャッチフレーズだ”そうだが、それほどに重視するのであれば、当然食糧法改正に進まなければならない。
◆本質的には今が選択制
が、そうではないようだ。“白書では今後の米政策について……「新たな農政改革の議論の中であらゆる角度から見直していく必要がある」と農政改革関係6大臣会合の基本方針が盛り込まれた”からである。6大臣会合の“見直し”は、石破農水大臣が言い始めた選択制のことのようだが、「農業者・農業者団体の主体的な需給調整システム」自体は、作る自由、売る自由を言った上での話だったのだから、本質的には選択制である。それを転換させたはずなのに、またそれへの“見直し”をやろうというのである。迷走というべきだろう。
◆農協の担い手支援、どこが課題か?
今年の白書のもうひとつの特徴は、「農協による担い手支援の取組」と題した一節を設けたことである。取りまとめの要約に従えば
“担い手へのアンケート調査で「資金面の支援」、「市場販売以外の販売ルートの模索」などがJA事業機能強化の希望の声として多いことを紹介。「これまで経営基盤の強化を図る観点から農協の合併が進められてきたが、今後とも地域の担い手の要望に沿った事業展開を継続していくことが望まれる」と指摘しているほか、「農協が自ら意識改革を図り担い手に対してより一層適切な支援を行っていく必要がある」ことや「農協が行う各種事業が一体となって担い手を総合的に支援していくことが不可欠」などと指摘している。
私などが些か奇異に感ずるのは、担い手へのアンケートでは「資金面の支援」を求める声が44%と「…販売ルートの模索」など他の声にくらべて断突に高い数字になっているにもかかわらず、信用事業のあり方については全くふれていないことである。
◆信用事業と担い手の期待
「職員数の削減等により確保した240億円を、……担い手への対応強化のために投入して」おり、「すべての県本部に担い手対応部署を設置するとともに『地域農業の担い手に出向くJA担当者(TAC)』を県本部、農協に設置して、担い手のニーズに的確に対応する体制を整備している」と評価する全農の担い手対応については、その未利用率が24?17%という数字から”担い手対策の内容が農家や、場合によっては農協にも十分知られていないこと”を問題にしているのに、44%の声になぜ応えられないのかは問題にしていないのである。信用事業といえば、急拠多額の出資をJAに求めることになった中金のことなど、一言もふれられていないのも、年間の農業、農村の動きを取り上げる白書としては如何なものか、と思う。
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数字が出たついでに、統計数字の扱いかたを一、二取り上げておきたい。
一つは諸外国との比較をしている農地面積についてだが、トピックスのところに出てくる「各国の農地面積等の比較」表と食料自給力を問題にしたところで出てくる「農地1a当たり国産供給熱量等の国際比較」表の農地は“耕地及び永年作物地の計であり、放牧採草地は含まない”と注記されている。が、「農業経済の現状」を論じたところに出てくる「一戸当たりの農地面積の国際比較」表の農地は、日本の数値は“販売農家1戸当たりの経営耕地面積”と注記されているが、外国は資料名のみの注記でどういう農地かは明らかにされていないが、採草放牧地を含む農地面積がとられているようだ。農地1a当たり国産供給熱量等の国際比較にこそ、畜産のことを考えれば、農用地面積がとられるべきだろう。
もう一つ、「需要に応じた生産の展開」のところで、大豆の単収の数字が4つ出てくるが、もうすこし丁寧に説明しておくべきだ。特に“慣行”として示している数字と全国10a当たり収量のちがいは重要だ。
【著者】梶井 功
東京農工大学名誉教授