◆天候不順だけが原因か
2010年度の食料自給率(カロリーベース)は、前年度比1.2ポイント減の38.5%だった(8.11農水省発表)。
民主党政権下初の食料・農業・農村基本計画で、従来の45%目標は不可として、10年後50%への引上げを目指すとしたのは2010年3月だった。10年度農政は自給率引上げ初年度農政だったのである。が、引上げどころか逆に前年対比1.2ポイント減になってしまったのである。大問題といわなければならない。
が、農水省には大問題だという認識は弱いようだ。原因は“天候不順”にあり、農政の不十分のせいではないとしているらしい。日本農業新聞の報ずるところ(8.12付同紙)によると
“10年度の低下の要因を品目別に見ると、北海道の多雨や高温、九州の多雨などの影響で小麦の生産量が全国で前年度比15%減少。また北海道ではテンサイの生産量も不作で同15%減になった。(中略)
同省は「戸別所得補償制度の導入など食料自給率向上対策は順調に進めている」(食料安全保障課)とし11年度に本格導入した同制度に期待する。2年連続の自給率低下はいずれも天候不順が要因で、温暖化などによる天候不順に対応する品種や技術開発・普及も自給率向上への鍵となりそうだ。”
ということだが、そんな甘い見方でいいのだろうか。
◆耕地利用率の実態は?
簡単な数字を一、二あげておこう。まず農地面積だが、50%を目指した「基本計画」は目標年次(2030年)においても461万haの農地があることを前提にしていた。「計画」策定時の2009年が461万haだったから、農地面積は減らさないことにしていた――減ることはあってもその分は農地造成することにしていたのであろう。
が、実際には2010年全農地面積は459万3000haになってしまっている。前年比0.3%の減である。この農地面積の対前年比減少を05年からあげておくと、05年0.5%、06年0.4%、07年0.4%、08年0.5%、09年0.4%になる。10年0.3%は、ほんのちょっと減少率が鈍化したといえないことはないが、従来の農地減少傾向は依然として続いていると見るべきだろう。
耕地利用率は09年は92.1%が10年には92.4%とちょっと高まっている。1970年までは109%以上の耕地利用率だったのが、以降急落し、09年には92.1%になってしまっていた。それを2030年には108%にしようというのが自給率50%引上げを目指す「基本計画」最大のポイントだといっていい。
92.1%が92.4%になったことをもって耕地利用率低下傾向が上がたと評価していいとするなら、一歩前進としていいが、そういっていいだろうか。
確かに“戸別所得補償制度の導入など”で“米粉用をはじめ新規需要米の作付けが倍増するなど一定の成果を挙げた(日本農業新聞)”。が延作付面積は前年から横ばいである。農地面積減が耕地利用率をほんのすこし上げたに過ぎない。“食料自給率向上対策は順調に進めている”のではあろうが、この数字で“順調に進”んでいるとは到底いえないだろう。
◆構造的危機が進行
最大の問題は、農業生産を現実に担っている営農主体の劣弱化である。農業就業人口は農地面積の減少率よりもはるかに高い比率で減少し、2010年で2000年の2/3、261万人になってしまっている(耕地面積減少率はこの間に4.9%の減)。より以上に問題なのは高齢化の進行であり、2000年はまだ61.1才だったのが2010年には65.8才になっている。島根、広島、山口の3県は平均年齢が70才を超え、福井、岐阜、三重、岡山、香川の諸県は69才台になっている。若い農業後継者の参入が激減しているからであること、いうまでもない。
05年には20万人近くいた15?29才の農業就業は10年には10万人を切ってしまった。この状況を変えることなしには、自給率向上は望むべくもない。自給率38.5%には、50%自給率引上げどころではなく、自給率のさらなる低下をもたらす構造的危機が進行しつつあることを読み取るべきだろう。そういう観点での自給率低下要因の分析、そしてその対策の検討を農政当局に望みたい。
「基本計画」も新規就農者問題の重要性について全く認識していなかったわけではない。“幅広い人材の育成・確保を推進する”と一応言っていた。が、それとして有効な施策を欠いたことが問題を深刻にしたことを反省すべきだろう。10年後の新規就農者は前年度より約2割、1万2200人も減ってしまっている。
民主党が、フランスのDJA制度を“参考”にして青年就業者支援制度をつくることを言い出したのも、この点の反省に立ってであろう。どういう制度をつくってくるか、注目していたい。
東京農工大学名誉教授