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時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

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(59) 所得補償制度の恒久化を

・早急に検討を
・自民党案の問題点
・良いところは取り入れる

 2010年の農業経営体(個別経営)の1経営体当たり農業所得が、前年対比17・4%増の122万円になったことを、2月19日、農水省は明らかにした。
 7年ぶりの農業所得増である。

◆早急に検討を

 2010年の農業経営体(個別経営)の1経営体当たり農業所得が、前年対比17・4%増の122万円になったことを、2月19日、農水省は明らかにした。
 7年ぶりの農業所得増である。10年度に初めて実施された米戸別所得補償制度による交付金(1経営体当たり27万3000円)が水田所得を大きく押しあげたことによる。このことを踏まえて、同日、筒井農水副大臣は“「戸別所得補償制度の法制化を含めた制度の恒久化」にあらためて意欲を示した”という(12.3.1日本農業新聞)。
 久しぶりの朗報というべきだろう。戸別所得補償制度がモデル事業でこれだけの効果を示したのである。その法制化・恒久化を望まない農業者はいないだろう。本来は本格実施に移った11年度に法制化すべきことだったのに、予算成立を優先して法制化を先送りしていたことが、政策のあり方としてはそもそもおかしかったのである。“何時消えるかわからない予算措置では、経営計画もたてられない”ということを、何人もの方から聞かされていた。この実績を踏まえて“法制化を含めた恒久化”に、一日も早く取り組んでほしいものである。
 が、今開かれている第180回通常国会に民主党農林水産部門会議が提出を予定している法案は、株式会社農林漁業成長産業化支援機構法案、農山漁村における再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律案、競馬法の一部を改正する法律案、国有林及び民有林の一体的な整備及び保全を図るための国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する等の法律案の四法案にとどまり、農業者戸別所得補償法案は、12年1月18日の段階では、《「提出予定」以外で検討中のもの》としてあげられているにすぎない。早急に“検討”を終えることを望みたい。


◆自民党案の問題点

 “恒久化”のための法案がどういうものになるのか、民主党の案はまだ姿を見せていないが、自民党農林部会は、2月14日、「わが党の政策ビジョンと平成24年度予算(案)(農政関連)」の中で、この農業者戸別所得補償制度について、

 “所得制限も農家負担もないため「自助」の考え方に反する農業者戸別所得補償制度については、農家の所得水準を維持することを基本としつつ、固定部分を地域政策に、変動部分を農家の拠出を伴う産業政策に振り替え拡充を図る。
 実態を反映せず、かつ、国民全体の理解を得づらい農業者戸別所得補償制度の名称は用いない。”


と“見直し”方向を打ち出している。“固定部分は、(米・麦・大豆などに限らず)農地を農地として維持することに対し対価を支払う地域政策に、変動部分は農家の拠出を伴う収入減少影響緩和対策の拡充に振り替え拡充を図る”のだという。
 現行所得補償制度が対象にしているのは、“対象作物ごとの生産数量目標に従って、販売目的で生産(耕作)する「販売農家」、「集落営農」”だが、自民党のこの“見直し”は今の段階では対象について明らかにしていない。“生産数量目標に従”うことを条件にするのかどうかは大問題であり、明確にしてもらいたいところだが、そういう問題を残しているにせよ、こういう“見直し”要求が自民党から出されていることに、“制度の恒久化”を図ろうとする民主党はどう答えようとしているのだろうか。


◆良いところは取り入れる

 民主党は野党時代の07年に農家戸別所得補償法案を国会に提出したことがあるが、衆議院でのその法案審議の際、私は農林水産委員会(08.4.8)で参考人として意見を述べる機会を与えられた。その際、07年参議院選挙で民主党に敗れた自民党の選挙後の見直し農政が民主党農政に近くなっていることを指摘した上で、

 “そういう点からいいますと、あれがいかん、これが変だという形でけなしあうのではなくて、この法案の良いところをぜひ取りあげて、それを法律としてやっていただく。実体化していただく、それをお願いしたい”

と要望した。が、このときは、“良いところを…取りあげ”るような議論には全くならず、衆議院で否決廃案になってしまった。
 今回はどうなるのだろう? “農業者戸別所得補償制度の名称は用いない”と自民党の姿勢は堅いようだが、“平成24年度予算の組み替えを行うことにより、農業予算総額を大幅に増やしつつ…総合農政を実現する”といい、“政府の掲げる食料・農業・農村基本計画による食料自給率50%への向上へ具体的に踏み出す”としていることなどからは、弾力的な対応が期待できそうにも思える。お互いの案を“けなしあうのではなくて”良いところを取りあげ、所得補償制度の“恒久化”を一日も早く実現してほしいものである。

【著者】梶井 功
           東京農工大学名誉教授

(2012.03.09)