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時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

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(32)  自給率目標、達成のための議論を

・企画部会、再開に期待したが・・・
・なぜ、数値目標を掲げないのか?
・50%実現のための施策では?
・もっと危機感をもって

 10月9日、"農水省は8日、来年3月までに策定する「新たな食料・農業・農村基本計画」で、食料自給率(カロリーベース)目標を50%に引き上げる方針を固めた。??今月中に食料・農業・農村基本計画の企画部会を再開し、議論を本格化させる"と日本農業新聞は報じた。
 世界的な食料危機が国際的にも大きく問題になってきた状況下では、45%の自給率目標などは不可として、50%への引き上げを若林元農水相が提起したのは昨年4月であり、それに応じて50%引き上げ工程表を農水省が発表したのは昨年の暮れのことだった。

◆企画部会、再開に期待したが・・・

 10月9日、“農水省は8日、来年3月までに策定する「新たな食料・農業・農村基本計画」で、食料自給率(カロリーベース)目標を50%に引き上げる方針を固めた。??今月中に食料・農業・農村基本計画の企画部会を再開し、議論を本格化させる”と日本農業新聞は報じた。
 世界的な食料危機が国際的にも大きく問題になってきた状況下では、45%の自給率目標などは不可として、50%への引き上げを若林元農水相が提起したのは昨年4月であり、それに応じて50%引き上げ工程表を農水省が発表したのは昨年の暮れのことだった。
 ことの重大性からいって、元農水相の引き上げ提起があったときすぐにでも企画部会を開き、基本計画改訂に取り組むべきなのに、工程表づくりに時間を費やしたこと自体どうかしている、と私などは問題にしたものだが(08.12.20本欄)、変動する政局の中でその工程表すら棚ざらしになっていたのである。
 それがようやく日の目を見ることになるのか、50%どころか20年後60%といっている民主党政権下なのだから、企画部会は意欲的に取り組み、早く50%引き上げの改訂案をつくってほしいものだと、10.9報道を見て私などは考えたものだが、それはとんでもない早とちりだったようだ。10月21日、民主党政権になって初めての「食料・農業・農村基本計画」見直し審議のための農政審企画部会が開かれたが、そこには自給率50%引き上げの議題は提起されていなかった。


◆なぜ、数値目標を掲げないのか?

 企画部会に提出された「政策課題の整理の提案」には、“戸別所得補償制度、6次産業化など民主党マニフェストの言葉がずらり。出席した郡司副大臣は「与党の方針にしたがって改めて課題を整理していただければ」と今回の議論に期待した”(10.30本紙「農政レポート」)そうだがその「概要」はあれだけ高らかに謳いあげていた食料自給率引き上げの大目標、“生産数量目標”が設定された年度から起算して10年度に達した年度に50%に、20年度に達した年度に60%にするという大目標にはまったくふれていない。
 「食料自給率の向上」という柱は、ある。が、そこに書かれているのは、“戸別所得補償制度など各種施策の見直しの中で具体的な水準を設定”ということでしかない。
 順序が逆だろう、と指摘しておかなければならない。そもそも“各種施策を見直す”基準になるのが目標だろう。大目標達成にどれだけプラスになるかという基準で政策は見直されなければならないのであって、目標なしの施策見直しなどあり得ない。自給率を50%に引き上げるためには、まずは農家の人たちが意欲を持って農業に取り組めるようにしなければならず、“戸別所得補償制度などの各種施策”はそのための手段でしかない。何のための施策なのか、である。目標とする“具体的な水準”があってこそ“見直し”も可能になるのであって、逆ではない。
 前回もふれたように、私などは、食料自給率10年後50%、20年後60%と明確な長期目標を示し、その目標達成のために“各種施策”を組み立てるとしたことこそ、民主党農政で最も評価すべき点と考えているのだが、「概要」作成に当たった人たちはそうは評価しなかったからこそ、具体的な数値は後回しにしたのだろう。会議に出席した郡司副大臣もこの点についての発言は無かったそうだから、目標値などは重視していないということなのかもしれない。そんなことでいいのだろうか。

◆50%実現のための施策では?

 企画部会委員の茂木JA全中会長は、企画部会当日はカナダでの国際農業生産者連盟(IFAP)会合出席のため欠席、文書による意見表明を行ったが、その意見表明のなかには“政策目標の設定”という項目があり、そこには
  “食料自給率の向上は農地の利活用、担い手の育成・確保によって食料自給力を強化するとともに、戸別所得補償制度と合わせ品目別支援策を展開することにより、概ね10年後50%を目標にすべき。
と書かれていた。その通りだと思う。が、この意見表明も、読み上げられただけで、この点をめぐっての議論は全くなかったという。こんなことでいいのだろうか。


◆もっと危機感をもって

 昨年暮れに農水省が発表した前述の工程表は、50%自給率達成のためには、462万haの耕地を維持した上で耕地利用率を110%に引き上げることが必要としていた。が、09年の耕地面積は既に462万haを割り込み、460万9000haになってしまっている。耕地利用率も04年93.8%、05年93.4%、06年93%と低下の一途をたどっている。この4、5年0.45〜0.46%の耕地減少率が続いていたのにくらべれば08〜09年は減少率0.41%でほんの少し弱まったとはいえ、来年にも460万haを割り込むことになるのではないか。危機感をもって、しかも早急に50%引き上げ策を練るべきではないか。

【著者】梶井 功 
           東京農工大学名誉教授

(2009.11.06)