シリーズ

時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

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(56) どうなっている? 三党協議

・政策効果の検証を急げ
・転作定着の課題は?
・補償基準の見直しを

 戸別所得補償制度は、どうなるのだろう。
 農水省の「平成24年度農林水産予算概算要求の概要」(平成23年9月)の"農業者戸別所得補償制度[特会・一般]"のところを見ると、平成23年度予算額と全く同じ額が平成24年度要求・要望額として記されている。外の事項については新規もあり、同じ事項でも前年度予算額とはちがった増減さまざまの額が記されているのに、である。

◆政策効果の検証を急げ

 戸別所得補償制度は、どうなるのだろう。
 農水省の「平成24年度農林水産予算概算要求の概要」(平成23年9月)の“農業者戸別所得補償制度[特会・一般]”のところを見ると、平成23年度予算額と全く同じ額が平成24年度要求・要望額として記されている。外の事項については新規もあり、同じ事項でも前年度予算額とはちがった増減さまざまの額が記されているのに、である。
 農水省としては、概算要求のこの段階では、戸別所得補償制度については、変更すべきことは何もないということのようにこの概算要求額からは見えるが、無論そうではない。戸別所得補償制度のあり方については、民主、自民、公明三党の合意(11・8・9)で“平成24年度以降の制度のあり方については、政策効果の検証をもとに必要な見直しを検討する”ことになっており、その“検討”結果が示されないので農水省としては予算の組みようがなく、前年度予算額をそのままならべている、ということなのである。
 その三党協議はまだ具体化していない。日本農業新聞の報ずるところでは、“民主党は10月中旬以降、実務者協議を始めるよう提案しているが、自民党は与党としての検証結果と方針をまず示すよう要求。これに対し、政府・民主党内の調整は本格化したばかりで、双方とも協議開始のきっかけをつかみあぐねているためだ。来年度で本格実施2年目となる戸別所得補償制度がどうなるのか、着地点は不明だ”(11月26日付同紙)という。困ったものである。

◆転作定着の課題は?

 戸別所得補償制度で私が最も注目しているのは、この制度によって水田転作作物と米の収益性がどう変化するか、ということである。
 転作が本当に定着するには、転作作物による水田農法の変革が必要だが、農法変革にとって作物間の収益性如何、転作作物の収益性が米を上回るかどうかが決定的重要性を持つと考える(拙編著「『農』を論ず」第?章を見られたい)からだが、この点について本格実施初年度の11年度実施に入る時点で農水省が示した資料は、飼料用米と加工用米を除くその他の戦略作物の10アールあたり所得がいずれも米を上回ることを“イメージ”として示していた。
 “政策効果の検証”を行うのなら、是非ともこれがどうなったのか“検証”をしてもらいたいものだが、そういう“検証”はまだやられていないようだ。農水省が三党の“検証”のために用意したと思われる「戸別所得補償制度に関する資料」(平成23年10月)のなかに、(参考)としてだが、“米の戦略作物における所得比較(10a当たりのイメージ)”という表が掲げられていた。最近の生産費調査などの数字を使って実施前にやっていたのと同じような計算をしたものだが、やはり飼料用米、米粉用米を除く戦略作物の所得が米を上回ることが示されていた。“イメージ”としてではなく、実際に転作を行い戸別所得補償を受けた農家でこの収益関係がどうなったかを知りたいものである。本格実施初年度になる平成22年度の生産費調査、経営調査の分析を急ぐべきだ。
 「資料」のなかに“経営調査のための効果”を示すものとして“22年度における加入者と非加入者との比較”があり、“米6割、転作(戦略作物―大豆4割の場合)”“米6割、転作(戦略作物=小麦)4割の場合”の10a当たり所得が、地域別・階層別に加入者と非加入者でどうちがっているかを示す表が入っていた。この表も21年の生産費調査や経営調査の数字などを組み合わせた計算であって、実態ではない。こういう計算も無論有意義ではある。しかし、22年度についてはもう実態を把握できるのではないか。

◆補償基準の見直しを

 「資料」のなかでもう一つ私が注目したのは、11月20日付本紙6面「データでみる水稲作付規模別の経営状況(戸別所得補償のみの場合)」として掲載された下図である。「資料」に「作付規模別の経営状況」(統括表)の参考として掲げられていた図だが、戸別所得補償を受けても、1ha以下ではまだ“経営費を賄えない状態”であり、1〜2ha層も“経営費は賄えるが家族労働費は賄えない状態”だということが示されていた。
 現行戸別所得補償の仕組みに欠陥があることを示すとしていいだろう。“経営費も家族労働費も賄える状態”になっているのは2ha以上層であり、米作付農家の9割は家族労働費は賄えないのである。
 所得補償基準の算定方法を変える必要があるのではないか。米の所得補償基準額を畑作物と同じように計算するのと現行方式では1俵当たり3400円もちがうし、自家労働費8割の全算入生産費をとっても2500円ちがう。せめて1ha以上の農家になれば家族労働費も賄えるようにすべきなのではないか。

米の所得補償基準額

【著者】梶井 功
           東京農工大学名誉教授

(2011.12.14)