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時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

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(35) この予算で自給率50%は可能か?

・10年連続前年比減
・政治的態度が悪い!?
・必要な事業を吟味せよ

 平成22年度予算の委員会審議が始まった。92兆円という、これまで最高の予算が組まれている中で、農水予算は逆に前年比4%減の予算になっている。
 民主党政権が初めて導入した"事業仕分け"で、民主党がマニフェストに掲げた事業にかかわると思われる予算なども農水予算については切り込まれてしまったからだが、そんなことでいいのか。マニフェストともかかわらせて委員会ではしっかり論議してもらいたいものだ。2、3の論点をあげておきたい。

◆10年連続前年比減

 平成22年度予算の委員会審議が始まった。92兆円という、これまで最高の予算が組まれている中で、農水予算は逆に前年比4%減の予算になっている。
 民主党政権が初めて導入した“事業仕分け”で、民主党がマニフェストに掲げた事業にかかわると思われる予算なども農水予算については切り込まれてしまったからだが、そんなことでいいのか。マニフェストともかかわらせて委員会ではしっかり論議してもらいたいものだ。2、3の論点をあげておきたい。
 平成22年度農林水産予算として国会審議にかけられているのは、表の(3)概算決定額だが、事業仕分けにかかる前の要求額も念のため示しておいた。要求段階ですでに公共事業費の減額で対前年比マイナス6%の要求になっていることに、まず注意しておくべきだろう。“コンクリートから人へ”の民主党の主張に沿って、公共事業費を15%削った予算要求にしていたのに、“事業仕分け”で公共事業費がさらに切り込まれたのである。公共事業費は切り込まれたが、民主党が農政公約の目玉にしていた農家戸別所得補償制度についてのモデル事業を主とする食料安定供給事業関係予算が大幅に増えたことによって、概算決定額それ自体は要求額を439億円上回ることになった。
 が、前年度対比でいえば4.2%の減であり、十年続けて対前年比マイナスの予算要求になってしまっている。初の施政方針演説で“食料自給率の50%までの引き上げをめざす”と明言された首相の農林水産予算がこれでいいのか、委員会の場でまず論議してもらいたいことである。


◆政治的態度が悪い!?

 公共事業費は対前年度比34%の減だが、なかでも削減額が大きいのが農業農村整備予算であり、63%もの減になっている。林野公共が22%減、水産公共が37%の減で、林野公共、水産公共の減額も相当なものだが、農業農村整備費の減額は群を抜いている。灌排水なり農道整備という事業は、こんなに減額するほどに事業の必要性はなくなったといえるのだろうか。
 この点に関連して気になるのは、朝日新聞が報じた次の一幕である。

 “穏やかだった小沢一郎幹事長の口調が変わった。
 「だめだ。政治的態度が悪い。そんな所に予算をつけるわけにはいかない。」
 昨年12月8日、国会内の民主党幹事長室。衆院農林水産委員長の筒井信隆氏が土地改良事業の予算確保を要望した瞬間のことだった”(2.1付朝日新聞朝刊)

 土地改良団体のトップを自民党の先生方が占め、これまで団体推薦議員候補は自民党候補だった。土地改良事業が、今、農業農村からどれだけ求められているか、という判断よりも、“政治的態度が悪い”ことを問題にして予算を圧縮したままにしているのである。国の予算を、こういう判断で決めていいものだろうか。それで現実に困るのは事業を待ち望んでいる農業者であり、その多くが民主党を支持して政権交代になったことを、もう忘れているのだろうか。農林水産委員会でも議論してもらいたい。


◆必要な事業を吟味せよ

 “事業仕分け”が、農災法第12条を無視して“3分の1程度の予算要求の圧縮”を求めた農業共済事業については、さすがに法律通りにやれるように修正されて予算は組まれている。大幅に縮減された農業農村整備にかかる諸事業や廃止とされた他の諸事業のなかにも、復活を必要とする諸事業は少なくないであろう。
 前々回の本欄で“事業仕分け”を問題にした際、“歴史的意義はもはや終わった”と仕分け人から決めつけられ、国の事業としては廃止とされた農道整備事業について、「まだ農道整備を必要とするところは、多くは財政力の乏しい自治体の多い中山間地である。……そういう条件不利地の営農は縮小後退し、“原野化”してもかまわない、と考えているのだろうか」と疑問を呈しておいた。
 “廃止”と仕分けされた多くのモデル事業の中にも、例えば平成18年春の国会で可決成立した有機農業推進法に基づく有機農業総合支援事業のように、今こそ取り組む必要があるモデル事業もあるのではないか。農業政策を吟味し、“政治的態度”の如何にかかわらず、今、手を打つ必要がある事業は何か、それをどう予算化するかの真剣な論議を、農林水産委員会に期待したい。

平成22年度農林水産予算概算要求

【著者】梶井 功
           東京農工大学名誉教授

(2010.02.09)