◆なぜ“待った”がかかるのか?
7月31日の日本農業新聞の報道によると
“農水省の食料・農業・農村政策審議会食糧部会は30日の会合で、米の備蓄制度見直しについて議論した。民主党政権が 目指す棚上げ方式の転換に向け、委員から「お墨付き」を得たい考えだったが、予想以上に反対意見も多く、思わぬ「待った」がかかった格好となった。”
という。
反対は“財政規律を重視する委員”諸公からで、“元財務官僚で、証券保管振替機構の竹内克伸社長は「財政負担が膨大になる」と述べた”という。“農業関係の委員からは、棚上げ方式への転換を歓迎する意見が相次”ぎ、“JA全中の冨士重夫専務は「(主食向けに売る)回転方式は価格に影響する。ぜひ棚上げ方式にすべきだ」と強調”したそうだ。
冨士専務の発言は、回転方式では米価低落になり、マイナスに“影響する”が真意だったのではないかと私は思うのだが、その危惧は“農業関係の委員”以外の委員には通じなかったらしい。“部会終盤には、通常は意見表明しない部会長の林良博・東京農大教授が「国民負担を減らすため、回転でできるものなら回転でやるべきだと思っている」と述べた”という。
◆何のための財政支出かを考える
棚上げの方が回転方式よりも“財政負担が膨大になる”ことは確かだろう。が、棚上げに移行しないで米戸別所得補償を実施すれば、米価低落が2〜3千億の財政支出を必要とさせるのに、40万トンの棚上げ備蓄にすれば850億円ですむという試算もJA全中は公表している。冨士氏らはもちろんこの試算なども示した上で棚上げ移行を主張したのであろうが、“元財務官僚”委員はこうした試算をどう評価したのか。
限りある財政のなかで、どういう政策に財政支出をすべきか、どういう政策を優先して財政支出を行なうべきかの選択が求められているのである。“財政負担が膨大になる”から反対だというのでは、答えになっていないことくらいは、本来そういう選択に当たってきたはずの“元財務官僚”なら知っていて当たり前と私は考えるのだが、如何なものか。
この選択に関連して、図を見てほしい。この図は参院選最中の6月26日の日本農業新聞に掲載された日本共産党の広告のなかにあった図である。
広告には、○政府米30万トン以上を買い入れ、米価を引き上げる。○価格保障と所得補償を抜本的に充実する。○農業予算1兆円の増額で、食料自給率50%を実現する。等々、それこそ“財政負担が膨大になる”政策が掲げられていたが、その財源についての言及はなく、この図についても何の説明もなかった。
が、説明抜きでも何をいいたいのかは充分にわかる。参院選では各党ともずいぶん政策宣伝の広告を出していたが、どの党の広告よりも明瞭にこの図が財政選択のあり方を示していると私には思えた。皆さんはどう判断するだろうか。
◆改めて問え 備蓄の意味
“回転でできるものなら回転でやるべきだ”という部会長の発言は、何を議論しているのかを全く理解していない発言というべきだろう。求められているのは米価低落にはならない備蓄方式の確立である。これまでの回転方式での運用が米価低落に拍車をかけてきたからこそその転換が求められ、審議会に転換方策の審議が求められているのに、“回転でできるものなら…”といういい方は、何だろう。問題の所在を全く理解していない発言とすべきなのではあるまいか。備蓄政策の意味を明瞭にしておくために本欄(36)(10.3.10本紙)で引用した古い拙文の再引をお許しいただきたい。
“備蓄は言うまでもなくいざというときの保険である。保険は無事だったら掛け捨てが常識だ。平年時には備蓄米を放出しなければならないような事態が起きなかった天の恵みを感謝して、古米は「品川の海へ放り込む」まではしなくとも――もっとも品川の海もなくなってしまったが――飼料用として払い下げるなり、途上国への援助に充てるなどして棚上げすべきなのである。そうしてこそ備蓄政策といえるのである。高橋是清に学ぶは、今からでも遅くない。”
民主党政権初代の農相赤松大臣が、回転方式から“飼料用などの非主食用への販売を基本にする「棚上げ方式」に転換する方向で検討していることを明らかにした”(2.10付日本農業新聞)のが2月9日の衆院予算委員会であり、3月5日の参院予算委員会では鳩山前総理が、米価下支え政策として“現行の「回転備蓄方式」から…飼料用などの非主食用への販売を基本にする「棚上げ方式」にする考えを示した(3.6付日本農業新聞)”。そういう因縁つきの政策課題であることを重ねて指摘しておこう。
東京農工大学名誉教授