◆このままでは日本農業崩壊のおそれ
平均年齢65.8才。この数字を見て“先は長くないな…”と、私はいささか暗然たる気持ちになった。9月7日、農水省が発表した2010年農業センサスの農業就業人口の平均年齢を示した数字がこれである。
戦後農業を支えてきた昭和一けた生まれの人たちも、2010年には全員70〜84才になった。リタイア或は死亡で農業就業からは消えてゆく人たちが増えざるを得ないのに、若い農業就業者の参入が少なすぎることから、農業就業人口は高齢化し、減少率を高めることになっているのである。15年前の1995年は、農業就業人口は414万人、平均年齢は59.1才だった。それが260万人、65.8才になってしまったのだから減少と、高齢化進行は近年ほど激しいことを注意しておくべきだろう。
平均年齢の動きからいえば95〜2000年が59.1才から61.1才へ2才の増、2004年?05年が61.1才から63.2才へ2.1才の増、05〜10年が63.2才から65.8才へ2.6才の増だし、農業就業人口数は95〜2005年の10年間に414万人から335万人へ79万人の減だったのが、05〜10年は335万人から260万人へ、5年間で75万人の減である。10年間の減少数とほぼ同じ数がこの5年間で減ったわけである。
減少、高齢化は近年ほど激しいということだが、高齢農業者の減少はやむを得ないとして、今すぐに若手農業者増加政策をとらない限り、日本農業は崩壊してしまう惧れ大としなければならない。
◆JAの取り組みにも期待
新規就業者助成政策の緊要性について、私はこの欄でも何回か取り上げさせていただいた。私ばかりではなく、『社長 島耕作』の原作者、弘兼憲史氏も“国は「サラリーマンよりちょっと有利な収入だ」と思わせるくらいの大胆な支援が必要だ”と論じていたし(08.5.13“日本農業新聞”)、政府文書では07年度農業白書が、“近い将来、昭和一けた世代をはじめ我が国農業を支えた高齢者の多くが引退することが見込まれ、農業労働者のぜい弱化が懸念される”とし、“新規就農者への支援措置を実施することが重要である”と指摘したこともあった。
白書の“懸念”が現実化しつつあることを10年センサスは明らかにしたのである。が、目下のところ農政にはこの問題について特設の施策を講ずるような動きはない。逆に、今年度予算で21億円を計上して実施途上にある「農の雇用事業」は来年度18億円に減らされることが報じられている。“農業法人等が新規雇用者に対して実施する基礎的な技術・ノウハウを習得するための実践研修(OJT研修)等の経費の一部を助成”するとして、1400人を対象に上限月9万7千円を最長12カ月助成するとしたこの事業、私などは“農業法人等”を対象にするだけではなく、さきの“懸念”払拭のために農家の後継者にも通用するように事業を拡大すべき、と考えていたのだが、その事業をも縮小するというのである。大事な問題、早急に手を打つ必要のある課題はどこにあるかを考えた上での事業縮小なのだろうか。
流石にJA全中は事態の深刻さに気付かれたのであろうが、“新規就農支援対策のあり方を今年度中にまとめるため、本格的な検討を始めた”と去る9月21日付け日本農業新聞が報じていた。
その会合が9月上旬に持たれ、そこでは“新規就農者をJAの臨時職員として雇い、月12万円の給与を支払う。就農直後で無収入の機会を経済的に支援するとともに、営農技術や経営手法を学ぶ機会を与えている”JA伊豆の国の実践例が報告されたという。
◆フランスの助成制度に学ぶ
全中は、JA伊豆の国のような“先進JAの現地調査を行い、それをもとに第2回検討会を開く。年度内に優良事例をまとめ、JAらしさを出した新規就農の手引書として成果をまとめる。各地での新規就農支援に役立てる方針”(前掲「日本農業新聞」)だそうだ。
各地の先進的取組みをまとめ、JAの“新規就農支援に役立てる”ことは、むろん賛成である。同時に、その“まとめ”をベースに、政策的支援のあり方も是非提案してもらいたいものである。そのために国内の先進事例ばかりではなく、1980年から10年就農する義務のもとに、日本円換算で単身で300万円、夫婦で600万円を交付しているフランスの青年農業者就農助成金制度(DJA)の成果、現状なども調査研究の上、政策提言してほしい。
この制度を始めたときのフランスの14〜24才の青年農業就業者は全体の7.8%だった。その頃、ドイツ10.1%、イギリス16.3%なのに、これでは問題だということで青年農業者就農助成金制度が始まったのだが、その頃、日本のその比率は79年3%、82年2%でしかなかった。が、その事態改善のための施策を日本の農政は講じてこなかったのである。ために今日の事態となったことに、反省を求める必要がある。
東京農工大学名誉教授