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時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

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(50) 自民の担い手法案への期待と注文

・担い手育成のため民主も議論を
・体系的な制度となるか?

 5月29日、自民党が"農業の担い手の育成及び確保の促進"を目指す「農業の担い手の育成及び確保の促進に関する法律案」を国会に提出した。この法律案、"青年等の就農促進のための資金の貸付け等に関する特別措置法(平成7年法律第2号)、農業の担い手に対する経営安定のための交付金に関する法律(平成18年法律第88号)に基づく農業の担い手の育成及び確保に係る制度を見直す"(法案第1条)ことにしており、新規就農者だけでなく"現に農業の担い手である者を含め、これらの農業者が農業からその主な所得を得て、効率的かつ安定的な農業経営を継続できるようにする"(法案第2章)ことを狙っている。

◆担い手育成のため民主も議論を

 5月29日、自民党が“農業の担い手の育成及び確保の促進”を目指す「農業の担い手の育成及び確保の促進に関する法律案」を国会に提出した。この法律案、“青年等の就農促進のための資金の貸付け等に関する特別措置法(平成7年法律第2号)、農業の担い手に対する経営安定のための交付金に関する法律(平成18年法律第88号)に基づく農業の担い手の育成及び確保に係る制度を見直す”(法案第1条)ことにしており、新規就農者だけでなく“現に農業の担い手である者を含め、これらの農業者が農業からその主な所得を得て、効率的かつ安定的な農業経営を継続できるようにする”(法案第2章)ことを狙っている。
 “現に農業の担い手である者を含め”ることは、当然ながら、民主党が提案を予定している農家戸別所得補償法案と真っ向から対峙することになろう。対峙はいい。が、対峙をお互いの法案のけなし合い、潰し合いにするのではなく、真摯な討論を通してお互いのいい所をとり、10年も20年も続けられる農業所得安定法を作ってほしい。
 農業所得安定策として、法案は“農業の担い手として市町村の認定を受けたものに対し、稲作、畑作、園芸、畜産等の営農の類型、米穀、麦、大豆、野菜、果実等の農産物の種類、基幹作業の効率化の程度等に応じた農業経営の安定を図るための交付金を交付することその他必要な施策を講ずるものとする”としている(法案第9条第1項)。問題はこの交付金の算定方法、想定される単価だが、その点については、“農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律の規定等について…検討”して決めることになるらしいが、(同条第2項)そんなことでいいのだろうか。
 民主党の農家戸別所得補償法案がどういう法案になるのか、まだ定かではないが、08年に国会に上程された案では農業の担い手に対する経営安定のための交付金の交付に関する法律の“廃止”を言っていた(法案附則第2条)。09年衆院選での民主党の大勝は、“廃止”を言った民主党を農村票が選択したからだといってもいい、と私は論じたことがあるが(日本農業年報第56集所収拙稿)、“…交付に関する法律”のどこを検討しどう修正するつもりなのか、明確にする必要があろう。

◆体系的な制度となるか?

 大事なのはこの法案で、わが国では初めてといっていいが、“農業の担い手の育成”政策の体系的構築が意図されていることである。
 法律第3章基本施策のトップに掲げられている(新規就農に必要な資金の交付等)の条文を紹介しておこう。第8条である。

 第8条 国及び地方公共団体は、青年その他の者の新たな就農を経済的に支援するため、新たに就農しようとする者(親族が営む農業を承継しようとする者を含む。以下同じ。)で農業の担い手として市町村の認定を受けたものに対する就農に必要な資金の交付、当該資金の貸付けその他必要な施策を講ずるものとする。
 2前項の貸付けに係る制度については、貸付けを受けた者が一定の期間農業経営を継続した場合には、当該貸付けに係る債務の返済を要しない制度とするものとする。

 私はこれまで何度かこの欄で新規就農者確保育成策の重要性を論じ、青年農業者に10年の営農従事を条件に助成金を交付するフランスのDJA制度などに学んでしっかりとした助成策を講ずべきであり、弘兼憲史氏も言っているように“国は「サラリーマンよりちょっと有利な収入だ」と思わせるくらいの大胆な支援策が必要だ”と言ってきた。こういう法案が国会で論議されるのは大歓迎であり、これまた10年も20年も続くしっかりした制度にしてほしいと思う。しっかりした制度にするために注文を一、二つけておきたい。
 第一に、“資金の交付”、“資金の貸付け”“その他必要な施策”とならんでいるが、どこに力点がおかれているのか、である。青年等の就農促進のための資金の貸付け等に関する特別措置法は、それを“見直す”ことを法案第一条で言っているように、すでにある。第8条第2項がその見直しの重要ななかみになるのであろうが、そのほかにどんなことを“見直”そうというのか明確にすべきだ。
 第二に、“一定の期間農業経営を継続した場合には…債務の返済を要しない制度とする”というのは、極めて重要な施策といっていいが、それは交付金とどういう関係になるのか。“一定期間農業経営を継続”という条件は交付金にはつけないのか、明確にすべきだ。「…資金の貸付け等に関する特別措置法」では無利子となっている(第7条第1項)ことを考えれば、“返済を要しない制度”にするより、一定期間営農従事を義務づけての交付金の充実、フランスのDJAを超えるような充実を考えるべきではないか。

【著者】梶井 功
           東京農工大学名誉教授

(2011.06.20)