◆7つの戦略、どう実現?
第5回食と農林漁業の再生実現会議(7月12日)で、篠原農水副大臣から“我が国の食と農林漁業の再生のための中間提言の骨子”(案)が説明された。1,2,3,4の4部構成になっている“骨子”(案)の?がこの中間提言の核心部分といっていい箇所であり、「農林漁業再生のための7つの戦略」と題されている。“7つの戦略”は、篠原副大臣の説明によれば“戦略1は、競争力・体質強化。人と農地の問題”“戦略2は、競争力・体質強化の延長で…6次産業化を図っていく”、“戦略3は、エネルギー生産への農山漁村の資源の活用を促進”、“戦略4は、森林・林業再生”“戦略5は、水産業再生”、“戦略6と7が新たに加わったことで…戦略6は、震災を踏まえて、農林水産インフラの整備等をきちんとしていくこと、戦略7は、原子力災害対策に関連して”である。
ここで注目しておきたいのが戦略1についての副大臣の説明であり、こうなっていた。
戦略1は、競争力・体質強化。人と農地の問題でございます。
(1)担い手の確保は、フランスに青年就業者支援制度というものがあるので、こういったことを参考にいたしまして、特に新規参入者に対して手厚いバックアップをしてもいいのではないかということでございます。
(2)規模拡大の加速化は、先ほど20?30haというのがありましたけれども、農地を集約化していくべきではないかということでございます。
(3)関連組織・関連産業の在り方は、農協、農業委員会も問題があるということで、委員の方から、これは幹事会での議論でしたが、商工会議所、ほかの産業界とも連携を詰めていくべきではないかということがございます。(第5回「議事要旨」5ページ)”
◆新規就農者支援を
前々回の本欄で、私は自民党が5月29日に国会に提出、これから審議に入るはずの「農業の担い手の育成及び確保の促進に関する法律案」を取り上げ、この法律案は民主党が提案を予定している農家戸別所得補償法案と対峙することになろうことを指摘、“対峙はいい。が、対峙をお互いの法案のけなし合いにするのではなく、真摯な討議を通じてお互いのいいところをとり、10年も20年も続けられる農業所得安定法案を作ってほしい”と要望、特に新規農業者助成問題に関して次のように要望しておいた。
“私はこれまで何度かこの欄で新規就農者確保育成策の重要性を論じ、青年農業者に10年の営農従事を条件に助成金を交付するフランスのDJA制度などに学んでしっかりした助成策を講ずるべきであり、弘兼憲史氏も言っているように”“国は「サラリーマンよりちょっと有利な収入だ」と思わせるくらいの大胆な支援策が必要だ”と言ってきた。こういう法案が国会で議論されるのは大歓迎であり、これまた10年も20年も続くしっかりした制度にしてほしいと思う。”
◆本格的な政策議論を
「農林漁業再生のための7つの戦略」の真先に、“フランスに青年就業者支援制度というものがあるので、こういったことを参考にいたしまして、特に新規参入者に対して手厚いバックアップをして”いこうということを、政府の示す「中間提言」案の説明として農水副大臣が言ったことは、重要な意味を持つとしていいだろう。その後に発表された民主党の「食と農林漁業再生プラン〜農林漁業・農山漁村再生のシナリオ〜」[中間報告](11.7.26)でも“フランスにおける若者の就農支援策を参考にしながら、将来の日本農業を担う若者が夢を持って農業へ参入できるよう、戸別所得補償制度等に加え、経営確立までの間の経済支援等新規就農者に対する支援策の拡大を図る”ことが書き込まれている。民主党も本腰を入れて青年農業者確保対策に取り組もうとしているとみていいのだろう。ますます自民党提案の「農業の担い手の育成及び確保の促進に関する法律案」ととろうとする施策内容は同じになっている。“お互いのいい所をとり、10年、20年続けられる農業所得安定法を作ってほしい”と願わざるを得ない。
フランスの場合、DJA制度の効果であろう、農業主業者のなかでの40才未満の割合は1970年の15%から03年には29%に高まっている。日本の場合、40才未満の基幹的農業者割合は、85年の16%が09年には5%になってしまっている。にもかかわらず、新規就農者への援助は就農相談会やOJT研修、無利子資金の貸付け等でしかない。“フランスにおける若者の就農支援策も参考にしながら”どういう“支援策”が組み立てられるのか、注視していたい。
東京農工大学名誉教授