“民主党の農林水産議員政策研究会・戸別補償制度検討小委員会…は、2011年度から本格実施する戸別所得補償の制度設計の検討で、米の転作作物への助成金を全国統一単価にした水田利活用自給率向上事業を抜本的に見直すことを確認した。全国統一単価では、各地の特色ある営農や産地化に十分対応できないと判断した。具体的な仕組みは今後詰め、農水省の政務三役に提言する。”(5.26付日本農業新聞)
賛成である。“全国統一単価では各地の特色ある営農や産地化に十分対応できない”ことに対する不満は、全国どこでも聞かされたことだった。慌てて激変緩和措置をとることにはしたものの、一年限りのこの措置では不満は消えなかった。JA全中が5月13日に発表した「JAグループ政策提言案」も“激変緩和措置がなくなることへの不安”を表明、“全国一律単価による支援にかえ、地域裁量に基づく水田農業の協同の取り組みを促進する対策も必要”と指摘していた。
議員政策研究会は、“11年度の本格実施から対象にする予定の小麦や大豆などの畑作品目については、標準的な生産費と標準的な販売価格の差額を補償する民主党の戸別所得補償の考え方を踏まえて制度設計する。地域による収穫量などの差が大きいことも考慮し、仕組みや交付単価を検討する”(前掲紙)そうだが、どういう地域政策が打ち出されてくるか、要注目というところだ。
◆大増産のための課題
農政にとって、地域政策が不可欠なこと、とくに自給率50%引き上げを最重要課題として設定したからには、かつての高耕地利用率地域の営農をどうやって再建するかという地域政策を重要課題にしなければならない。それなのに、新「基本計画」にはその言及が全く無いことを、前々回の本欄で問題にしておいた。議員政策研究会に集まった民主党の先生方が地域政策の重要性に注意を払われるようになった折でもある。もう一度、小麦を例に地域政策樹立の重要性を論じておきたい。小麦を取りあげるのは、新「基本計画」が小麦を多用途米、大豆とならんで主力増産作目としているからである。08年21万ha・88万トンの小麦生産を、20年には40万ha・180万トンにしようというのだが、問題はどこでどうやってこの大増産を実現しようというのか、である。まずはまだ50万haの小麦作付面積を保持していた1969年と2008年の小麦作付け地の地域構成を表にしておこう。
◆どこで小麦を増産する?
小麦産地がすっかり変ってしまったことにまずは注目すべきだろう。かつては、小麦は関東・東山、そして九州で6割以上が作付けられていた。が、今日、両地域の作付は全体の27%弱になってしまっている。替わって急速にその地位を高めたのは北海道であって、全体の半分以上を占めるようになっている。
その北海道の小麦作の7割以上は畑作小麦だということ、そして関東・東山、九州も含めて都府県の麦作は水田裏作だという決定的なちがいがあることが第2に注目すべき点だろう。表示は略したが、1960年ごろは、関東・東山にしても九州にしても畑作小麦が小麦作付の半分以上を占めていた。(田作小麦が多かったのは近畿、中国、四国)。それがすっかり変ってしまったということである。
北海道はこれからも畑作小麦を拡大するのだろうか、北海道の水田も小麦作拡大を期待するのだろうか。都府県では畑作小麦の復活を期待するのか、しないのか。明確な政策的判断が求められるところだが、どうするかで、当然所得補償のあり方も変ってくる。
もう一つ、単収の問題がある。新「基本計画」は作付面積は大幅増を計画しているが、単収は08年の10a422Kgを20年453Kgにすることを計画している。10年かけて7.3%アップで、たいしたことはなさそうに見える。
が、08年北海道の単収は468Kgだが、都府県の単収は364Kgでしかない。10年内に24.5%もの単収引上げは、相当な困難を伴うだろう。が、新「基本計画」は“パン・中華めん用の小麦の生産拡大(収量性に優れた良質なパン・中華めん用品種の育成・普及及び単収向上技術の普及)”を小麦について“克服すべき課題”にあげてはいるものの、特に都府県でこそ“単収向上技術の普及”が必要になることなどは、一言の言及も無い。一体どこで小麦増産をはかる計画なのか。
【著者】梶井 功
東京農工大学名誉教授