◆FTAが争点に浮上
ついに選挙戦が始まった。民主党が優勢のようだが、実際のところどうなのだろう。結果如何で農政も大きく様変りすることになる。気になる点を1、2指摘しておきたい。
激しく争っている自由・民主両党のマニフェストのなかの農政にかかわる事項のポイントは8・1付日本農業新聞によると次のようになる。
民主党の“米国との間でFTAを締結”については、早速自民党が“日本農業を売り渡すに等しい”とする批判声明を出したし(7・28)、JAグループ全国組織も声明を出して“断じて認められない”と抗議した(7・31)。
民主党は、自民党の批判声明が出た翌日、反論声明を出し“米国とのFTA交渉で「日本の農山漁村を犠牲にする協定締結はありえないと断言する」とし、農産物貿易の自由化を前提にしたFTA締結を強く否定した”が(7・30付日本農業新聞)、選挙運動期間中、大きな論争点になることだろう。
◆気になる生産調整の位置づけ
その点とならんで私などが気になるのは米政策のあり方だが、この点について8・1付日本農業新聞は
“米価下落対策や転作作物への支援が焦点で、両党ともに生産調整の具体策に踏み込まなかった。自民党は、麦や大豆、米粉などへの重点支援、豊作などによる価格下落措置の実現を盛り込んだ。民主党は、所得補償制度で主食用米からの転作などに加算するとした”
とコメントしていた。
“生産調整の具体策に踏み込まなかった”のは何故か、気になるところだが、民主党のそれについては後で取り上げるとして、自民党については同日付朝日新聞が、
“コメの生産調整(減反)については「不公平感の改善を図る」と見直しに一定の配慮を見せ、自民党農林族が公約に盛り込むよう求めた「米の生産調整は堅持」との文言は入らなかった”
と解説していた。“自民党農林族”の主張とマニフェストを作った今の党執行部との意見が合わなかったということである。これは自民党にとっては大問題ではないのか。
◆農政の迷走に歯止めを
08年に入って自民党内で農政、特に米政策について石破農相と党農林族との間に大きな意見の違いがあることが伝えられるようになった。
07年補正予算及び08年から実施してきた米政策について、生産調整を選択制にすることも視野に入れた抜本的見直しを、党農林族との協議なしに農相がいい出したからである。
07年参院選大敗の教訓を踏まえて行なわれた自民党による政権主導の米政策改革が、07年の“農業者・農業者団体の主体的需給システム”としての生産調整を一変、食料自給率向上のための行政による生産調整にしたこと、そしてその意味については、本欄でも(18)(08・4・10)で論じておいたし、今の時点で選択制を云々すること自体“迷走”だと前回も評しておいたところである。選挙に勝とうと思うなら、農政を“迷走”させる石破農相の責任を、自民党農林族の先生方はもっと追求しなければならないのではないか。
◆民主党政策の問題点
民主党の“所得補償制度”については、まだ制度設計が明確に示されていないので不明の点が多いが、07年に戸別所得補償法案を国会に提出したときの参議院農林水産委員会の説明では
“…現行のシステムに代えて行政が積極的に参加をする上で計画生産の枠組みを新たにつくる…その計画生産に従って米を作る農業者等に対して交付金を交付する…これが生産数量の目標でございます。…この生産調整へのただ乗りを許さないと、つまり、そこに参加をしない人に対してはこれを交付しないということ…” (07・11・1参院農水委での発議者高橋千秋議員の発言、議事録による)。
となっている。“民主は選択制”(筒井「次の内閣」農相の発言)なのである。メリット措置は生産費と農業者販売価格の差額補てんを中心とし米、麦、大豆等の主要作物について同様の措置をとるとしているが、生産費・農業者販売価格、とくに農業者販売価格の把握は、今日では一苦労となろう。販売農業者が喜んで参加するような、充分なメリット措置を講ずることができるのか、が大問題になる。
民主党は、戸別所得補償政策は2012年度からの実施を予定していた。制度設計を詰める必要があったからである。それを11年度から前倒し実施に変更した。一部品目でのモデル実施という案もあるそうだが、生産調整政策に空白期間が生ずるようなことは絶対に避けるべきだ。
長期日照不足、低温続きで、今年は不作になりそうである。改めて食料安定供給のあり方を皆で考え直すチャンスになろう。どの党の農政が安定供給になりそうか、投票に際し考えてほしい。
東京農工大学名誉教授