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時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

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(49) 前例にとらわれない大胆な復旧・復興策を

・スピード感が大事
・農地・債権の買い上げに注目
・農地再生、可否の調査を

 東日本大震災復旧対策費を中心とした2011年度第一次補正予算が4月22日、閣議決定された。
 総額4兆円、うち農林水産関係では3817億円が組まれている。財源の6割が"年金臨時財源の活用"になっていることなどを問題視する意見も野党にはあるようだが、財源問題は、第2次補正以降の、より多額を要するであろう本格的な復興予算編成の時にしてもらうとして、この第一次補正予算には、早急な対応が求められている仮設住宅等の災害援助費や学校施設等災害復旧費、農水関係では9割を国庫補助にするという除塩事業を含む農地・農業用施設災害復旧事業や漁港関係災害復旧事業などが含まれており、早期の着工が望まれていることからいって、早急な予算成立が望まれる。

◆スピード感が大事

 東日本大震災復旧対策費を中心とした2011年度第一次補正予算が4月22日、閣議決定された。
 総額4兆円、うち農林水産関係では3817億円が組まれている。財源の6割が“年金臨時財源の活用”になっていることなどを問題視する意見も野党にはあるようだが、財源問題は、第2次補正以降の、より多額を要するであろう本格的な復興予算編成の時にしてもらうとして、この第一次補正予算には、早急な対応が求められている仮設住宅等の災害援助費や学校施設等災害復旧費、農水関係では9割を国庫補助にするという除塩事業を含む農地・農業用施設災害復旧事業や漁港関係災害復旧事業などが含まれており、早期の着工が望まれていることからいって、早急な予算成立が望まれる。(除塩事業は農地などの災害復旧事業の対象外になっているので、土地改良法の特例をもうける準備もされている)。
 JAグループの東日本大震災復興・再建対策JAグループ中央本部が4月14日に発表し、政府及び与野党にその実施を働きかけている「被災地の農業復興、地域の復旧・復興と東京電力の福島第一原子力発電所事故対策を求める第一次要請」も“これまでの前例にとらわれず、大胆な政策を相当なスピード感をもって措置し、実行に移すことが不可欠である”としていた。その通りである。
 5月2日の成立を政府は期待しているそうだが、この原稿が載る本紙で、第一次補正成立の記事も是非見たいものである。

◆農地・債権の買い上げに注目

 “これまでの前例にとらわれ”ない“大胆な政策”の一つとして、JAグループの「第一次要請」は“国による農地や債権の買い上げ”をあげている。“被災した農地の被害状況を早急に把握”して、“再生可能な農地と不可能な農地の線引きを行”い、“再生可能な農地については、農地の再生とともに、将来の地域の担い手に農地を集積するために、国が弾力的に農地を買い上げ、その土地を希望農業者に貸し付けるなど、国による支援措置を講ずること”、再生不可能と“判定された農地については、国による買い上げや転用手続きの緩和などの特例措置を講ずること”、これが“国による農地”買い上げで対処すべきとしている内容、“壊滅的な被害を受けた農業者などの被災者が、経営基盤を立て直すとともに、取引先である地域企業・金融機関等の経営の安定・円滑な取引の復興などを図るため、国が壊滅的な被害を受けた被災者に関する債権・債務を整理”し、“被災時点の債務のうち生活・事業の再建を図る上で返済が困難な部分について、政府機関等による買い上げを実施し、超長期に渡り返済を棚上げし、自己資金の確保を実質的に事業者の自己資本として活用できる枠組みの整備”が“債権の買い上げ”の内容になる。
 超長期モラトリアム政策をとれ、ということである。

◆農地再生、可否の調査を

 “天災融資資金の実質無利子化、公庫資金等の無担保・無保証人での一定期間実質無利子化”する予算が第一次補正予算案にも組まれている。
 “実質無利子化”にせよ、借金は借金である。現にある負債に加えての更なる負債は大変な重荷になる。既存負債については“超長期に渡り返済を棚上げ”する措置、超長期モラトリアムの実施をJAグループが求めたのは被災組合員の重荷に悩む現実を見据えてであろう。
 この点について、新党改革の荒井参院議員は、「東日本大震災で被災した農家や中小企業にとって、二重負債は大問題だ。想定内の融資では想定外の事態に対応できない」として“被災した事業者の資産を買い上げる「再生操業」を提言する”そうだし(4.26付日本農業新聞)、民主党の一部では被災農家の既存負債を事実上“塩漬け”にする方策が模索されているらしい。“塩漬け”が本当に実施され、超長期モラトリアムを実現させたら、歴史に残る大施策となろう。実現してほしいものだ。
 農地の国による買い上げ、特に、“実質使用が不可能と判定された農地”の買い上げもそうである。
 津波被害を受けた農地のがれき除去、除塩、用排水施設の復旧でも3年はかかる。が、被害は津波にとどまらず地盤沈下を起こしたところもある。“実質使用が不可能と判定せざるを得ない農地”は、農地以外の用途にあてることにせざるを得ないが、その計画的利用のためには一旦は国有地にするのが最善であろう。“農地の被災状況調査”予算が一次補正に組み込まれているが、農地としての再生が可能か不可能かの判定まで調査は予定しているのだろうか。農業土木技術者を総動員してまずはそこから始めるべきだ。
 再生可能農地についてもJAグループ提案は“弾力的に…買い上げ”ることを言っているが、この点についてはJA自体が農地保有合理化事業の主体にもなれ更には営農も可能なことからいって、“弾力的”とはいえ“国による買い上げ”を今言うことについてはなお吟味が必要だろう。

【著者】梶井 功
           東京農工大学名誉教授

(2011.05.11)